
コロナ禍でも会員数を伸ばすDMM英会話 時代にはまったブレない魅力
いつかはやろうと思っている英会話。でも、どこの教室がいいのか、どんな違いがあるか分からず、先延ばしにしているうちにコロナ禍になった、という人も多いはず。
海外旅行にいくことも難しくなって、英会話教室も経営に苦労しているのではと思いきや、オンラインのDMM英会話は会員数が伸びているといいます。
DMM英会話と聞いて思い浮かぶのは、おぎやはぎの矢作さんが出演する印象的なCM。でも、どんな授業をして、どんな仕組みで運営しているのでしょうか。運営する合同会社DMM.com英会話事業部の担当者に聞いてみると、巣ごもりで元気を失いがちな今の時代にマッチしたDMM英会話ならではの魅力と、それを生んだ事業の原点が見えてきました。
この記事の取材先

坂根健太郎さん
東京都生まれ。青山学院大学・大学院にて経営工学を専攻。Biprogy株式会社(旧 日本ユニシス)にてシステムエンジニアとして従事後、大手不動産投資会社で経営企画・投資業務に携わる。その後経験したフィリピン留学をきっかけに、フィリピン人を講師とした英会話ビジネスに可能性を感じ、2012年より創業メンバーとして「DMM英会話」に参画。以後、経営企画及びDMM英会話のグローバル展開ブランド「Engoo」 の立上げでアジア・ヨーロッパを奔走し、世界中の講師やスタッフと共にDMM英会話の運営基盤を作り上げる。2021年4月よりDMM英会話代表に就任。
累計会員数100万人突破なぜ選ばれる
2021年8月に、無料登録会員を含めた累計会員数が100万人を突破したそうですね。
なぜ、コロナ禍においても、会員数を伸ばしているのでしょうか。
坂根健太郎代表:有料会員数は、2019年3月からの3年間で約1.4倍になりました。好調な理由としてまず言えるのは、パンデミックにより自宅で過ごす時間が増えたため、家でできるものとして選んでいただいているということですね。映画やドラマなどの動画配信サービスと似たような事象が起きています。
それから、ユーザー調査で明らかになった理由があります。パンデミックが世界中で起きているということもあり、レッスン中に先生とユーザー双方で『今日の感染者数は、昨日より増えてしまった』『こちらはロックダウンになりそう。大変だけど頑張ろうね』などと励ましあう会話が増えているそうです。会社や学校に行く機会が減り、人と話す時間も少なくなったけれど、レッスンでは先生と話せる。英語教育を受けるというより、誰かと話して心を休ませたいユーザーも多いようです。
他にも多くのオンライン英会話がある中で、選ばれる理由はなんでしょう。
坂根代表:DMM英会話は、世界120カ国・1万人以上の講師をそろえ、時差を利用することで24時間365日レッスンを提供しています。先生の国籍が多様だと、ライフスタイルも様々で、会話に広がりが生まれやすいですよね。ユーザーだけでなく先生側にも定期的に調査を実施しているのですが、先生たちからも『ユーザーとの会話を通じて心にゆとりが持てた』という回答が多いんです。

交流をすることがモチベーションになっているということですか。
坂根代表:先生と話したいからレッスンを受ける。それって素晴らしいことだと思いませんか。ビジネス英会話や資格の勉強よりよっぽど価値のある、私たちの財産のひとつであると思っています。英語を勉強するというより、誰かと話したい、といった日常的な動機のほうが継続につながると思うんですよね。
私たちも日常的に日本語を話しているから日本語を忘れないわけです。私の知り合いでは、外出を自粛して誰とも話さなかったら、1週間ぶりにコンビニに行ったとき何を言えばいいのか忘れたという人がいました。日常的な動機から1日25分、英語を話すことを習慣にしていけば、英会話スキルの向上に自然とつながっていくと思います。
120カ国に1万人以上の講師 管理や育成は?
世界各地で1万人以上もの講師を確保し、育成していくのは大変ではないですか?
坂根代表:事業を開始した当初は、講師をサポートする拠点がフィリピンだけだったので、朝6時から夜2時までのサービスでした。東ヨーロッパのセルビアに新しく拠点を作ったことで時差を利用した24時間のオペレーションが可能になりました。今の形態になるまでは創業から3年くらいかかりましたね。
フィリピン、セルビアの拠点は講師を採用する機能も兼ねているんです。フィリピンやアジア圏の先生はフィリピンの拠点が採用し、その他の国はセルビアの拠点が担当しています。
採用基準は、もちろん英会話講師なので英語能力は必須。その点をクリアしたらトレーニングを受けていただきます。私たちの採用チームは、所属する社員のほとんどがもともと講師だった人たちなんです。経験をもった元講師がデモレッスンを通じて新しい先生を育成することにより、なるべく早く戦力になってもらえるようにしています。

