佐橋亮

佐橋亮さはし りょう

東京大学東洋文化研究所准教授
関心ジャンル:教育政治外交・安全保障国際人権

最新コメント一覧

  • 「日米、米韓だけではだめ」 日米韓の防衛協力訴える米国の思惑とは

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年6月23日10時15分 投稿

    【視点】アメリカが日米韓協力に朝鮮半島だけでなく台湾情勢も関連付けて理解し、それを推進しようとしている。とても重要な指摘がみられる記事です。 高橋杉雄氏が匂わせるように、アメリカ側からは台湾有事を念頭に、かなり過剰な期待がみられることもあります。後方支援、さらに何かしらのプラスアルファは可能かも知れませんが、米軍等のシグナルがそれを越えていることも多いものです。それに続いて高橋氏が指摘するように、「米軍は韓国に対しては、在韓米軍を台湾有事に動員することを求めるほか、韓国軍による北朝鮮の抑止や黄海での監視活動などに期待するだろう」という点が注目されます。すなわち、台湾有事が起きれば、米軍は台湾に戦力を振り分けたいため、半島の安定の責任を韓国軍に担って欲しい、ということです。 以前、日米韓協力といえば朝鮮半島だけを念頭に議論をする方が多かったと思いますが、実際には東アジア(さらには中印国境)を広く見渡して事態を想定することもあると理解することが良さそうです。韓国側の消極姿勢も記事は指摘していますが、ここで最も抑えておくべきはそのような広い視点でしょう。 (なお、ここではその可能性が高い、という議論をしているわけではなく、そういった可能性もある(想定されている)、という話をしています。) ところで、韓国新政権発足に伴い、かなり頻繁に韓国側と意見を交換していますが、興味深いのは日米韓協力とIPEF(インド太平洋経済枠組み)への強い期待です。他方でそれ以外の枠組みへの関心がかなり下がっているようにもみえます。やむを得ないことかも知れませんが、この二つの枠組みを通じて韓国政府と各国政府は力を合わせ、好ましい秩序作りや安全保障協力を進めていくことになるでしょう。

  • 内向き世論を動かした「バイデンの戦争」 米国は世界をどこに導くか

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年6月6日20時19分 投稿

    【視点】今のアメリカには、ロシア・ウクライナ戦争が持つ歴史的意味をつかみ取る問題意識は十分にあります。しかし、20世紀(の大半の時期)のアメリカと異なるのは、その問題意識を形にするほどの体力がないこと、国内社会におけるコンセンサス(意見の一致)が十分ではないこと、そして戦略的課題としての中国との両立を図る必要があること、にあります。 たしかに、この数ヶ月、欧州の同盟国が積極的に負担を増やしていくことへの期待から、最後の要素、すなわち中国戦略との両立が可能かも知れないとの見方はありました。しかし、戦争の長期化、欧州各国の姿勢のバラツキなどをみると、やはり課題は変わりません。 「バイデンの戦争」と呼ぶことすら躊躇われますが、それでも後方から可能な限り支援してなんとかウクライナを持たせようとする戦争支援を模索しているのは事実です。それ自体が止まることは、問題意識を考えてもないでしょう。しかし、その規模がそこまで変わらないという条件の下で、戦争が長期化するとすれば、果たしてどのような状況が今後生まれてくるか、その思考が重要です。記事のそのような主張は十分に納得できるものです。

  • 米中国防相、シンガポールで会談調整 対面はバイデン政権初、焦点は

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年6月6日20時12分 投稿

    【解説】久しぶりの大規模な国際会議として催されるシャングリラ対話で、米中の閣僚が顔を合わせることになります。オースティン国防長官は、バイデン大統領とは異なり失言をするような人物ではないので、その意味では驚きはないのでしょう。他方で、アメリカは引き続き、台湾への軍事支援を強化する意思を変えておらず、また今回行う演説も対中強硬姿勢を崩すものになるとは思えませんから、米中の安全保障面での緊張が緩和されるような成果につながるとは考えづらいところです。なお、中国の国防部長はアメリカの国防長官と権限で対等とは言い難い役割です。バイデン政権は今後の緊張に備えるためにも、上位の軍人との枠組み作りを重視しています。

