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 「せきが出ます。肺がんが心配です。検査をしてください」といって受診される患者さんがいらっしゃいます。せきは肺がんの主要な症状です。ただ、せきの患者さんのほとんどは肺がんではありません。せきの原因は肺がん以外にも多くあります。たとえば、風邪、インフルエンザ、気管支炎、肺炎、肺結核、気管支ぜんそく、せきぜんそくなどなど。意外なところでは逆流性食道炎や副鼻腔(ふくびくう)炎もせきの原因になります。

 どうやって正しい診断にたどりつくのでしょうか。検査は確かに重要です。しかし、せきをしている患者さん全員に、胸部X線、胸部CT、インフルエンザ迅速試験、喀痰(かくたん)培養、喀痰細胞診、採血検査を行うわけにはいきませんし、その必要もありません。むやみに検査を行うのは、検査にかかるお金や時間、放射線被ばくなどの患者さんの不利益につながりますし、漫然と検査しても必ずしも正確な診断にはたどりつけません。

 検査する前に、さまざまな情報から診断の可能性を絞ります。たとえば、せきの持続期間。「一昨日からのせき」ならば風邪やインフルエンザの可能性が高そうです。逆に、「3カ月間続くせき」ならば慢性と言ってよく、肺がんの可能性は必ず考慮しなければなりません。せきに伴う諸症状も大事です。鼻水を伴うなら風邪や副鼻腔炎、高熱ならインフルエンザや肺炎、血痰(けったん)なら肺結核や肺がんの可能性が高くなります。

 患者さんの年齢や性別、喫煙習慣の有無も重要な情報です。同じ症状でも、非喫煙者の若い女性より、喫煙習慣のある高齢男性のほうが、肺がんである確率は高いです。どのような薬を飲んでいるのかも聞き出す必要があります。アンジオテンシン変換酵素阻害薬というタイプの降圧薬の副作用に空せきがあるからです。薬の副作用を見落とすと、いくら検査しても原因がわからないまま、せきが続くことになりかねません。

 医師はさまざまな情報を統合して、次に行う検査を(あるいは検査が不要であることを)検討します。根掘り葉掘り尋ねられるのは面倒だ、とっとと検査をしてくれ、と考える患者さんもいらっしゃるかもしれせんが、より正確な診断のために必要なことです。もちろん、呼吸音やリンパ節腫大の有無などの診察から得られる所見も大事です。その上で、必要かつ十分な検査を行います。

 現在の日本の医療制度において外来診療では検査を行えば行うほど医療機関がもうかるようになっています。患者さんも検査を受けるほうが安心なのか、さまざまな検査をご希望されることも多いです。医学的には必要性に乏しい検査が行われがちな現状があります。無駄な検査を避け正確な診断につなげるためにも、問診にご協力いただければありがたいです。

 なお、肺がんの症状はせきだけではありません。血痰、体重減少、微熱、息切れなどがあります。病名と症状は一対一対応はしていません。せきに限らず、これらの症状が続いたり、悪化したりするときは病院を受診してください。

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アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。