第2回 CSRを通して世界が見える
CSRが企業にとってどのような意味をもっているのか、代表的なテーマの一つである環境対策を例にとって、さらに考えてみましょう。
いかなるビジネスも、その企業が属するコミュニティが健全で、活気に溢れていなければうまくいかないことは言うまでもありません。目先の利益をあげる代償として自然環境を壊し続ければ、やがてその被害がコミュニティに及ぶ。その結果、コミュニティが不健全な状態に陥れば、ビジネスも立ち行かなくなるでしょう。
環境への負荷をほとんど省みなかった従来のビジネスのやり方からすれば、環境対策は余分なコストに見えますが、実は事業の「サステナビリティ(持続可能性)」を確保するための不可欠な投資です。社会への貢献は、結局は社会の一員である企業自身に返ってくることになるのです。
以前は、こうした環境対策をはじめ、様々な社会資本の充実は全て、国および地方自治体が担っていました。しかし、グローバル化に伴い、これら公的部門の力は相対的に弱まりました。いまや、各国のGDPのランキングに巨大企業の売上高を重ねると、多くの国家を押しのけて企業が上位に並ぶ。それとともに、公的部門が負っていた責任の一端を、企業が分担することが求められるようになったのです。
このように、CSRの重要性を高めたグローバリゼーションは、一方でそれぞれの企業を、「世界」というコミュニティの一員にしてしまいました。これまで日本という特殊なコミュニティで、日本流のビジネスを押し進めてきたわが国の企業も例外ではありません。ビジネスを持続させるためには、「世界」というコミュニティを健全に保つ責任をも負わなければならなくなったのです。
そうなって初めて日本企業は、難民対策、貧困対策といった、自分たちはおろか日本政府すら大きな関心を寄せていなかった問題が、海外企業にとってはCSRの大きなテーマになっていたことに気づかされます。例えば、世界には1日1ドル以下で生活している人が14億人もいると言われます。これを日本国内に置き換えて考えると、約2000万人が極貧の状態に置かれていることになる。そのことに目をつぶって、平然とビジネスを続けていいものかどうか。日本企業の意識は、間違いなく変わってくるはず、いや、変わらなければなりません。
このように、CSRに目を向けると、世界の企業の活動を通して、世界の人々が関心をもっていることが見えてきます。それと同時に自分自身、すなわち日本の企業や日本人が目を逸らしている現実が見えてくる。CSRは、わが国が国際社会でのあり方を見直し、あらたなステップを踏み出すためのよいきっかけともなるはずです。
- 末吉竹二郎
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国連環境計画 金融イニシアチブ特別顧問
東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。三菱銀行ニューヨーク支店長・取締役、東京三菱銀行信託会社(N Y)頭取、日興アセットマネジメント副社長を経て、国連環境計画金融イニシアチブ特別顧問に就任。著書に『最新CSR事情』(泰文堂)、『有害連鎖』(幻冬舎)、『カーボンリスク』(北星堂書店)など。TBS「みのもんたの朝ズバッ!」月曜レギュラーコメンテーターとしても活躍中。