遠藤乾

遠藤乾えんどう けん

東京大学大学院法学政治学研究科教授
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最新コメント一覧

  • 公務員が「親戚」に 新疆で何が起きたのか ウルムチ騒乱から13年

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年7月5日10時53分 投稿

    【視点】 政治の世界で「兄弟(国)」とか「親戚(制度)」とか家族のターミノロジーが使われるときには気を付けたほうが良い。たいがい、支配や抑圧を隠すための道具でしかない。  主権国家システムは、中で無秩序を抑え、外には無法な侵略を押し戻すのに有力だ。実は多元的な価値観が世界的に併存する点ではリベラルな価値観にも合致する。しかし、国内とされる領域の中で(人種的・民族的・宗教的・性的等)少数者を「主権」的に抑圧する事態がたびたび起きる。主権国家システムの宿痾のようなものだが、この手の問題にはあまり有効ではない。  ここでは、テロ撲滅の名目で無秩序に戦うとしながら、実のところ中華民族(「親戚」)イデオロギーのもとで、ウイグル民族独自の生き方が否定される。それに対して、内政不干渉の原則が立ちはだかり、国外の国や勢力は微力にとどまる。  それでも、自由の抑圧を糾弾し、少しでもそれが緩和する方向に動くのをやめてはならない。自由の対語は奴隷(制)。どこであれ、人間に上下を作り、奴隷を認めるのは、自己否定だ。  国連のバチェレ人権高等弁務官の訪問は不発に終わった。ウイグルへの抑圧に関与する企業の洗い出しも不十分。それでも外からやれることはゼロではない。中でそれを批判的に見ている漢人もいる。

  • ロシアは「最大かつ直接の脅威」 NATO首脳会議、対応策を協議へ

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年6月29日0時55分 投稿

    【視点】 残念ながら2022年は画期になってしまった。NATOにおけるロシアの位置づけが「戦略的パートナー」から「最大かつ直接の脅威」に変わったことは意義深い。冷戦後の時代の終結をまた一つ際立たせる。  大きな誤解(片面的理解)があるようだが、欧州の諸組織は、冷戦後ロシアを包摂してきた面もある。1995年にはOSCEが発足し、その主目的の一つは、敵ではなくパートナーとしてロシアを位置づけることであった。96年には欧州評議会が受け入れた。戦後最初にできた欧州統合の組織でもあり、人権をつかさどるこの組織が、直前の第一次チェチェン紛争で激しい人権侵害を働いていたにもかかわらずロシアを加盟させたのには、冷戦後のロシアを欧州に社会化しようとしたからだ。ほかにも、協力的安全保障の概念のもとに、エリツィン時代のNATO=ロシアパートナーシップ協定(1997)、プーチン大統領になってからのNATO=ロシア評議会(2002)など、包摂の試みは続いていた。  ぐるっと回ってまたロシアは最大の敵となった。いまは対ロ制裁と対宇支援、そしてNATOの防衛力・抑止力の増強の局面。プーチン氏が指導者である限りは、それが続く可能性が高い。  落とし穴は、アメリカかもしれない。今一度、トランプ氏(的なる者)がホワイトハウスの主になれば、NATO(と西側の対ロ結束)はガタガタになる可能性がある。今秋の中間選挙で共和党のトランプ派は勢いづくだろう。同党の再生は厳しい。そのあとの二年で民主党がどう立て直すのか、世界秩序のゆくえに直結する。目が離せない。

  • 日本語指導必要な子5.8万人 日直、朝の会…事前に学ぶ日本の習慣

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年6月29日0時32分 投稿

    【提案】 歓迎すべき動きではあるが、外国人の入国は国が管理し、国の方針で労働者として入れているのだから、国がきちんとその包摂について責任を負うべきだ。それを地方の自治体に丸投げしてはならない。  記事でも「急務」とあるが、これに取り組まないと、たとえは悪いが時限爆弾のように、社会に溶け込まない人口を抱えることになる。そのリスクは十分に予期できるわけで、いまから地道な取り組みが必要だ。  提案として、人口の3%なり4%なりを外国人が占める自治体に、国が集中的に資源を投下するのはどうか。資金と教師と。  もう一つ。その教育をてこに、外国人がとくに集住している自治体に、外国人の代表を交えた地域協議会を作り、意見をフィードバックするシステムをつくるべきだ。参政権だけが回路ではない。その議論はイデオロギー的な論争になりがちだが、もっとソフトな形での包摂を並行して探っていくべきではないかと考える。  