授業はどのような教材で行っているのでしょうか?
坂根代表:英会話はジムと同じで続けるのが難しいとよく言われます。飽きがこないように日替わりのコンテンツも用意しており、オリジナル教材の一つ『デイリーニュース』では世界中のニュースを日々更新しています。
田上英恵PRチームマネージャー:どの教材で学ぶかは、ユーザーの英語レベルや興味次第。レッスンを予約するタイミングで、自分のレベルに合った教材を選べる仕組みになっています。『デイリーニュース』のほか『旅行と文化』や『ビジネス』、『キッズ英語』、『世界の文学』など幅広い教材を用意していて、どれも1レッスン25分で完結するように企画開発されています。
ブレない魅力 原点は逆転の発想
2013年に英会話サービスを開始されました。きっかけがあったのでしょうか。
坂根代表:DMM英会話は、合同会社DMM.comの会長兼CEOである亀山敬司の直下で新しい事業をやってみようという『亀チョク』と呼ばれる取り組みから始まりました。当時は東日本大震災の発生から約2年経つころで、このままじゃだめだ、何か新しいことを始めてみようという機運がありました。そこでDMM英会話の前代表の上澤貴生(現DMM英会話シニアアドバイザー)が亀山にオンライン英会話事業を提案し、人を集めていきました。私も創業時に加わったメンバーの一人です。
コミュニケーションの楽しさを前面に出す姿勢は、どこからきているのでしょうか。
坂根代表:正直に言うと、最初はそうせざるを得なかったというところもあるんです。私たちは英会話事業においては後発組です。新規参入者として、既存のプレーヤーたちがTOEICなどの点数アップや資格取得、英語を使う会議で発言できるようになりましょう、といったことを掲げるなか、どのように違いをだして勝負していくかという戦略の面もありました。
DMMのカジュアルな社風も影響していると思います。英会話教室を運営する会社には、自らを教育会社としているところも多いですが、私たちはあえてそうしていません。Education(エデュケーション、教育)とEntertainment(エンターテインメント、娯楽)をかけ合わせたEdutainment(エデュテインメント)でやっていこうと言っています。

コロナ禍の中、2021年10月に「世界中とおしゃべりしよう」という新しいブランドメッセージを発表されています。これは、時代に合わせ戦略を見直したわけではないのですね?
田上マネージャー:私たちの中では創業当初から、英語を教えるサービスというより会話を楽しむサービスであるという認識が強かったんです。会話をするために世界中の人をつなげる。共通言語が英語であるというだけです。
広報として、楽しんでもらうサービスだということを強調するとともに、定期的にユーザー調査も実施してきました。すると、継続理由では『趣味』『日課』が多く、学習意識があまりないんですね。始めるときは『資格取得』や『海外留学』といったスキルアップを目的にされる方も多いのですが、いざやってみたら人との会話が楽しくて続けていますという方が半数以上を占めていたんです。
2021年3月には、広報戦略の一環として「コロナ禍での会話に関する調査」を発表しています。コロナ禍前後で、調査対象となった20~50代の男女のうち約6割の方が、人との会話が減ったと回答された一方、SNSやビデオ会議などオンラインツールの利用は激増していました。
当時、DMM英会話では1カ月のレッスン数が約109万5000回と、およそ45.6万時間もの会話量を創出していました。会話量調査の結果も見てやはりDMM英会話の強みは人との会話で得られる楽しさであると再認識し、ブランディングとしても一度ちゃんと打ち出そうという話になったため、「世界中とおしゃべりしよう」という言葉にその思いを込めました。
坂根代表:もちろん、DMM英会話のレッスンを重ねてTOEICの点数が上がったとか、海外出張で役立ったという声もいただいています。でも、最も大切な目的としては短期的なものではなく、一貫して楽しさを掲げています。

