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 「インフルエンザワクチンを接種してもインフルエンザにかかってしまった」という体験談をよく聞きます。シーズンによっても変わりますが、インフルエンザワクチンの有効率はおおむね40~60%ぐらいです。ワクチンなしだと10人がインフルエンザを発症するところを、ワクチンありだと4~6人が発症するのに相当します。つまり、ワクチンを接種してもインフルエンザにかかることは十分にありえます。

 ただ、だからといって、「インフルエンザワクチンには効果がない」という意見は正しくありません。10人が発症するところを6人に減らすという効果はあるのです。ただ、ワクチンのおかげで発症せずにすんだ4人はワクチンの効果を自覚することはありません。誰がワクチンのおかげで発症せずにすんだのかを特定することもできません。主観的な効果を実感できないことが「インフルエンザワクチンには効果がない」という意見が信じられる一因でしょう。

 ワクチンの効果を否定する人たちはよく「ワクチンに頼らず十分に栄養と睡眠をとって予防すればいい」などと言います。栄養や睡眠も重要ですが、十分に栄養と睡眠をとっても100%インフルエンザを予防するのは難しいです。単独の対策だけで100%予防できることなどめったにありません。

 私はよくシートベルトにたとえます。シートベルトをしていても交通事故で死亡することはあります。ただ、だからといって、「シートベルトには効果がない」という意見は正しくありません。ポイントは、シートベルトで100%死亡を防げるかどうかではなく、シートベルトをすることで死亡する確率が減るかどうかです。

 複数の対策を組み合わせるのが有効という点も、シートベルトとワクチンは似ています。シートベルト単独では交通事故死を防げません。エアバッグや自動ブレーキ、あるいは安全な運転を心がけるといった複数の対策を組み合わせる必要があります。インフルエンザ予防も、ワクチンだけではなく、手洗いといった日常的な感染予防や、十分や睡眠や栄養をとるといった複数の対策を組み合わせる必要があります。ワクチンを接種した上で、そのほかの対策も合わせてインフルエンザの予防につとめましょう。

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(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。