  • 韓国で元徴用工問題の解決探る「協議」設置へ 日韓関係の大きな懸案

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年6月21日10時39分 投稿

    【視点】 安全保障と歴史認識のふたつの論理はともに日韓関係をずっと彩ってきた。とはいえ、双方が常に同様に日韓関係に影響を与えたわけではない。冷戦中長い間、前者が後者を覆い隠し、あるいは圧倒し、後者の争点化が遅れてやってきた。1990年代以降、歴史認識問題が(再)浮上したのち、対応を繰り返すうちに、日韓は結果的に共同してこの問題に対処するようになっていった。苦悩に満ちたその時期のコラボを懐かしむ人は多い。  2015年のいわゆる慰安婦合意が18年になきものにされたとき、そのようにコラボを積み重ねていくという未来像まで失われたように思う。これは不幸なことだった。歴史認識問題への取り組みを評価する人々が日本で声を上げにくくなったと感じる。歴史問題とずれた形で、法的・政治的信頼性が揺らいだためだ。  いまはふたたび、安全保障の論理が前景に出てくる流れ。日韓、日米韓、あるいは豪などを加えた広いフォーラムで協力する必要は待ったなしになっている。その論理で協力が進むことを期待する一方、歴史認識問題がなくなるわけではない。外交実務家には、いま歴史の話をする余裕(時間や信頼といった政治的資本含めて)はないという感覚があるだろうが、可能性のアートを胆力を以てどこかで追求してほしい。その問題はどこかでまた浮上するだろうから。  

  • 物価高、マクロン政権に打撃 「脱悪魔化」の野党に敗北、少数与党に

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年6月21日0時16分 投稿

    【視点】 大統領選で一定程度機能した「共和国戦線」は国民議会選の地方選挙区では機能しなかった。政党システムの断片化が進み、オランダ化現象という論者もいる。  気が早いように映ろうが、この投票結果は、5年後の大統領選、言い換えるとポスト・マクロン時代の開始の号砲ともなる。主要政党が消滅ないし極小化した「焦土」から何が生まれるか、見ものである。このあとの議会多数派の形成、あるいはその困難から浮かび上がるものがあるはずだ。注視したい。

  • 冬戦争の驚異と継続戦争の苦難 ロシアの隣国、試練のフィンランド史

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年6月16日17時20分 投稿

    【視点】 中立も同盟も、国の存続と安全をかけた選択という意味では一貫している。その計算の仕方が、時代や国によって異なり、現れ方に違いが出る。  ノルウェーのような独立意識の強い国が、戦後にNATOという最も統合された軍事同盟に入ることを選んだ時、それはまさに独立の維持にそれが必要だという考えからなされた。フィンランドの場合、西側に寄ればソ連の侵攻を招き衛星国にされる可能性があったから中立を選んだ。今回は、逆にNATOに入っておかないと独立が危ないという戦後ノルウェーとおなじ計算をしたということだろう。その変化の引き金を引いたのは、プーチン氏の蛮行である。  同時にみておくべきは、NATO加盟後のフィンランドとNATOの動き。もちろん、前線に核兵器は配備しないだろう。NATO軍の常駐もさけるのではないか。そのうえで、ローテーションベースで他国軍を入れるのかどうか。自らの軍拡をどの水準に設定するのか。ロシアを不要に刺激しないという政策は、加盟後も引き続き追求すると思われる。