  • 譲れぬ米中、台湾問題で深まる対立 軍事的緊張高まるおそれも

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年5月23日22時52分 投稿

    【解説】※「バイデン氏の「台湾防衛」発言 戦略転換の背景にロシアの侵攻」に投稿した内容と同じです。重要な内容のため、再掲します 日米とも報道各社はバイデン発言を、アメリカ政府による台湾防衛の明白な方針転換と解釈することに収斂しています。私としてはもう少し丁寧に考えるべきで、これは「バイデン大統領」による明白な台湾防衛への意図表明である、とした方が良いと思っています。 記者会見最後、米国記者からの質問から紹介します。 記者:あなたは明白な理由からウクライナの紛争に軍事的に関わりたくなかった。もしそうなったら、台湾を防衛するために軍事的に関与する(get involved)意志はあるか? バイデン:はい(Yes) 記者(再):本当に?(You are?) バイデン:それが私たち(米国)のコミットメントだ(That's the commitment we made) コミットメントは約束であり、文脈上、台湾関係法等を基本文書、さらに地域全体に示してきた姿勢も包含するかもしれません。 まず、これが発言本体です。 これまでもバイデンは台湾防衛について、政府の公式見解から踏み込んだ発言を二回ほど行っており、前回もコミットメントという表現がみられました。 それらの発言は、失言か意図的な政策修正か議論が分かれましたが、前者の見方が若干強かったところがあります。 今回、ホワイトハウスの職員がすぐさま「バイデン大統領は、「一つの中国」政策と、台湾海峡の平和と安定に対するわれわれのコミットメントを繰り返した。また、台湾関係法に基づき、台湾に自衛のための軍事的手段を提供するという我々のコミットメントを改めて表明した」と言っています。ですが、今回の発言に関しては失言という解釈がかなり難しいのではないか、という見方が強まっています。 私も、またメディアに引用されている政府関係者(日米)も当惑を隠せないままですが、バイデン「個人」が本当にこう考えていると想定する方が筋が通る、ということです。 そして、アメリカにおいて実際に有事が発生したとき、軍事介入を決断するのは(戦争権限法はさておき)最高司令官たる大統領「個人」によるところが大きい。そこが今、注目されています。 アメリカの介入姿勢を曖昧にしていく方針は、政府内外の声の中で、ホワイトハウス高官が否定してきました。が、そういった外交的なバランス感覚は未だ存在するにせよ、そして将来における大統領が現在のバイデンと同じ判断を持つかは別にしても、バイデンが台湾有事「では」軍事的に関与(get involved)すると考え、またそれを口にすることを明確に行ったと言うことです。 (20年にわたりこの話に付き合ってきた)私はこれで、「アメリカ政府」の「戦略的曖昧性」が書き換えられたと断言することはできないと思いますし、日本の一部新聞の書き方は簡単に断言できるものだと感嘆しますが、それでも「現職大統領」の認識が「明確な」ことだけは認めざるを得ません。 (もしそういう解釈を取らなければ、バイデン大統領の判断力、発言能力そのものを強く疑うしかなくなってしまいます。) そして、この発言の次が難しい。中国はどのような対応をするのでしょうか。すべきなのでしょうか。無行動は暗黙の容認と受け止められかねない、他方で行動する好機とも言えません。それでも、ここまでアメリカ大統領が発言した事実に対応はせざるを得ません。 賽は投げられた。 果たして、これがどういう展開を生むのか。 台湾も、日本も、アメリカの強い「コミットメント」だと無邪気に喜んでいる場合ではなく、様々な展開に備えることが必要でしょう。

