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2011年12月9日
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賢者に聞く グローバル時代の経営術

ジレンマを明らかにし、数字で決断せよ IBMが説くグローバル経営術

聞き手・冨田秀継(ZDNet Japan編集長)

写真:日本アイ・ビー・エム株式会社 戦略コンサルティング担当 執行役員 ヴァイス プレジデント 金巻龍一氏日本アイ・ビー・エム株式会社 戦略コンサルティング担当 執行役員 ヴァイス プレジデント 金巻龍一氏

 「グローバリゼーションという言葉には3つの意味がある」――そう語るのは日本アイ・ビー・エム株式会社 戦略コンサルティング担当 執行役員 ヴァイス プレジデントの金巻龍一氏だ。

 本特集「賢者に聞く グローバル時代の経営術」の第3回となる今回、グローバル時代の組織の諸形態を分析しながら、グローバル企業の経営術を紹介したい。

●多国籍企業とグローバル企業の違いとは

 冒頭、金巻氏が述べた「グローバリゼーションという言葉には3つの意味がある」という発言は、グローバル時代の組織形態は3種類に分類できると言い換えられる。金巻氏の発言をもとに整理すると、その3種は(1)国際企業(インターナショナル)、(2)多国籍企業(マルチナショナル)、(3)グローバル企業(グローバリー・インテグレーテッド・エンタープライズ、GIE)――となる。

 日本企業を例にすると、(1)国際企業(インターナショナル)は、本社機能が日本国内にあり、海外支店が製品の製造や販売などの一部機能を担う形態だ。「精度が高い日本の製品は海外からの需要が大きかった。そこで貿易が促進され、国際的なビジネスが拡大した」と金巻氏。貿易を軸に「企業の国際化」が叫ばれた時代の形態といえよう。

 こうした海外のニーズに合わせ、国外の拠点を増やしていく段階は(2)多国籍企業(マルチナショナル)の時代だ。アメリカ本社から指示が飛び、世界中の拠点が命令に従う。指揮命令系統のはっきりした、従来型の外資系企業を想像できる。金巻氏によれば、2002年頃までのIBMも多国籍企業だったという。

 では、今のIBMは多国籍企業ではないのだろうか。グローバル企業を紹介する前に、この第3の形態が登場した背景を説明したい。

 金巻氏によれば、グローバル企業が登場した背景には「新興国の勃興」というトレンドがあるという。「新興国に新たな市場が次々と誕生すると、グローバルでポートフォリオを組まなければリスクが生じるようになった。つまり、一個所に軸足を置いていると変化に対応できず、競合相手に遅れを取ることになるのだ」(金巻氏)

 「今までは洗濯物を干すために晴れるのを待っていたとしよう。しかし、少しでも時間を無駄にせず、より多くの洗濯物を干したければ、天気を予測し、晴れている場所を探して移動しなければならない。これこそIBMが『グローバリー・インテグレーテッド・エンタープライズ』(グローバル企業)と呼ぶ第3のグローバリゼーションだ」(金巻氏)

 グローバル企業の時代、グローバル化の意味は「海外に出ること」(=新しい市場を取ること)から、「リスクマネジメント」や「機会損失をいかに無くすか」へと狙いが変わる。

 また、個々の従業員は世界中で変化を感じ取り、持ち寄った意見を戦わせ、今後の方向性を話し合い、一気に形を変えることが必要になる。金巻氏はこの形態を「地球を一つにしたポートフォリオ系の最適化経営だ」と定義する。

●「前提」を議論していては変化に対応できない

 金巻氏は「最適化経営をめざすためには、そもそもの前提に『変化』も含めておく必要がある」と強調する。

 グローバル時代にあっては、「どうあるべきか」に囚われている間に経営環境が変わり、実行時には最適ではなくなってしまうという課題がある。グローバリゼーションの難しさとは、そういった環境の変化に対応し続けなければならないことにあるのだ。