  • ロシアの脅威・欧米への反発‥試練続く国際秩序、結束の広がりが重要

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年6月7日11時12分 投稿

    【提案】 「「ルールに基づく国際秩序」の擁護を責務と位置づけてきた日本には、その理念を具体的に実現する努力が求められている」。現地をずっと見てきたベテラン・ジャーナリストがそういう。その通りと思う。  まだ侵略を受け続けている国に、軍事的にできることが見つけられなくとも、難民保護から医療まで、記事にあるようにいくらでもやることはある。その支援と、支援の輪を大事に育てていかねばならない。  日本がおそらくまだできること――着手済みなら結構――として、国際刑事司法、とくに国際刑事裁判所(ICC)への支援があげられる。お金を出すことも大事だが、法医学の心得のあるものを20人でも30人でも出せないだろうか。全国で150人しかいないともいわれるので心もとないが、ここは緊急時。研修中のものやサポートチームも含め、数を出すことが大事ではなかろうか。ICCは42人のチームをウクライナに派遣済みで、フランスも既に18人を派遣している。  非軍事の領域でも、戦争犯罪の証拠集めと訴追は、次の侵略の抑止に寄与するだろう。そこで少しでも汗をかくことが、日本の生き方にあった、侵略戦争の抑止への貢献になるように思う。

  • (世界はどこへ ウクライナ侵攻100日:1)ウクライナ支え、結束広げよ 国末憲人

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年6月4日19時48分 投稿

    【提案】 「「ルールに基づく国際秩序」の擁護を責務と位置づけてきた日本には、その理念を具体的に実現する努力が求められている」。現地をずっと見てきたベテラン・ジャーナリストがそういう。その通りと思う。  まだ侵略を受け続けている国に、軍事的にできることが見つけられなくとも、難民保護から医療まで、記事にあるようにいくらでもやることはある。その支援と、支援の輪を大事に育てていかねばならない。  日本がおそらくまだできること――着手済みなら結構――として、国際刑事司法、とくに国際刑事裁判所(ICC)への支援があげられる。お金を出すことも大事だが、法医学の心得のあるものを20人でも30人でも出せないだろうか。全国で150人しかいないともいわれるので心もとないが、ここは緊急時。研修中のものやサポートチームも含め、数を出すことが大事ではなかろうか。ICCは42人のチームをウクライナに派遣済みで、フランスも既に18人を派遣している。  非軍事の領域でも、戦争犯罪の証拠集めと訴追は、次の侵略の抑止に寄与するだろう。そこで少しでも汗をかくことが、日本の生き方にあった、侵略戦争の抑止への貢献になるように思う。

  • ウクライナは譲歩すべきか 元米高官らの発言、ゼレンスキー氏が批判

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年5月30日20時29分 投稿

    【視点】 戦争は始めるより終わらせるほうが難しい。ここには、ウクライナとロシアのあいだでいまも流れる血をいかに早急に止めるのかという問題と、両国のみならず広く国際社会が、エスカレーションの可能性を含めて今後の展開をどう捉えるか、中長期の国際秩序の在り方をどうすべきかという問題との双方があり、互いに密接に絡む。  もちろん、すぐにでも流血を止めたほうが良い。国際社会は、ロシアが暴発する前にあらゆる機会を捕まえて止血を狙わねばならない。しかし、ただロシアに領土割譲を認めるのなら、占領下でロシアの蛮行が続く可能性がある。世界中いたるところに現状変更への意志がみられるなか、侵略はペイするものだ、力のない小国は泣きを見るのだというたぐいの教訓を残すべきでもない。  「戦争の行方は当事者であるウクライナ政府が決めるべき」という米国等の言い方は、額面通りには受け取れない。ウクライナがどこまでも戦争を続けるのを支援するといっても、時空間の限界があり、資源や意志がついていけないラインがあるだろう。支援の切れ目がウクライナの戦争継続の切れ目になるところがあり、ウクライナが決め切れる問題ではない。異なる言い方をすると、国際社会は戦争終結へのステークホルダーとなっており、支援への責任も伴う。