  • バイデン氏の「台湾防衛」発言 戦略転換の背景にロシアの侵攻

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年5月23日22時49分 投稿

    【解説】日米とも報道各社はバイデン発言を、アメリカ政府による台湾防衛の明白な方針転換と解釈することに収斂しています。私としてはもう少し丁寧に考えるべきで、これは「バイデン大統領」による明白な台湾防衛への意図表明である、とした方が良いと思っています。 記者会見最後、米国記者からの質問から紹介します。 記者:あなたは明白な理由からウクライナの紛争に軍事的に関わりたくなかった。もしそうなったら、台湾を防衛するために軍事的に関与する(get involved)意志はあるか? バイデン:はい(Yes) 記者(再):本当に?(You are?) バイデン:それが私たち(米国)のコミットメントだ(That's the commitment we made) コミットメントは約束であり、文脈上、台湾関係法等を基本文書、さらに地域全体に示してきた姿勢も包含するかもしれません。 まず、これが発言本体です。 これまでもバイデンは台湾防衛について、政府の公式見解から踏み込んだ発言を二回ほど行っており、前回もコミットメントという表現がみられました。 それらの発言は、失言か意図的な政策修正か議論が分かれましたが、前者の見方が若干強かったところがあります。 今回、ホワイトハウスの職員がすぐさま「バイデン大統領は、「一つの中国」政策と、台湾海峡の平和と安定に対するわれわれのコミットメントを繰り返した。また、台湾関係法に基づき、台湾に自衛のための軍事的手段を提供するという我々のコミットメントを改めて表明した」と言っています。ですが、今回の発言に関しては失言という解釈がかなり難しいのではないか、という見方が強まっています。 私も、またメディアに引用されている政府関係者(日米)も当惑を隠せないままですが、バイデン「個人」が本当にこう考えていると想定する方が筋が通る、ということです。 そして、アメリカにおいて実際に有事が発生したとき、軍事介入を決断するのは(戦争権限法はさておき)最高司令官たる大統領「個人」によるところが大きい。そこが今、注目されています。 アメリカの介入姿勢を曖昧にしていく方針は、政府内外の声の中で、ホワイトハウス高官が否定してきました。が、そういった外交的なバランス感覚は未だ存在するにせよ、そして将来における大統領が現在のバイデンと同じ判断を持つかは別にしても、バイデンが台湾有事「では」軍事的に関与(get involved)すると考え、またそれを口にすることを明確に行ったと言うことです。 (20年にわたりこの話に付き合ってきた)私はこれで、「アメリカ政府」の「戦略的曖昧性」が書き換えられたと断言することはできないと思いますし、日本の一部新聞の書き方は簡単に断言できるものだと感嘆しますが、それでも「現職大統領」の認識が「明確な」ことだけは認めざるを得ません。 (もしそういう解釈を取らなければ、バイデン大統領の判断力、発言能力そのものを強く疑うしかなくなってしまいます。) そして、この発言の次が難しい。中国はどのような対応をするのでしょうか。すべきなのでしょうか。無行動は暗黙の容認と受け止められかねない、他方で行動する好機とも言えません。それでも、ここまでアメリカ大統領が発言した事実に対応はせざるを得ません。 賽は投げられた。 果たして、これがどういう展開を生むのか。 台湾も、日本も、アメリカの強い「コミットメント」だと無邪気に喜んでいる場合ではなく、様々な展開に備えることが必要でしょう。

  • バイデン氏の思惑に乗った尹大統領のお膳立て 2大国の間で悩む韓国

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年5月21日22時50分 投稿

    【解説】韓国がバイデン氏の「思惑に乗った」という表現は若干強すぎるところはありますが、たしかに米韓首脳会談の成果文書などを分析すると、アメリカ政府の考えが色濃く反映されているところはあります。とくに、経済安全保障における協力分野の特定・枠組みの設置や、バイデン政権が好む人権・民主主義といった国際秩序における原則への言及、アメリカ主導の枠組みへの言及(インド太平洋経済枠組み、民主主義サミット、インターネットの未来宣言)にそういった形跡がみられます。記者会見の最初の質問に立った韓国メディアの記者が、まず経済安全保障の意味について問うたのが印象的でした。 それでも、ユン大統領は保守政権を率いているのであり、対米関係の進展が図れたことは政権の狙いに整合的です。また伝統的な安全保障では拡大抑止について、合同演習の強化に限らず広く合意をみせています。全般的にも、かなり具体的な枠組み設置などを共同声明のレベルで行っていることは、今後の制度整備につながります。クアッド(日米豪印の協力枠組み)にユン大統領は韓国も関与できないかと関心を示していますが、そういった韓国の関心を「バイデン大統領は歓迎している」という表現もみられます。ユン政権がアメリカに押された、とまでは言う必要はないでしょう。 経済安全保障、さらに自由貿易や科学技術分野での協力などの内容をみていると、やはりアメリカにとって韓国の成長が前提になっていることも読み取れます。すでに世界10位の経済規模を有し、先端的な科学技術の基盤を固め、そしてアジア各国への影響力も実は十分に育っている韓国を、どのようにアメリカに有利な秩序形成に組み込んでいけるか、そういった野心を感じました。朝鮮半島を越えた米韓協力と考えそのものは新しいようで前からあるのですが、今アメリカが目指している米韓協力はかつてのそれとは全く異なり、かなりの期待をもつものです。それは同時に、日本同様に、大きな負担の共有(さらにはシフト)を意味してくるのですが。 さあ、明日には韓国から日本にバイデン大統領は移動し、日本との会談、そして日米豪印首脳会談(クアッド)が行われます。

