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2012年11月6日
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はたらく気持ち

同期会の幹事は勝ち組か?

文・田中和彦

 「盛大な同期会を行うことになったので、一緒に幹事をやってほしい」。今年の春、Hさん(52)に、以前勤めていた会社の同期からメールが届いた。社会人になって30周年を迎えるにあたり、退職者も含めてみんなで集まりたい、という内容だった。

 Hさんが18年間在籍したその会社は、ベンチャー気質の教育関連企業。100人近くいた同期の多くは転職したり独立したりして、今も会社に残っているのは3割程度だ。在籍組だけの幹事ではバランスが悪く、OB組の代表として依頼したいという。

 だが、秋に予定された同期会の日はあいにく仕事が入っていて、幹事のみならず出席すらも断った。乗り気がしなかったし、正直、同期会どころじゃなかった。2回の転職を経て、3年前に受験コンサルタントとして起業したが、客から次々と契約の打ち切りを伝えられ、生活のために、塾の講師のバイトでも始めようかという状況だったのである。

 そんな中、ソーシャル・ネットワーキング・サービスには同期会のページが立ちあがり、なぜかHさんも強引に登録させられた。消息がわからなかった者も次々に情報が投稿され、出席予定者は逐一更新された。幹事会の活動報告は異様に盛り上がっていて、そこには出世頭として最初に役員になった同輩も参加していた。「結局、幹事は勝ち組か……」と、完全に背を向けてしまった。

 同期会当日。欠席していたHさんに、次々と電話がかかってきた。「仕事が終わったらすぐ来い」「来るまで帰らないぞ」。渋々、2次会から顔を出すと、いきなり「よ、社長!」の連呼。最初はそのノリについていけなかったが、徐々に数人ごとの近況報告会に落ち着いた。

 アニメキャラのコスプレ姿で司会をした女性は、退職後20年近く専業主婦だったが、「こんなに楽しいのは久しぶり」と何度も口にした。聞くと、親の介護で毎日大変な思いをしているらしい。乾杯の音頭を取ったのは、転職先でリストラの憂き目に遭い、就活中の男。名簿づくりを進めた幹事の一人は悪性の病魔と闘っている。誰もが、個人的に何かしらの問題を抱えながら明るく振る舞い、互いに元気を与え合っていたのだ。

 Hさんは、「自分だけが不幸」とすねていたことを恥じた。何より、十数年のブランクも一瞬にして飛び越えてしまう仲間の存在が、本当にうれしかった。「オレも頑張らなくちゃ」。心からそう思い、みんなに誓った。「次の会の幹事は必ずやらせてもらいます!」

プロフィール

田中 和彦(たなか・かずひこ)

 人材コンサルタント、映画プロデューサー。1958年、大分県生まれ。リクルート社の「週刊ビーイング」「就職ジャーナル」などの編集長を務めた後、映画業界に転身。キネマ旬報社代表取締役などを経て独立。02〜07年、beでコラム「複職(ふくしょく)時代」を連載。近著『断らない人は、なぜか仕事がうまくいく』(徳間書店)など著書多数。

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