  • 対ロ制裁は効いているのか 国際金融のプロが語る通貨秩序の行方

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年5月28日14時34分 投稿

    【視点】 制裁が実際に効いているのか。プロの視点からの検証は欠かせない。その一助となる良記事。  株式指数、生産指数、物価、成長率、外貨保有、通貨価値など、はっきりと効果が出ていると、経済的な観点から現況と展望が語られる。この先は、どんな目的・時間軸に照らしてどの程度有効なのかという、指数を超えた政治的な評価が必要となろう。  そのうえで、三つ注目。①制裁の中身に個別の国情が重要とする下りで、「制裁は自分が倒れては続けられない」とし、「相手をじわじわ追い込」むとする点。時間はかかるが、大事な視点かと。②米ドル基軸の国際通貨体制がそう簡単には変わらないとする点。③グローバル化の将来。逆回転ではなく変容。

  • 外国人労働者の悩み解決、トヨタなど8社が共同で支援 取引先も対象

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年5月24日12時53分 投稿

    【視点】 正しい方向への一歩である。実習生制度は人権侵害の巣窟なのでやめたほうが良いと考えているが、まずは不十分でも一歩を踏み出したことに賛意を表したい。  労働力不足というこちら側の事情のもとに国の門戸を開けたのだ。来るのは機械でなく人間である。一度入れたのなら、移民と呼ぼうが呼ぶまいが、個人として尊重しなければなるまい。そのためには、まず相手のことを聞くことである――問題があればなおさら。  企業がJICAとともに共同窓口を作るのは、その一歩となる。次は、資源とネットワークの拡充だ。きちんと人員・資金的なリソースを投入し、外国人の集住する基礎自治体と連携を深めていくのがよい。そうして初めて、実効的に外国から働きに来た人たちのなかに根を下ろすことができる。  国はこうした動きを後押しすべきである。

  • ロシア軍、第2都市ハルキウから完全撤退か 反撃に対応できず被害

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年5月15日11時19分 投稿

    【視点】 キーウ防衛に加えて、ハルキウを奪還したことで、ウクライナの軍事的優位はますます濃厚になったと思われる。この先皆が真剣に考えているのは、戦争目的の設定・再設定、それと関わる停戦の在り方である。  内容面で重要なのは、ウクライナ領内からのロシア撤兵、戦後ウクライナの安保体制の構築――ほぼ間違いなく細部に悪魔が宿るが。それに加えて、これらの内実をどんなタイムフレームで保全するか、という時間面の問題がある。  ゼレンスキー宇大統領は、ロシアが盗んだものをすべて返せとは言わないとし、大事なのは人だと述べた。撤兵を優先し、ウクライナ国民への殺戮・暴行をまずはやめさせることに重点があるように映る。そうだとすると、まずは、侵攻以前の状態までロシア兵が引くこと、独立宣言しロシアが承認した東部二州(+クリミア)については、時間をかけ、いつか取り戻す可能性を残すというところで、政治的妥協ができないものだろうか。  完全回復が(プーチン氏の生命的限界に伴う)10年なのか、もっと長い単位なのかは分からない。バルト三国が独立を回復するまで50年ほどかかっていることを想起し、それくらいの時間軸で構える政治的思考が必要なのかもしれない。

  • トランプ氏が今も大統領ならプーチン氏を止められたか 元側近の答え

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年5月15日10時22分 投稿

    【視点】 ある種一貫している。力と抑止を最重視し、その行使の不足を批判する、共和党右派のなかでも強硬派――とはいえ、とくに例外的でもない。  ウクライナ侵攻を抑止できなかった、プーチンに抑止させられている、By all meansときちんと脅しておくべきだった、そのための軍事的ビルドアップを長年かけてすべきだった、ウクライナとジョージアもNATO加盟させるべきだったとしているのも、賛否は激しく分かれようが一貫している。そうした施策がロシアを追い込むという発想はなく、むしろそうし損ねたことを問題視する。  考えさせられるのは、「もしトランプ氏が再選し、NATO脱退に動いていたら、ロシアの侵攻はより容易になっていた。20年の大統領選が終わり、再選したトランプ氏に政治的な制約がなくなるのを、プーチン氏は待つ覚悟だった」というくだり。ボルトン回顧録のなかでもトランプのNATO首脳会議出席の下りが一番記憶に残っている。側近として、言動にわなわなし、いかに脱退という愚行を防ぐか腐心するボルトン。だから、トランプ再選とNATO脱退(それを待つプーチン)というシナリオがリアルなのだろう。そうなってきたとき、プーチンが何をしていたのかという反実仮想は、NATO批判、バイデン批判をする前に、一度立ち止まってしておいたほうが良いように思う。