  • 米国とASEAN、「包括的戦略パートナーシップ」に関係を格上げへ

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年5月14日17時25分 投稿

    【視点】1年前、せめて半年前に、この米ASEAN特別首脳会議は行われるべきでした。遅きに失した感があります。昨年に東南アジアを歴訪した、ハリス副大統領やオースティン国防長官も目立った成果は上げず、そもそも立ち寄る場所も偏っていました。 そして今回、目玉にもならない(実際に国際的には揶揄されています)1億5千万ドルの投資計画の発表もあり、Too Little, Too Lateとでも言いたくなります。 インド太平洋外交を全般的にみても、バイデン政権が今注力するのは、インド太平洋経済フレームワーク(IPEF)です。それは米国への市場アクセスが含まれないばかりか、ASEAN諸国の中で一部しか入れない方針のようです。 中国の成長によって変化するなか東アジア情勢において各国をアメリカにつなぎとめておきたいという意欲がどこまであるのか、そもそも東アジアの国際関係を分かっているスタッフが中枢に座っているのか。疑問が広く持たれている状況です。 しかし、この状況はアメリカと価値観、秩序観で似通い、同盟国であり、そしてアジア、ASEANとは独自に関係を深めてきた日本の役割を大きくしている、ともいえます。 来年は日本ASEANにとって関係構築から50周年の節目にもあたります。今週には総理官邸でそれを念頭に置いた有識者会議も学界、産業界の代表で発足しました(私も末席を汚しています)。ASEAN諸国はかつてとは比べものにならないほど成長し、また活き活きとした社会を構成しています。同時に、開発のバラツキやサステナビリティ、民主主義の後退など多くの問題も抱えていることも事実です。アメリカがいまいち適切な対応をできていないなかで、日本がASEAN諸国と対等な目線で協力を深めていくこと、それは地域の社会にとって、非常に好ましいことに感じます。

  • 国際政治学者で慶大教授の中山俊宏さん死去 55歳

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年5月10日20時46分 投稿

    【視点】職人気質の研究者でした。 多くの方にとって、中山俊宏という研究者はNHKやBSの報道番組でアメリカ政治外交、世界の今を、無駄のない言葉遣いで的確に説明する方として記憶されているでしょうか。彼にとってそれはとても嬉しいことなのだと思います。多くの人に自らの分析を届けることをとても大切にしていましたから。 同時に、彼は絶対に、専門家以外が意見を自由に述べることのできる、いわゆるワイドショーには出演しませんでした。「そこにはこだわっているんだ」。そんな風にいつも言っていたことを思い出します。プロフェッショナルとして分析し、また意見を述べている以上、それを邪魔して欲しくない、私が勝手に解釈するとそういうことに思えます。 同業者の私から見ると、中山俊宏という研究者は思想分析を土台にした独自の手法をもつ、きわめて優れた代表的な人物でした。私たちは分析をする素材として、たとえば外交文書やデータを活用することが多いのですが、彼はそれらの背景にある、ものの考え方に迫ろうとしていました。それはとても大変なことです。文書を読む、データを解析することも十分大変なのですが、彼が解き明かそうとしていたことは、まさに政治や外交を動かす「本質」でした。 彼のような仕事は、簡単にできることではありません。だが、彼の遺した研究成果は、アメリカをみるために、国際政治を分析するために、何とも大きな座標軸を提供してくれます。たとえば、『外交』(都市出版)が特別に公開してくれた、この文章(http://www.gaiko-web.jp/test/wp-content/uploads/2022/05/Vol59_Prof_nakayama.pdf)、私と同僚で最近編集した『バイデンのアメリカ』(東京大学出版会)に彼が寄せた文章「バイデンの非・世界観外交」をお読み頂ければと思います。大胆なものの見方、それでいて緻密な議論の進め方。まさに、中山の文章といった感じです。 そして、ぜひ彼の単著『アメリカン・イデオロギー』『介入するアメリカ』(ともに勁草書房)を手に取ってみてください。2013年に同時に出版された、この2冊の研究書は彼が博士論文後の30代から40代前半に手がけた仕事が収まっています。彼の論文がなければ分からなかったことがこれほど多くのあったのかと、驚くほどです。 いわゆる学術研究だけでなく、彼は日本国際問題研究所を中心に、多くの政策研究や海外の有識者・政府関係者との交流も重ねました。フットワーク軽く、世界を駆け巡り、講演し、語らい、本当に精力的な仕事を続けました。日本政府にも外務省、防衛省はじめ、いつも助言を与える立場でした。 日米関係に「プランB」(代替案)は必要ない。そこにあえてこだわりたい。よくそう言っていました。研究者としては強い立場だと思いますが、そうしたハッキリとした立場のわりに、誰も嫌な感じを受けなかったのは、彼が知的に誠実であったこと、そして他の意見を決して否定せず、それを尊重し続けたからでしょう。 研究者としての彼を紹介するのはここまでにしましょう。英語になりますが、外交問題評議会のシーラ・スミス博士が素晴らしい追悼文を書かれていますので、紹介しておきます。 https://www.cfr.org/blog/honoring-toshihiro-nakayama 最後に、友人として、また後輩として書くことを、どうかお許しください。 最初に中山さんの仕事を意識したのは、彼が翻訳し、長文の解説を寄せた2003年の『軽い帝国』(風行社)でした。数年後から多くの研究に同席することになり、2人でアメリカ各地に、中国にと、出張を重ねました。毎月何度も互いの意見を交換し、そして語り合いました。 テレビではシリアスな職人の顔をみせていたかもしれませんが、実のところ、彼は笑顔を絶やさない人でした。いつも温かく、細かく配慮を重ね、そして人の考えをしっかりと読み、聞く人でした。 彼がリーダーを務める幾つもの研究会。いつもの席に彼が座っていないことを想像することができません。

