飯が済むと下女は台所へ下(さが)る。三四郎は一人になる。一人になって落付くと、野々宮君の妹の事が急に心配になって来た。危篤なような気がする。野々宮君の駆付け方が遅いような気がする。そうして妹がこの間見た女のような気がして堪(た)まらない。三四郎はもう一遍、女の顔付と眼付と、服装とを、あの時あのままに、繰返して、それを病院の寝台(ねだい)の上に乗せて、その傍(そば)に野々宮君を立たして、二、三の会話をさせたが、兄では物足らないので、何時(いつ)の間(ま)にか、自分が代理になって、色々親切に介抱していた。ところへ汽車が轟(ごう)と鳴って孟宗藪のすぐ下を通った。根太(ねだ)の具合か、土質のせいか座敷が少し震えるようである。…[続きを読む]

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