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2011年11月25日
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賢者に聞く グローバル時代の経営術

グローバル時代の今、経営者は「ぬるさ」から脱却せよ

聞き手・冨田秀継(ZDNet Japan編集長)

写真:一橋大学イノベーション研究センター・センター長の米倉誠一郎教授(撮影:冨田秀継)一橋大学イノベーション研究センター・センター長の米倉誠一郎教授(撮影:冨田秀継)

 前回、一橋大学イノベーション研究センター・センター長の米倉誠一郎教授の話をもとに、日本企業がグローバル化するにあたって抱えている課題を二つに分けて整理した。

 今回は米倉教授に成熟しきった日本市場を前に、企業が取るべき行動を聞いた。米倉教授は、経営者は日本特有の「ゆるさ」から脱却し、事業に対して強くコミットする必要があると提言している。

●単発の技術ではなく総合力をもったソリューションの発揮を

 かつて日本の国内需要を支えた日本のベビーブーマー(団塊の世代)は、いまや60歳を超えた。しかし、出生率の低下を反映して、そのジュニアたちは親の世代の半分しかいない。日本にかつての巨大な国内市場が存在しない今、企業ができることは二つしかない。一つは国内外の市場の丹念な「掘り起こし」であり、もう一つは「成長する市場を目指す」ことだ。

 しかし、市場の「掘り起こし」で日本は大きなミスを犯した。それを価格競争で行ったのだ。これが自滅する原因となり、日本の家電製品は競争力を失ってしまった。

 日本はプレミアム(付加価値)を目指すべきだったのだ。例えばそれは、テレビが他の家電製品やインフラと連携し、社会や生活全体をマネジメントして、より豊かな生活や安全、安心が得られるといったように。そのためにも「単発のテクノロジー」だけでなく「ソリューションベースのテクノロジー」で総合力を発揮することが必要だ。それは日本の得意な分野でもある。

 一方、新たな「成長する市場を目指す」には、新興国に打って出るしかない。インドネシアは約6%、中国にいたっては約8%もの経済成長率を達成している。つまり10年後にはさらに拡大が予想されるマーケットで、自分たちの存在感を発揮することだ。そこに日本企業がグローバル化に向かうべき必然がある。企業のトップは、決意と気概をもってこれに取り組むべきなのだ。ところが、そのコミットメントの薄さが日本の弱点となっている。

●競争力を削ぐ日本企業の「ぬるさ」

 強いコミットメントを出せない背景には、日本企業が抱える問題がある。一つは「経営者の責任の所在」だ。2年連続で赤字を出しでもしたら、アメリカの企業なら即クビだ。しかし、日本の経営者がその責を問われることは少ない。また、1%や2%の成長率でまかり通るのも世界の中で日本企業だけだ。

 そんな甘い環境にいながら、さらに決断できないでいる。そこには、日本企業の「ぬるさ」があると思う。

 日本の経営者は事業を絞り切れない。絞り切れないから、利益率が低くなる。その原因は、口実としている「株主の圧力」ではなく「雇用」だ。利益率が悪くても多くの雇用を抱えながら泳ごうとするから浮上できない。製品では勝てるが、コスト分析してみると間接費で勝てないのだ。それらはすべて、今の日本のコスト競争力に現れている。

 もう一つの問題は「ディシジョン(決定)のスピード」だ。とにかく多くの日本企業は、ディシジョンが遅い。それを妨げているのは中間管理職だという人がいるが、ミドル層に経営的決定を求めるには無理がある。よしんばミドル層に問題があったとしても、トップにはそれを変える権限がある。つまり、ディシジョンの問題はトップの責任に尽きるのだ。

 また、日本企業の間違いは、誰からも反対意見が出ないような「傷のない」ものを選ぼうとすることであり、決定の実現よりもコンプライアンスに偏重する傾向が強いことだ。コンプライアンスで重要なのはプロセスの透明性。経営的な決断とは主観的なものであるから、トップのコミットメントを認めるとすれば、ある程度の偏りはやむをえない。経営的決定は多数決では決まらないことを自覚するべきだろう。

●企業の成長に重要なのは「戦略の継承」

 近年、最も大きなイノベーションを果たした企業にIBMがある。

 IBMは1990年に過去最高益を記録したが、1993年までにコンピュータ業界の様相は一変し、160億ドルの赤字が見込まれるという消滅の危機に直面した。自らの巨体をもてあまし、孤立した企業文化、そしてIBM自身が誕生に一役買ったはずのPCによって、時代の犠牲者となりつつあったのだ。まさにそんなとき、IBMに送り込まれたのがルイス・V・ガースナー氏だった。

 アメックスやナビスコで経営手腕を奮ったガースナー氏は、マネジメント(経営)のプロとしてふさわしい働きをした。彼は1993年4月から2002年3月までIBMの会長兼CEOを務めたが、その間、それまで8割もあったハードウェア事業への依存を2割に減らし、サービスの比率を8割まで拡大させ、経営を増収増益に転じさせた。

 さらにIBMは、生え抜きであるパルミサーノ氏の代で「Smarter Planet」というコーポレートビジョンを提唱し、クラウドコンピューティングの先の世界を示した。そして今、さらなる成長を目指して、また新たなCEOを迎えようとしている。

 企業が四半期ごとの短いスパンで成果を測定され、厳しい評価を下されるのは、行き過ぎた金融機能の発達によるものであり、それが企業の成長を妨げているという意見もある。しかし、その中であってもIBMのように成長している企業が現実としてあるのだ。むしろIBMのように、トップが強くコミットメントして自らをイノベートできる企業だけが、グローバリゼーションの時代に生き残っていけるのだろう。そして、そこで最も重要なことは、連続して戦略を繰り出す継承の部分にあると考えている。

プロフィール

冨田秀継(とみた・ひでつぐ)

1977年、北海道生まれ。IT専門誌、週刊誌、IT系オンラインメディアなどに携わり、現在は朝日インタラクティブ株式会社が運営するIT専門ニュースサイト「ZDNet Japan(ジーディーネット・ジャパン)」編集長を務める。いま話題の「クラウド・コンピューティング」の導入事例(http://japan.zdnet.com/cloud/case−study/)や、「ビッグ・データ」の解説(http://japan.zdnet.com/cio/sp_bigdata2011/)など、企業のIT活用を支援する製品・サービス情報を提供している。

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