大きな行李(こり)は新橋まで預けてあるから心配はない。三四郎は手頃なズックの革鞄(かばん)と傘(かさ)だけ持って改札場(かいさつば)を出た。頭には高等学校の夏帽を被(かぶ)っている。しかし卒業したしるしに徽章(きしょう)だけは捥(も)ぎ取ってしまった。昼間見ると其処(そこ)だけ色が新しい。後(うしろ)から女が尾(つ)いて来る。三四郎はこの帽子に対して少々極(きま)りが悪かった。けれども尾いて来るのだから仕方がない。女の方では、この帽子を無論ただの汚(きた)ない帽子と思っている。…[続きを読む]

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