  • ウクライナなどへの「武器貸与法」成立へ、米国 第2次大戦で威力

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年4月29日10時51分 投稿

    【解説】バイデン政権は、直接ウクライナに軍事介入することはなくてもそれ以外のことは可能な限り進める、という方針を採り、議会や世論もそれを支える姿勢です。武器の提供に加え、かなり詳細な情報協力も行っています。こうした姿勢が崩れることは当面ないでしょう。 今週発表された全米での世論調査(ピューリサーチ)によれば、ロシアは「競争相手」ではなく「敵」とみなす比率が著しく上がっており、他方で中国は「敵」ではなく「競争相手」とみなす傾向が強まっています。ロシアへの不信感が敵対心にまで高まっている、そのような表現も許されるかも知れません。 なお、中国への否定的な見解は2017年以降、著しく高まっており、今回も昨年調査より悪化しています。注目されることは、中露のパートナーシップがアメリカにとっての非常に深刻な問題として意識されていることです(中国の軍事力伸長や台湾問題、人権問題よりも、大幅に多くの回答者が挙げています)。調査結果は以下で読むことができます(英語)。 https://www.pewresearch.org/global/2022/04/28/chinas-partnership-with-russia-seen-as-serious-problem-for-the-us/

  • 訪日中のショルツ独首相が講演 ウクライナへの武器支援の意義を強調

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年4月29日10時36分 投稿

    【視点】ショルツ首相の講演には私も出席しました。ロシア・ウクライナ戦争を前に、力強いメッセージを打ち出そうとしていることは明確に伝わってきました。私の想像を超えるほど、エネルギーに満ちあふれた感じの立ち居振る舞いで、時間の許す限り質問に答えていたことにも好感が持てました。 演説では、記事にもあるように、この戦争が「国連憲章」と「普遍的人権」の両方に向けられた攻撃であるということがポイントの一つです。法の支配に基づいた国際秩序をプーチン体制のロシアが破壊しようとしているとはよく言いますが、それを明確に、国連憲章に反し、そして人権を蹂躙する結果になっているとしています。 他方で、質疑も含め、中国やインド太平洋といった、この地域の国際情勢について、明確なメッセージを出すことはありませんでした。その点は残念ですが、私がもっと大きく手を挙げれば良かったのかと反省しています。

  • ペロシ下院議長が近く台湾訪問へ 台湾メディア報道 訪日も

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年4月7日20時5分 投稿

    【解説】ペロシ下院議長は、言うまでもなく米政界の大物であり、下院議長は格としても大統領、副大統領に次ぐものです。たしかに、象徴的には大きな意味を持つ訪台になるでしょう。 私にはそこまで大きな驚きはありませんでした。というのも、第一に米台交流は近年、遠慮がなくなっており今年に入ってもホンジュラスの大統領就任式で頼・副総統はハリス・副大統領と同じ場に居合わせ、会話を交わしています。第二に、ペロシ議長は記事にもあるように台湾に理解のある政治家で、もともと民主党に強みがある台湾ロビーも熱心に議長の事務所に折衝していることは記録からも分かっています。 台湾危機はロシア・ウクライナ戦争で西側がみせつけた団結の強さもあって、むしろ可能性が時期的に遠のいたとみる考えが有力です。それでも、長期的には十分にあり得る話であり、それに備えるためには台湾の国防努力、日米同盟の強化、米軍の抑止・対処力の向上が必要と考えられています。台湾がそうした期待に応えられるのかどうか、日米同盟が台湾を念頭に置いた取り組みをどこまで進められるのか。このあたりがアメリカの関与と、ある意味では正比例の関係にあると考えられています。 最近のアメリカと台湾の関係については、次の文章にもまとめています。 「アメリカの台湾政策(2021 ~ 22)」日本国際問題研究所、2022年3月。https://www.jiia.or.jp/pdf/research/R03_US/01-05.pdf

