2010年2月28日1時54分
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金融危機でどん底に落ちたアイスランドで新たな問題が起きている。大手銀行の経営破綻(はたん)によって口座が凍結された英国とオランダの預金者保護に、どこまで税金を投入するかだ。当初案は「負担が大きすぎる」と国民の反発を買い、3月6日に国民投票が行われることになった。身の丈に比べて肥大化した金融の後始末に、北欧の小国はいまだ苦しんでいる。
■4800億円弁済「負担重すぎ」
1月2日午前、アイスランドの首都レイキャビクの郊外にあるグリムソン大統領の自宅を、1千人を超える抗議行動の人々が取り囲んだ。「アイスランドは非常事態だ」とのメッセージを込め、参加者らは発煙筒を掲げた。
その一人、高校教師のヨハネス・スクラソンさん(37)は、面会に応じた大統領に訴えた。「子どもたちの未来の問題だ。これでは国が倒産してしまう」
問題になっているのは、アイスランドの3大銀行の一つ、ランズバンキが展開したインターネット銀行「アイスセーブ」の後始末だ。高い利息を武器に英国とオランダの客を増やしてきた。
ところが2008年秋の金融危機で、アイスランドは深刻な打撃を受ける。ランズバンキ本体は破綻し国有化。国内預金が守られる一方で「アイスセーブ」の外国向け預金は凍結された。約30万人のアイスランドの人口を上回るまでになった約40万口座の外国人預金の保証問題が持ち上がり、英国とオランダ両政府は預金者への弁済に踏み切った。
両国はその返済をアイスランドに求めている。アイスランド議会は昨年12月、15年間かけて国内総生産(GDP)の半分近い最大34億ポンド(約4800億円)を支払う法案を通した。年5.55%の固定金利もついてくる。負担が重すぎるとして国民に反発が高まり、人口の5分の1にあたる6万人の反対署名が集まった。
国民の怒りは、バブルに踊った銀行や監督できなかった政府だけでなく、英、オランダ両国にも向かう。反対署名した毛皮店経営エグルト・ヨハンソン氏(56)は「まるで戦後に賠償金を求められたドイツのようだ。両国は我々が払える範囲に抑えるべきだ」と言う。
反発に押され、グリムソン大統領は1月5日、法案への署名を拒否。法案の是非が国民投票に持ち込まれる異例の展開になった。
青くなったのは内閣だ。国民投票で「ノー」となれば、約束が守れない国だとして国際金融市場から信用を失い、国際通貨基金(IMF)からの融資も滞る恐れがあるとする。「投資されなくなり、政府財政もきつくなる。アイスセーブどころではない負担が生じる」(マグヌスソン経済相)。法案の練り直しが必要になるが、英、オランダも、国民も納得する返済方法を見いだすのは容易ではない。
スカルプヘイジンソン外相は今、IMFの融資継続を後押ししてもらうため、クリントン米国務長官に会談を求めている。「米国だけではない。日本とも話をしたい」
アイスランドの政治評論家のエギル・ヘルガソン氏は国民投票に理解を示しつつも、ナショナリズムの高まりを懸念する。「この議論に伴い、反ヨーロッパ感情が強まってきた。国が孤立するのではないか、との恐れも出ている」
■銀行資産、GDPの10倍超
何が悪かったのか。
危機直前の08年初め、ロンドン大学のアン・サイバート教授は、アイスランドの金融問題を調査してほしいと、ランズバンキから依頼された。調べて「ぞっとした」。銀行の資産がGDPの10倍を上回っており、借り入れは大半が外貨建てだった。取り付け騒ぎが起きたら、小国の中央銀行では支えられない。「IMFに助けを求めるべきだ」。そうアイスランド側に主張したが、当時は受け入れられなかった。
アイスランドの銀行は03年までに民営化を終えると、海外展開に走った。金利の安いユーロや円などでお金を借りまくって国内で貸し、海外投資にも振り向けた。05年からは借り入れに頼りすぎてはいけないと預金が重視される流れが強まった。だが、ここでも頼りは外国顧客で、危機直前までに外国預金は大幅に増えた。
「アイスランドの銀行は最終的に、大きすぎて政府が救済できない規模になった」。09年9月に公表された経済協力開発機構(OECD)の報告書はそう総括している。
金融機関がいかに国境を越えて活動しても、破綻すれば尻ぬぐいは国家がするしかない。そこに国民世論との摩擦が生じている。。(レイキャビク=有田哲文)
■国民投票で意見、金融利益反せぬ―グリムソン大統領
問題は、銀行の無責任な行動のために一般の納税者が、相当の財政負担を求められているということだ。納税者には意見を言う権利がある。
国民投票で法案を否決したら国が信頼を失うというのは、危険な考え方だ。それなら少数のエリートが物事を決めればいい、ということになる。長い目でみれば国民投票は金融の利益に反するものではない。(談)