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 前回は、ADHDの女性リョウさんとその夫が、なぜか完成間際になって細部を埋めることが苦手であるという、いわゆる「完成させたくない病」について背景を探りましたね。

 その結果、原因として次の6点が明らかになったのでした。

 1)その場でさっと終わらない

 2)人に頼む必要があった

 3)やることの中に回避したいことが含まれていた

 4)新鮮味がなくなって飽きる

 5)完成させてしまうとそれで評価されるのが怖い

 6)完成させてしまうとまた他の仕事が来る

 今回は特に4)の「新鮮味がなくなって飽きる」について、リョウさんの夫が企画書を完成させるための対策をあれこれ実践してみました。

 リョウさんの夫が企画書を完成させようとする際に、最も障壁になっていたことは、全体のミスがないかを見直すことでした。一度自分で作った資料という新鮮味のないものに、再度目を通さなければならないという作業は、リョウさんの夫には苦痛でした。

アイデアその1:具体化してスモールステップにする

 これは見直し作業を細分化してスモールステップに分解することで小刻みに達成感を味わえるよう工夫することです。リョウさんの夫は、「ミスがないか見直し」という漠然とした作業を、具体的に考えました。

 ◆誤字脱字、数字に誤りはないか

 ◆主語を補った方がよいところはないか

 ◆二重の意味にとらえられてしまうところはないか

 このように明確にやることをリストアップすることで、「漠然と企画書を眺める」という退屈な作業も、多少メリハリがつきますし、少なくとも3工程のステップに分けて「すぐ終わる感」を味わえるかもしれません。実際のところ、リョウさんの夫は、このリストのチェックボックスにチェックを入れながら達成感を味わっていきました。

アイデアその2:見直すポイントを印づけておく

 企画書を最初に書いた時点で、Wordのコメント機能で「ここは自信ないな、あとから資料で確認して詳細を書き込もう」とか、「ここは誰かに聞こう」とか記入しておきます。

 全体に目を通して見直すよりは、コメントの印を手掛かりに見直す方がうんざり感を軽減できるでしょう。リョウさんの夫は、非常に飽きっぽく見直しの作業が苦痛でしかなかったのですが、この方法も加えることで、「よし、コメントのところだけやればいいんだ」と自分に言い聞かせ、重い腰を上げることができました。

アイデアその3:電源ドキドキ作戦

 ノートパソコンのユーザー向けなのが、パソコンの電源をあえて1時間分しか残さずに、コンセントにつながない状態で見直し作業をするというものです。「やばい! よそ見してる場合じゃない! 電源が切れてしまう!」という切迫感をゲーム感覚で楽しめる人ならば、これこそ新鮮味を復活させる方法だと思いませんか。

 とある企画書を仕上げるにあたって、またも「完成させたくない病」が発動しそうになったリョウさんの夫は、この方法を実践してみました。仕事のパソコンは6年間ずっと使用しているものでしたので、最近ではバッテリーのもちが悪くなっているためこの作戦を試すにはもってこいでした。せっかくここまでがんばって作成したデータが消えてしまわないようにとハラハラするだけでなく、時間の感覚を強く意識することにもつながったそうです。

アイデアその4:長時間いづらいカフェであえて仕事する

 今や高校生が勉強道具を持ち込むようなカフェが増えて、カフェ勉強は定着しつつあります。リョウさんの夫は今や、このような長居できる感じのカフェに行ってもネットに興じたり、ぼんやりしてしまったりして、気乗りのしない仕事をやりとげることができなくなっています。そこで、あえて、時々取引先の人と行く勉強向きではないカフェ(いわゆる純喫茶、昔ながらの喫茶店)を選んでみました。

 店内には誰もパソコンを広げている人はおらず、店員さんからの視線が気になって仕方なくなってきました。リョウさんの夫は1秒でも早く店を出るために必死で苦手な見直し作業を進めました。

アイデアその5:勉強向けのカフェであえて高い飲み物を注文する

 純喫茶ではさすがに企画書の見直しを1時間するのは気が引けて、かえって集中できないこともあります。そんなときは、勉強しやすいカフェで、いつもは決して頼まないような高い飲み物を注文するのはどうでしょう。「こんなに高いお金を支払ったのだから、これはなんとか仕上げて帰らないと元が取れないぞ!」とやる気を起こすことができるでしょう。

 ある日、やりかけの企画書を抱えてカフェに入ったリョウさんの夫は、いつもなら一番安いホットコーヒーしか注文しないのに、この日は大きなサイズでクリームのもりもりとした高い飲み物を頼みました。いつもの2倍以上の値段でランチの値段より高いぐらいです。先にそんな投資をしてしまうと、「それでも結局できなかった」という不全感を持ちながら帰りたくないものです。その値段に見合うくらいは進めてやるぞ!という気になりました。

アイデアその6:あえて駐車場料金の高い場所でする

 車をお持ちの方にオススメの方法です。あえて駐車場料金の高いカフェでこの作業を行うというのはどうでしょうか。早く終えなければ、とんでもない料金を支払う羽目になります。そうすれば、ぼーっとする暇なくとりかかれると思いませんか。

 さて、いろいろな対策を紹介してきましたが、書類仕事のほとんどは社外秘で持ち出し禁止のものが多いのも事実。次回は、こうした場合にも職場内で活用できそうな、飽きてしまった仕事へのやる気を出す方法をご紹介します。

生きるのがつらい女性のADHD
仕事も恋愛もつまずいてばかり……。
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<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。