  • 「プーチン氏との対話、打ち切れ」 マクロン氏へ、仏元外交官の提言

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年5月15日10時3分 投稿

    【視点】 ちょっと前のものですが、良質のインタビュー記事。マクロン外交をうまく総括している。  マクロンにとってのジレンマは、(欧州を味方につけず)一人で動くと機能せず、仲間(欧州)とのコンセンサスを大事にして進もうとすると中が割れてい(ていて逆機能す)るというもの。  プーチンとの対話も、仲間割れにつながるのでやめてしまえという。それも手がだ、なかなか中に入り、探り、伝えるという役割を果たすメジャーな政治家がいないかな、マクロンはそれをやめないだろう。  この時期の良いところは、フランス外交を外側から見れる内側の人の観察眼。今回よかったのはNATOの復活だとし、マクロン外交の迷走をぴしゃりと批判していること。ただし、これも米国がバイデンのような比較相対的に穏当な大統領である間の話かもしれない。ふたたびトランプ(流)になれば、マクロンのいうようにNATOは脳死となり、欧州対外主権を考えなくてはならなくなるだろう。その迷走の一因は、アメリカなのだ。

  • 国連安保理は完全に失敗、ウクライナ危機で改革の動きは成就するか

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年5月9日0時54分 投稿

    【視点】 国連への過剰な期待は捨てるべき。機能不全ゆえに改革が必要だという人はそのほぼ不可能性について目をつぶりがち。専門機関があるではないかという人は、平和と安全という中心的な機能について考えるのを避けがち。  常任理事国(P5)が自ら蛮行に手を染めるとき、国連は行動できないようにできている。そのクリシェをこえて、二つを考えておく必要がある。一つは、P5の拒否権ゆえに、P5同士が国連の権威の下で戦争しなくてよいようにできている。非常に消極的な意味で、それは大国同士の戦争を防ぐように設計されている。  二つ目に、戦争が正統か/非正統かを衆目の下にさらす国際世論のフォーラムとしては、機能していなくもない。1991年の湾岸戦争と対照的に、2003年のイラク戦争は国連のマンデートのない戦争として非正統化された。今回のウクライナ侵略は、そもそもロシアが「特別軍事作戦」の是認を安保理に求めない段階で、正統化以前の行為とみなされうる。その非難決議に実に多くの国が賛成したことで、非正統的だと国際社会に刻印されている。  そうした「機能」を超えて「機能不全」という議論をするのは、いまの国連には過剰期待となるし、それ以外の国連になる気配はない。

  • 北朝鮮、今月中にも「核実験の準備完了の可能性」 米政府当局が分析

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年5月9日0時27分 投稿

    【視点】 米バイデン政権の対北朝鮮政策は、実質的に空虚だ。戦略的忍耐といって何もしなかったオバマ政権の継続に近い。  中国を主要な対手とし、そこの集中する中で他の地域の優先順位が落ちたところに、ウクライナへの侵略が始まり、北朝鮮まで回す政策リソース(時間、ヒト、熱量等)が足りないのだろう。  その空白を金正恩政権はうまくついてくる。何もできないだろうと高をくくっているのである。  日本が取るべきは、拡大抑止への信憑性をたかめ、(新政権のもとの)韓国との関係を改善し、日米韓の連携を密にすること。それにより、北の核保有・ミサイル開発が最悪の暴発に向かわないよう、こちらからは攻めず、攻めて来たら悲惨な結果をもたらすと、ただしいシグナルを送りつづけることくらいだろう。当面はそうして勝ちうる疑似安定が当面の目標となろう。中朝露の指導者や体制が変わらない状況で、その先に地域安全保障環境の好転を見込むのは、いまのところ難しい。