 金巻氏は、意思決定のための「コミュニケーションプロセスの整備」が重要だという。これが整備されていなければ、世界各国に散在する人材を統括できない。

 「これは問題ではなく前提だ。グローバル化が上手く進まないという企業の多くは、こうした前提となるものまで含めて問題視しすぎており、問題があるうちは手が打てないとしていることに原因がある。そのため、議論ばかりに終始してしまい、準備が一向に進まないことになる」(金巻氏)

 では、問題が生じたことを何を持って把握し、どのように解決するのだろうか。金巻氏は、前者については「ジレンマを明らかにすること」、後者については「見える化」が必要だと語る。この場合の見える化は、透明化というよりも「数値化」だという。

 全世界共通の製品を生産し、低コストで一気にシェアを取りたいたいという意見がある一方で、その国特有のニーズに合わせて製品を生産し、より付加価値を高め、高値で販売したいという意見があったとする。前者は大量生産で大量販売、低コストでシェアを取りにいく戦略であり、後者は高コストながらも単価は高く、売上への貢献が期待できる。どちらが正解とは言えず、それぞれの選択にメリットもデメリットもある。金巻氏は、こうしたジレンマをきちんと明らかにして、徹底的に議論することが重要だと語っている。

 そして「どちらか一方を選ぶ」という意思決定にあたっては、数値化が役に立つ。数字には「話し合う」ための材料という役割があるからだ。グローバル企業にとって、数字なくして計画やガイドラインを策定することはあり得ない。原因を追求して問題を解決するための「たたき台」としての役割も果たすという。

 「数字があるからこそ、それがどのような意味を持つのか、徹底した議論ができる」と金巻氏。日本企業では数字なしに「わかる」ことが求められるが、グローバルな世界でそれは不可能だとも言う。

 また、「任務を担った者には現状を説明する責任がある。その際、選択肢にどのようなジレンマがあるのかを説明することが重要だ。そのためにも数字が必要となる」と強調しており、数値化は決して一従業員と無関係ではないとも語っている。

●グローバリゼーションへの対応 正解はない

 グローバル時代、経営には「ゆらぎ」も必要だ。

 鉄壁の管理をしようとすれば、世界規模の官僚組織を構築することになる。一方、現地法人の意見ばかり聞いていると、スケールメリット(規模の利点)を失ってしまう。したがって、常にスケールメリットと地域特性のバランスを調整し続ける必要がある。

 ここで重要なのはバランスの調整を「分析」すると失敗してしまうことだ。「バランスは生き物のように、時とともに変化する」(金巻氏)からだ。

 金巻氏は、「いわゆる『冷徹』な外資系企業のイメージは、たしかに俯瞰的にはそれに近いものがある」と述べる。一方で「グローバリゼーションにおける基本思考は『組織は生き物』だということ。人間中心の組織を作ることによって、グローバルレベルで最適化できる。議論と理解を繰り返すことで、世界中に点在する組織をまとめながら、事業を拡大しつつ継続させていくことができる」という。

 「日本企業の方々からは、グローバリゼーションで何が正しいのかとよく聞かれる。正解はわからない。IBMを含め、それぞれのグローバル企業は運営しながら試行錯誤し、変化しているからだ。グローバル化のもうひとつの重要な課題は、自らがどのような問題を抱えているか、その本質を掘り下げて認知し、解決のために決断することでもある」(金巻氏)

   ◇

次回掲載は12月23日の予定です。

プロフィール

冨田秀継(とみた・ひでつぐ)

1977年、北海道生まれ。IT専門誌、週刊誌、IT系オンラインメディアなどに携わり、現在は朝日インタラクティブ株式会社が運営するIT専門ニュースサイト「ZDNet Japan(ジーディーネット・ジャパン)」編集長を務める。いま話題の「クラウド・コンピューティング」の導入事例(http://japan.zdnet.com/cloud/case−study/)や、「ビッグ・データ」の解説(http://japan.zdnet.com/cio/sp_bigdata2011/)など、企業のIT活用を支援する製品・サービス情報を提供している。

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