  • 米国防長官ら、ロシア侵攻への対応「正しかった」 戦闘「数年間」も

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年4月6日22時2分 投稿

    【解説】バイデン政権の対応は、たしかに直接的な軍事介入ではありませんが、ロシアへの強力な経済・金融制裁、またウクライナへの武器供与、情報協力と多岐にわたります。実質的には、兵力投入以外は何でもやる、という姿勢とさえ言えます。とはいえ、分極化、党派対立の激しいアメリカ政治では、共和党は政権批判の手を全く緩めていません。甘い、という批判が続けられています。 さて、軍トップのミリーによる発言を聞くと暗い気持ちにもなります。しかし、紛争の泥沼化、さらに停戦(またはそれに近い実質的な停戦)が生じたとしてもロシアへの強い不信感を欧州はもち、同盟国のアメリカもかなりそれに近い立場を取るでしょう。 これが米中対立に及ぼす効果ですが、少なくとも緩和効果は乏しく、強いて言うならば関心が少し下がるというものです(それでも経済規制や人権を名目にした対応は粛々と続けられています)。欧州の対中不信もロシアへの中国の対応で深まっており、世界の分断は止めようもなく深まっています。

  • 米中、首脳協議の内容発表 バイデン氏、対ロ支援「影響と結果」説明

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年3月19日16時29分 投稿

    【解説】米政府の発表や高官によるブリーフィングは私も読んでいますが、記者たちは繰り返し、中国がロシア支援に踏み切った場合の米国の対応策を尋ねています。高官ははぐらかしていましたが、「大統領は、この時期にロシア支援に踏み切るものには結果(consequences)がもたらされるだろう(likely)と明言した」とは述べています。consequencesは「重大な結果」と訳してもよいかもしれません。中国政府に反発されないようにしながら、それでも圧はかけた、と主張しているようなものです。 ほかの内容は記事にあるとおりですが、米政府の公式発表文はきわめて簡潔なものです。他方で中国政府の発表は長めです。前半は台湾問題や米中関係全般にわたり、原則論を展開しています。(ここでは中国語を参照しています) 肝心のウクライナに関しては、中国は人道支援を打ち出していること、ロシアとウクライナが対話を行うべきこと、米国とNATOが当事者の懸念を解消するように努力すべきことを述べています。ロシアを擁護していませんが、批判もせず、侵略したロシアとウクライナを区別しない書きぶりです。そのうえで、米欧の姿勢も非難する(中国政府は武器支援も批判しています)。 一部を引用すると、「重要なのは、当事者が政治的な意志を示し、現在に目を向け、将来を見据え、適切な解決策を見出すことであり、他の当事者はそのための条件を整えることができるし、そうすべきなのだ。 対話と交渉を続け、民間人の犠牲を避け、人道的危機の発生を防ぎ、早期に戦争を終結させることが最も急務である」と言っています。これだけを読むとその通り、と言いたくなるかも知れません。しかし、問題は侵略行為を止めることであり、侵略者と被害国を無理に交渉妥結させることではありません。それではウクライナの主権、領土の一体性、また人々の安全が保てない結果になりかねません。 皮肉なのは、「他の当事者はそのための条件を整えることができる」という書き方で米欧を批判しているつもりになっていますが、実はそれは中国自身について言える、ということでしょうか。軍事支援の実施までは確認されていませんが、経済面でロシアとの関係を維持し、また国連では(ひいき目に見ても)曖昧な立場に終始することで、実質的にロシアに望ましい環境を作ることに一役買っているのが中国です。 ただ私たちは中国政府の出方を非難すべきだけでもいけません。中露を引き剥がすことの方が実際利益があるのです(それでも米中対立の構図や、中国への不信感を国際社会がなくすことはないのですが)。根気強く、外交努力を続けるべきでしょう。