英会話が苦手な日本人 その原因は…
人との交流がコロナ前に比べ圧倒的に減ったなか、先生との会話を楽しいと思えたら、たしかに無理なく続けられそうです。それでも根強い英会話への苦手意識がやってみたいと思う気持ちを邪魔します。
学生時代、英語は記者にとって得意科目でした。でも、いざ喋ろうとすると、緊張して単語が出てこなくなります。だから、会社員時代は海外関連の仕事が出てくるとすかさず机に辞書を積み上げ始めるなど「英語できませんアピール」に全力を注ぎ、英語を使う業務を振られないように立ち回っていました。同じように、成績はよくても話せないという人は、たくさんいるのではないでしょうか。
日本人は英語を話すことが苦手だとよく言われます。どうしたらよいと思いますか?
日本では英語を話す機会が少ないというのが一番の理由だと思います。私はいま40代ですが、少なくとも私の時代には中学・高校でスピーキングを教わった記憶がありません。多くの人が受験勉強の一環として英語を学んでいますよね。受験英語で問われるのはほぼ読み書きの能力だから、日本人にはスピーキングという経験が欠落しています。
一方で、文法や読解に関しては、他の英語を母国語としない国に比べて決して劣っていない。大学受験まで英語を勉強した人は、辞書を使えばきれいな文法の文章を書けるし、英文も読めるという人が多いと思います。実はそうした方がDMM英会話を利用すれば、スピーキングが飛躍的に伸びるという結果がユーザー調査でも出ているんです。
私自身も受験のために英語を勉強し、社会人になってからはTOEICを受けるなど細々と勉強はしていましたが、英会話はできませんでした。DMM英会話の海外拠点をつくるためにフィリピンに行ったとき、TOEICは800点台だったからそんなに悪くないはずなのに、フィリピンの人たちと話すのがつらかった。話そうと思うと言葉が出てこないんですよね。
今は話せるようになったんですか?
坂根代表:ネイティブレベルとは言いませんが、仕事でフィリピン、アメリカ、ニュージーランドなど世界中の人と英語でやり取りできています。不自由なく、言いたいことを伝えられていると感じています。長期間留学したことはありません。仕事のために外国の方と接する機会が多かったということはもちろんあると思いますが、DMM英会話のレッスンを受けて、英語を話すことにだんだん慣れていきました。
日本人は、洋画の俳優のように流暢に喋れないと英語を話せると言ってはいけないんだ、という変な完璧主義があるような気がします。我々の社員にも中国やタイなど色々な国籍の方がいますが、英語を話せますかと尋ねると、堂々とYes, I can.と言います。流暢な英語ではありませんが、仕事でコミュニケーションするのに差し支えありません。
私の経験から言えるのは、恐れずに英語を使うのが大切だということ。外国の方が日本語を話すとき、流暢でなくてもコミュニケーションが取れるならいいと思うんです。逆も同じ。英語が流暢だったらかっこいいかもしれませんが、そうじゃなくても多くの人は分かろうとしてくれます。
英会話業界の現状や、DMM英会話さんの今後の目標について教えてください。
坂根代表:英会話業界の最近の傾向として、語学教室がオンライン事業を始めたり、逆にオンライン英会話を提供していた企業がオフラインで教室を設立するといった事例が増えています。オンラインとオフラインが混ざり合いながら、市場が大きくなっているというイメージを持っています。
DMM英会話としては、さらに講師のバラエティを充実させるなど、世界中とおしゃべりする楽しみを増やしていきます。まだお伝えできないこともありますが、ユーザーの方々に楽しいと思ってもらえるような新たなサービスも始めていきます。そうした取り組みを通して、DMM英会話を長く続けていってもらえたらうれしいですね。
実体験も交えて話してくださった坂根代表の言葉には共感できました。よく「日本人の英語はダメ」と全否定するような話も聞きますが、これまで学んできた文法や読解も無駄じゃなかったのかなと思いほっとしました。
取材を通して、DMM英会話の印象が「英会話サービス」から「世界をつなぐコミュニケーションツール」に変わりました。これまでは英会話と聞いただけで構えていましたが、英語力向上は副産物に過ぎないと思うと、気持ちも楽になります。お金を払うからにはペラペラにならなければもったいないと気負うのではなく、世界中に知り合いをつくってみようかくらいの気軽な気持ちでいいのかもしれません。そのほうが長く楽しく、続けていけそうな気がしました。
初回公開日:2022/04/28
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