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いちからわかる人民元―なぜ米中関係の焦点に?

2010年4月14日1時2分

図:  拡大  

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 中国の通貨・人民元を巡り、米中両国の駆け引きが続いている。中国の為替政策が米中関係の焦点になっているのはなぜなのか。日本経済にはどんな影響があるのかを整理した。

■安い相場、なぜ問題?

 中国の通貨・人民元は日本円やドル、ユーロと異なり、買いたい人と売りたい人の動向に応じて自由に相場が動く仕組みになっていない。

 「管理された変動相場制」と呼ばれ、例えば対ドル相場の場合、1日の取引での変動は、中国人民銀行(中央銀行)が毎朝公表する基準値の上下0.5%の範囲に制限されている。

 基準値は、取引に参加する銀行への聞き取りなどを参考に決めるとしているが、過程は不透明で、人民銀が事実上決めているとの見方が強い。

 中国は2005年7月に為替制度改革を実施し、人民元の対ドル相場を約2%切り上げた。事実上の対ドル固定相場制をやめ、ユーロや円を含めた複数通貨の動きを参考に調整する「通貨バスケット」制度に切り替えた。1日の変動幅制限もその後07年にいまの0.5%に緩和した。

 これらの改革で人民元の対ドル相場は緩やかに上昇。これに合わせて中国は、経済の輸出依存体質の改善に取り組んでいた。

 ところが、金融危機が深刻化し始めた08年夏ごろから、人民銀は「元売りドル買い介入」を強化。人民元相場を1ドル=6.83元前後で動かないようにした。

 中国はこれにより、米国などからの注文が減って窮地に陥り始めていた自国の輸出企業を助けた。

 一方、米国企業はドルが割高になり、中国企業との競争や対中輸出で不利になった。海外への輸出増で失業問題を解決したい米国にとっては痛手で、米議会が人民元切り上げを強く求めるようになった。

■切り上げ方式、一気?徐々に?

 05年の為替制度改革の時と同様に一度に数%切り上げるやり方と、08年夏ごろまでと同じような緩やかな上昇を再開するやり方がある。

 一度に大きく切り上げると、輸出企業への影響が大きくなりすぎる恐れがある。一方、緩やかに上昇させるやり方だと、人民元がこの先ずっと上がり続けるとの観測から、「熱銭(ホットマネー)」と呼ばれる投機的な資金を中国国内に招き入れてしまう難点がある。

 中国はこうした政策変更を、為替制度改革の一環と位置づける方針だ。制度改革であることを強調するため、1日の取引での変動幅拡大という制度変更を加える可能性が高い。

 実施時期については、市場では「いつあってもおかしくない」との見方も根強い。一方、米財務省が15日を期限にしていた「為替操作国」認定の判断が先送りされたことから、5月下旬に北京で開かれる予定の米中戦略・経済対話などをにらみ、輸出の回復やインフレの状況をふまえて判断する、との見方もある。

■日米中への影響は?

 中国は「人民元上昇は、中米の貿易不均衡問題も、米国の失業問題も解決できない」(胡錦濤・国家主席)との立場を繰り返し強調してきた。英紙フィナンシャル・タイムズも6日付の社説で「名目の為替相場の変動は(中国の)対外収支にささやかな影響しか与えない」と指摘した。

 米国が過大な経常赤字を抱え、中国など新興国が過大な経常黒字を膨らませ続けるといった世界的な不均衡は、金融危機でいよいよもたなくなった。

 人民元相場が上昇しても、米国民が多額のローンを借りて消費し過ぎる姿勢を改め、貯蓄の度合いを引き上げ、景気対策で一段と膨らんだ財政赤字を縮小していかないと、米国の経常赤字は縮小できない規模にある。

 中国側も、高い貯蓄率を引き下げて消費に回し、内需を拡大する努力が必要となる。

 日本への影響では、中国に工場を構え、米国に製品を輸出している日本企業には、人民元の対ドル相場上昇は不利になる。ベトナムなど中国に代わる製造拠点への移転が進む可能性もある。人民元切り上げがドルに対する円高を誘う「連れ高」を懸念する声も市場にはある。

 一方、元財務官の渡辺博史・国際協力銀行経営責任者は「特定の通貨の動向による連想ゲームが1日2日は起きるかもしれないが、(円の「連れ高」が)トレンドになることはないだろう」と話す。この場合、人民元は円に対して上昇していくので、日本の製品を中国に輸出するなら輸出価格が下がって有利だ。逆に中国の製品を日本に輸入するなら、輸入価格が上がり、不利になる。

 ただ、輸出企業でも中国産の原料を輸入して製品をつくる場合や、輸入企業でも中国のメーカーが海外から買った原料で作った商品を輸入する場合は人民元上昇の影響は相殺される。

 日本総合研究所は、中国の外国に対する購買力が上がるため、日本への観光客数が増加したり、中国資本による日本の企業買収や資本参加が活発になったりする可能性があると分析している。

 日本を訪れる外国人旅行者を将来的に3千万人まで増やす目標を掲げる観光庁の溝畑宏長官は「少しでも低コストで来ていただけるということは、観光客を誘導するうえでは非常に重要」と、円安効果に期待を込める。(琴寄辰男=北京、福田直之)

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