第4回 未来から発想する「バックキャスティング」のすすめ
変化の大きいこの時代、ピンチをどうチャンスに切り替えて乗り切るか、大事なのは、経営層の未来を読み取る力、予見する力である。環境問題はじめ、多くの社会問題が山積する現在、今までのやり方や考え方、過去の成功体験の延長線上では答えは見つけられないし、場合によっては淘汰されてしまう企業もあるだろう。今こそ必要なのは、まったく異なる発想と価値観の転換である。
経済的な側面だけではなく、社会的、環境的な側面から企業の未来の姿を明確にするビジョンがCSRの視点から重視されている。このビジョン策定に有効なのは、未来から発想するという試みだ。これは、スウェーデンの環境NPOであるナチュラル・ステップが提唱している考え方で、彼らは「地球の人口が増え続け、エネルギーや食料、水不足が懸念される世界の中、企業も自然界と人間社会の循環の法則にしたがって事業を行わなければ持続できない」と警鐘を鳴らしている。
ナチュラル・ステップでは、この未来からの発想法を「バックキャスティング」と呼んでいる。直訳すると「後ろを振り返り、視野を広げて見る」であるが、なかなか的を射た日本語がない。プロセスとしては、未来(例えば、2020年〜2050年)にこうなりたいというあるべき理想の企業の姿(ゴール)を先に考えて、そこを起点に今から何をすべきかのアクションプランを具体化していくことだ。
ナチュラル・ステップのWEBサイトより引用
超長期目標を立てる際に非常に実践的な方法ということもあり、今までもスウェーデンの環境目標(2021年の持続可能性目標)やEU諸国の環境政策立案をはじめ国家レベルの政策立案、日本でも国土交通省の国土形成計画法の下案や環境省の低炭素社会ビジョン策定で活用されている。
クレアンでもこの考え方を提案し、パナソニックや新日本石油、味の素やキリンビールなどの多くの企業の長期ビジョン策定時に採用されている。また、エプソンが2008年6月に発表した長期環境ビジョンでは、「2050年までに商品とサービスのライフサイクルにわたるCO2排出量を10分の1とし、地域社会とともに生物多様性の修復と保全を行う」ことを宣言しているが、これもまさにバックキャスティング手法の応用である。
こうした試みによって、今まで使っていなかった部分の脳細胞を活性化し、創造力を広げたり、いろんな智恵をつなぐことができるはずだ。「持続可能で幸せな未来社会に向けて企業が重要な役割を果たすため」にも、長期的なCSRビジョンは必須である。ぜひ、多くの企業に、この未来からの発想法をおススメしたい。
- 薗田綾子
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兵庫県西宮市生まれ。
甲南大学文学部社会学科卒業。1988年、女性を中心にしたマーケティング会社クレアンを設立。1995年、日本初のインターネットウィークリーマガジン「ベンチャーマガジン」を立ち上げ、編集長となる。そのころから、環境ビジネスをスタート。1996年 「地球は今」10巻シリーズを創刊。
現在は伊藤忠商事、住友林業、富士ゼロックスなど延べ約240社のCSRコンサルティングやCSR報告書の企画制作を提供。
NPO法人サステナビリティ日本フォーラム事務局長、NPO法人社会的責任投資フォーラム理事、有限責任中間法人環境ビジネスウィメン理事などを務める。