  • ウクライナ侵攻、中国は仲裁に乗り出すか 台湾の研究家の分析は

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年3月13日11時7分 投稿

    【解説】趙春山氏は台湾の代表的な研究者の一人(なお国民党系)です。インタビューで展開されている中国政府の解釈について多少中国政府に甘いところもありますが、それでも中国が「進退窮まっている状態」、「(中国は)受け身」とみています。そのうえで、趙氏が「中国がいずれかの段階で、仲介に乗り出す可能性はある」と予測し、「対米協議の頻度が増すでしょう。米中関係が改善する可能性は十分あります」としているところに注目しました。 こういった可能性への恐怖が、「台湾で再び、「米国は信用できるのか」という懸念の声が出てくる可能性」、「台湾が危機に直面したとき、人々がウクライナのように団結し、戦えるか」という、このインタビューで最も興味深いとさえ私には思える指摘につながってきます。 短期的に台湾海峡での危機が生じるということは否定しながらも、長期的な観点から厳しい見通しを語って引き締めているところに、老練な国際政治学者の知恵を感じさせるインタビューです。 なお、このインタビューシリーズの第36回では日本の研究者が、第50回では中国の研究者が答えており、ロシアのウクライナ侵攻と台湾問題を考える上で併せて読むことをおすすめします。

  • バイデン氏が演説「プーチンは間違っていた」「彼に責任をとらせる」

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年3月2日18時23分 投稿

    【解説】今回の一般教書演説は、少なくとも歴史的なものにはならないと感じます。ウクライナへのロシア侵攻、そしてプーチン大統領を強い言葉で批判するものの、新たな方針はどれも小ぶりなものばかり。当然と言えば当然なのですが、NATOに加盟していないウクライナへの派兵はないと明言しました。経済制裁にはアメリカ市民の間にも強い支持があるため、強調されていました。 ウクライナ問題に20分ほど使った後、50分をかけて内政について演説をしており、インフレ対策、教育、社会保障、女性やLGBTQ+の権利擁護、最高裁判事指名などを広く話しましたが、どれも目新しいものではありません。 外交パートはウクライナに集中したため、中国は米国のイノベーション推進やインフラ投資の関係で言及されただけでした。

  • 訪台の米軍元高官、蔡総統と会談 対中国、「米国の関与を示したい」

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年3月2日18時16分 投稿

    【解説】今回の訪台団は、超党派のメンバーからなり、マレン元議長だけでなく、メインストリームの外交・安全保障専門家が加わっています。台湾海峡の安定に対するアメリカのコミットメントを引き続き保証するだけでなく、台湾による国防努力を増やすようにも注文したのではないかと推察します。

  • 世界の警察官に戻らない米国、嘆くより受け入れを アメリカ総局長

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年2月26日17時33分 投稿

    【視点】ロシアによるウクライナへの侵略は、冷戦終結後の国際秩序をついに、明確に転換させました。望月総局長の記事にもあるように、アメリカの対応にはそもそも限りがあり、テロとの戦いから抜け出たばかりのアメリカが非同盟国のウクライナのために自軍による戦争に乗り出すとは考えづらいものです。そうした状況が結果としてもたらすのは、従来の国際秩序の徹底的な弛緩です。アメリカのリーダーシップが(良くも悪くも)世界中に影響し、欧米流の普遍的な価値観が広まっていくことも難しくなるでしょう。 それが、台頭する中国にとってもつ意味は途方もなく大きいものです。短期的には、今の状況は中国にとってロシア、欧米のどちらにも恩を売れる、煮てもよし、焼いてもよしのチャンスともいえる状況です。さすがに、今回のロシアによる侵略行為がたちどころに台湾海峡の危機を招くという評論はあまり見なくなりました。他方で、長期的に見れば、まさに国際秩序の弛緩が中国の実現したい世界の到来につながってくることになります。中国は自らの言葉で秩序や価値観を語り始めていますが、それが世界に説得力をもつようになるのでしょう。 こうした新しい時代において、アメリカは同盟国やパートナーを重視するといっても、自助努力による防衛、とくに国防予算の増加を強く求めてくると考えられます。実際にその動きはみられます。そして、それに応じない国との関係を見直すべきと、強硬派は率直に主張します。 バイデンのアメリカは、覇権といわれるほどの実力を持ち合わせていた時代のような振る舞いをみせ、リーダーとして美辞麗句を並べた主張をみせることがあります。米軍も、いつもと変わらず、自信に満ちあふれた形で中国への軍事対応を進めているように見えることもあるでしょう。しかし、あきらかに米ソ冷戦をはじめたときのようなアメリカと今のアメリカは違います。 米中対立は構造的な理由で今後も続きます。しかし、日本や各国はアメリカに頼ればよい、という単純な結論にはならないのです。自由主義的な国際秩序が大事だ、と唱えればそれで良いわけでもないのです。自らのパワーをどう確保するのか、望ましい秩序を実現するために何をすべきか、安全保障においても、経済や科学技術においても、従来の延長線上ではなく、「本気の取り組み」が求められます。