  • 集合住宅が崩壊、200人生き埋めか キーウ近郊のボロジャンカ

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年4月7日13時30分 投稿

    【視点】 戦争なんだから、という大まかな思考に沿えば、このような許しがたい行為も「戦争」のせいになる。しかし、すべての戦争が同様に残虐なわけでもない。  戦争研究によると、すべての戦争のうち、直接に民間人を標的にするものは、5分の1から3分の1程度。大多数の戦争では、いちおう、民間人と戦闘員との区別はかけられている。そのルールにいくばくかの実効性があるから、逆にそれを破ったものへの風当たりは強くなるわけである。  今回のロシアの蛮行は、戦争だからという以上に、民間人虐殺をロシア(軍ないしそれに準ずる組織)がやることに決めたから。おおむね平和裏に生きている国を侵略したうえで、民間人をこのように、このレベルで殺戮するというのは、悪の段階を数段駆けあがる行為である。  戦争にも段階があること、それにより悪のグラデーションができることを認識すると、起きてしまったのだからしょうがない、すべての戦争はそういうものだから、という大雑把な把握では済まないことになる。  良い戦争などない。しかし、よりましな悪としての戦争はある。

  • EU、危機対応の「即応部隊」創設へ ウクライナ侵攻で加速

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年3月22日19時9分 投稿

    【解説】 2025年までに運用される5千人の即応部隊の中核はドイツが出すという。一方でこれは、防衛費大幅増、戦争中のウクライナへの武器供与などとともになされた戦後ドイツの安全保障上の大転換の延長上にあるといえる。  他方、軍事同盟であるNATOの機能・権能に指一本触れぬよう設計されており、EUの軍事的自立という絵柄だけで打ち出せない代物でもある。ウクライナ侵略戦争がそれを促すのではあるが、この瞬間に圧倒的に大事なのはNATOとアメリカなのである。  ボレル上級代表は「脅威は増してる、行動しないコストは明らかだ」と打ち上げているが、すでに存在するEU戦闘集団の名前を即応部隊に変え、ドイツがそこに積極関与するというところからどこまでEUの力になるか、疑問なしとしない。

  • 首相「日ロ関係への転嫁は極めて不当」 平和条約交渉「継続せず」に

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年3月22日18時31分 投稿

    【視点】 日本政府は、4島でのビザなし交流と元島民の自由訪問の停止、共同経済活動からの撤退も表明した。これは、予算措置の凍結を含めて、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて直ちにすべきことだった。厳しい制裁を課しておきながら経済協力をします、侵略戦争を起こす国と平和条約交渉します、というのは筋が通らない。  ロシアのこの体制と指導者の下で北方領土の返還を期待するのは無理というもの。プーチン氏ならという期待も根拠の薄弱なものだった。万が一、ロシアが北方領土の部分的返還に動くことがあるとすると、それは欧米から孤立し、おそらく中国とも疎遠になり、そのとき日本との関係改善がロシアにとって生きるうえで打開策となるような時だろう。  いまは日本が(正しくも)欧米と軌を一にして制裁をかけているのだから、それがありえないシナリオなのは子供でも分かるだろう。むしろ、領土交渉と平和条約交渉の打ち切りくらいで済んでいるという感覚を持つべきかと思う。すでに、サイバー攻撃がうわさされ、艦隊が津軽海峡を渡るような事態になっているが、ロシアから見て敵性国家となった日本に対する行動がさらに続いても全くおかしくない。

  • ウクライナ国内の避難民650万人 1200万人超、まだ避難できず

    遠藤乾
    遠藤乾
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    2022年3月19日10時14分 投稿

    【視点】 戦争は難民の母。悲しいかな、予想された通り、悲惨な現実がある。  国境を超える難民はすぐにでも400万を超えるのだろう。これらを受け入れるEU諸国(民)もかなりの努力を払う。捕捉しにくいのは、国境内で動いている650万の国内避難民(Internally Displaced People)。シリアでは、国際・国内難民合わせて人口の半分を数えた。ウクライナの人口は4400万。  さらに悲惨なのが、動けもせず、閉じ込められている1200万の人たち。マウリポリでは40万が取り残されているという。爆撃はもちろん、水、食料の不足、そして寒さが確実に住民をむしばんでいる。停戦交渉の主題を分け、緊急性の高いこの事案は、他の主題での賛否にかかわらず、優先して対処すべきだ。

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