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 ワクチンはインフルエンザを予防するもっとも効果的な手段です。しかしながら、ワクチンを打ってもかかるときはかかってしまいます。報告によって差はありますがインフルエンザワクチンの有効率は40~60%です。ワクチンではインフルエンザは約半分しか防げません。ほかのワクチンと比較すると有効率の低さは明らかで、たとえば麻疹ワクチンはきわめて有効率が高く約93~97%ほどです。

 また、麻疹ワクチンは、通常は一生に2回接種すればほぼ十分な免疫がつくのに対し、インフルエンザワクチンは毎年接種しなければなりません。このようなワクチンは他にはありません。毎年接種する必要があるのは、インフルエンザウイルスには多くの型があり、また、非常に早く変異するためです。去年に流行したインフルエンザウイルスと、今年流行しているインフルエンザは、型が変わっています。なので、昨年にワクチンを接種したりインフルエンザにかかったりして免疫がついていても、今年も感染してしまうのです。また、インフルエンザワクチンは次のシーズンに流行するウイルスの型を予測して製造されます。あくまで予測ですので、外れるとワクチンの有効率が下がります。

 医学者も手をこまねいているわけではありません。多くの型のウイルスに効く「ユニバーサルインフルエンザワクチン」が開発中です。すばやく変異するとはいえ、インフルエンザウイルスにも変わりにくい部分があります。理論上は、多くの型のウイルスに共通する部分に対する抗体をうまく誘導できれば、変異したウイルスにも効果的なワクチンができるはずです。

 ウイルスの表面に存在する赤血球凝集素(HA)抗原と呼ばれるたんぱく質には「頭」と「茎」があり、通常のワクチンが標的にしている頭の部分は変異が早いのですが、茎の部分はほとんど変わりません。この茎の部分に対する抗体は、多くの型のインフルエンザウイルスと結合することが知られており、重症のインフルエンザに対する治療薬としても期待されています。茎の部分に対する抗体を免疫系にうまくつくらせることができればユニバーサルインフルエンザワクチンになります。

 HA抗原の茎の部分以外にもユニバーサルインフルエンザワクチンの標的候補となるウイルスの共通部分はいくつかあります。まだまだ研究途上であり実用化には時間がかかりますが、将来は、多くの型のインフルエンザウイルスに効果を発揮するワクチンが開発され、ワクチンを毎年接種する必要がなくなるかもしれません。

 ※参考:Nachbagauer R and Krammer F, Universal influenza virus vaccines and therapeutic antibodies., Clin Microbiol Infect. 2017 Apr;23(4):222-228.

《酒井健司さんの連載が本になりました》

これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

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(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。