  • 「米軍増派は誤り」 元米国防次官補代理語る ウクライナ危機の深層

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年2月18日17時55分 投稿

    【解説】コルビー氏の発言は米国の対中強硬論にある、中国に専念すべきという考えをよく示しています。彼は米紙WSJにも共著のオピニオンで似たような議論を展開していますが、戦略的課題としての中国、台湾問題に集中するために、ウクライナ問題への深入りは深刻な誤りとそこでも断言しています。アメリカの保守派は対露強硬で固まっているわけではないのです。 こうした考えの背景には、中国への不信に加え、アメリカのリソース(資源)が限られているという認識があります。さらに彼には、アメリカの同盟国(日本を含む)が軍事予算を増加すべきという考えも強くあるようです。 彼の考えは二正面戦争を見直す「1つの戦争論」にも発展しており、米軍の兵力体制をめぐる議論はたしかにその方向に一度舵を切りました。さらに政策文書の国家安全保障戦略(暫定版)(2021年3月)において、バイデン政権は中国を「唯一の競争相手」として、ロシアとの違いをつけました。 しかし、中国を念頭に国際秩序を守る、そのために同盟を駆使するという考え方をとるにしても、ウクライナ問題で対応を誤ればまさに同盟国から信頼を失い、国際秩序の原則も傷つけてしまうことになり、そのことを分かっているからこそ、バイデン政権は少し腰が引けてはいますが、ウクライナ問題に対応を続けています。 今後、果たしてバイデン政権が中国、ロシアの2つの挑戦が最重要という立場にもどるのか、また具体的な安全保障政策のレベルでもリソースを中国だけに集中させないのか、注目していく必要があります。

  • あなたは「Q」か?疑惑の人物の答えは…陰謀論集団の黒幕を追った

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年2月15日10時9分 投稿

    【視点】注目の連載が始まりました。アメリカ在住の特派員だからこそできる、アメリカ政治の実態に迫るルポルタージュになることを期待させます。ネット発の陰謀論は政治を大きく動かしており、とくにQアノンは大規模です。アメリカの民主主義を根底から揺さぶったとみられますが、影響は世界に及びます。外国からの政治的意図で行われる偽情報もネットで蔓延しますが、こちらの方が思想的に人々に入り込む力が強いようにも見えるます。 記事文中にQなど固有名詞が多用されますので、最初に末尾にあるQアノンの説明を一読してから記事を読むことをおすすめします。

  • 対中抑止が柱、実効性に課題も 米「インド太平洋戦略」のポイントは

    佐橋亮
    佐橋亮
    東京大学東洋文化研究所准教授
    2022年2月13日15時1分 投稿

    【解説】今回のインド太平洋戦略文書は、大枠で目新しい主張があるわけではありません。強いて言えば、中国に関する記述を抑え目にしています。2020年にはポンペオ国務長官は共産中国、共産党という表現を繰り返したように、米中対立のなかで問題の根源を中国の政治体制に求めるような表現を強めていましたが、バイデン政権の今回の文書はPRC(中華人民共和国)と繰り返し呼びます。書き手とされるホワイトハウスのスタッフたちの政権入り前の本や論文も、中国を排除するのではなく究極的には共存するような世界(そのなかでアメリカなどが優位になる)を描いています。この文書をもって、対中戦略で強硬さが増している、と考えるのは早計です。 他方で、中国の成長を遅らせ、アメリカが有利になるようなことを念頭に、同盟国やパートナーを動員し、いわゆる経済安全保障政策を推進していることは粛々と進んでいます。それはこの文書を読まずとも、すでに多くの政策方針として公表され、また実行されています。こういった戦略文書は政策広報としての役割を担っていますので、従来の方針をまとめ直している性格が強いのはやむを得ません(なお、日米韓協力をあえて記載したところには政治的な思惑を感じさせます)。 なお、記事にあるインド太平洋経済フレームワーク(IPEF)(記事では経済枠組み)は、バイデン政権が打ち出そうとしている構想ですが、市場アクセスを欠く内容になりますので、他国への訴求力が薄いことは抑えておく必要があります。またアメリカの産業政策が国内企業優先色を強めていることを各国が冷ややかにみているように、安全保障戦略や人権重視を訴える米国とはいえ、経済外交にはそれほど求心力があるわけではありません。中国が巧みな経済外交を展開し、またその経済力そのものに引きつけられる国も多いなか、自由貿易や価値観に照らして進むべきルールを作っていくために、TPPを軸に、日本の経済外交が果たしていく役割が実はかなり増しています。 (この投稿は、先行して配信された短い同趣旨の記事へのコメントの再掲載です)

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