沢村亙

沢村亙さわむら わたる

朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
関心ジャンル:歴史外交・安全保障国際ダイバーシティー人権

最新コメント一覧

  • 「意図的に政治化」された中絶問題 米国で大きな論争となった背景

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年6月15日14時59分 投稿

    【視点】 人工妊娠中絶の是非は、米国社会を分断する様々な問題の中でも、とりわけ「是」と「非」を分かつウェッジ(社会にくさびを打ち込む)イシューだ。記事にもあるように、中絶反対派の集会はカトリックやキリスト教福音派などの宗教色が充満し、冷静な対話や論理的な議論が成り立たない感覚にとらわれる。  不思議なのは、米国全体として宗教色が強まっているわけではないことだ。調査機関ピューリサーチセンターによると、2007年には8割近くが「自分はキリスト教徒」と答えていたのが、2021年には6割まで減ったという。かわりに「どの宗教も信じていない」との回答が3割近くに増えている。  もうひとつは、人口の8割がカトリック教徒のアイルランドが2018年に国民投票で人工妊娠中絶を容認。やはりアルゼンチンをはじめカトリックが多い南米諸国でも中絶を認める国が近年増えている。米国はこれらの国々と逆を向いている。  まさにこの記事で識者が指摘しているように、米国で中絶は意図的に「政治化」されたといえるだろう。つまり中絶反対が保守層のイデオロギーとなっているのだ。無宗教の人口が増えて実存的な危機感も広がるだけに、「自分たちの立場を守る」意識で強く結束する。  人種的マイノリティーが増えて危機感を募らせる白人(保守層)、乱射事件が相次ぎ世論の逆風にさらされる銃規制反対派と、重なり合う部分も多い。  ただ中絶の権利は、単に妊娠プロセスを止めるかどうかといった話にとどまらない。女性が自分の身体や健康、人生選択について自己決定権を持つかどうかという問題に直結する。つまり女性が長い時間をかけて獲得してきた人権の問題と不可分なのだ。  住んでいる州で中絶が禁止されたら、経済的に余裕がある層は中絶が容認されている州に移動して中絶を受けることができても、そうでない層は望まぬ妊娠を余儀なくされるか、場合によっては危険な自己中絶に走りかねない。要するに米社会で広がる格差の問題でもある。

  • 容疑者の男、校舎侵入から射殺されるまで1時間以上 米銃乱射事件

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年5月27日9時7分 投稿

    【視点】たいへん胸が痛む話だが、これだけの惨劇をもってしても、米国の銃規制強化はたぶん進まないだろう。そして、同様の事件が起こる可能性は小さくない。秋の中間選挙、2年後の大統領選と、米国はこれから政治の季節を迎え、すでに「南北戦争レベル」ともいわれる今の政治・社会分断がもっと深まるからだ。  2007年、バージニア工科大学で32人殺害。2012年、コネティカット州で26人殺害。2018年、フロリダ州の高校で17人殺害。こうした耳目を引く事件ばかりではない。CNNによると今回のテキサスの事件までに、今年に入ってから米国では学校での銃撃事件が39回起き、61人が死傷したという。  かつて米国で会った高校生は自分たちのことを「ロックダウン世代」と話していた。日本の学校が地震や火災を想定した防災訓練をするように、多くの米国の学校が銃撃事件を想定して、教室や建物にカギをかけて不審者を入れない訓練をする。つまり、今の米国の子供たちにとって銃の脅威は「当たり前の日常」といえる。  もうひとつ衝撃的なニュース。米疾病対策センター(CDC)のデータで、米国の1~19歳の死亡原因が、2020年に「銃」が「交通事故」を上回り、死因トップになったというものだ。  大きな事件が起きるたびに、銃購入者の審査の厳格化や殺傷能力の高い銃の販売規制など、いわゆる銃規制を求める声が盛り上がる。でも政治は動かない。敵か味方かといった政治分断の深まりの中で、銃規制に対して「リベラルのアジェンダ」というレッテルが貼られる。人間の命、子供の命をいかに守るかという議論はそっちのけで、党派的論争が繰り広げられる。そして結局は、「銃保持を訴えれば保守票(そして全米ライフル協会の寄付も)を結集できるかわり、銃規制を訴えても票にならない」という悲しい現実に阻まれる。  おそらく、今回もそうしたシナリオをたどるのだろう。この負の連鎖にどう歯止めをかければいいのか。これこそ米国の民主主義が背負う十字架である。

  • 国連はもう限界なのか 世界秩序の3つの分かれ道と日本ができること

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年5月13日9時44分 投稿

    【視点】 「常任理事国は国際平和の守り神。国際紛争を平和的に解決するという国連創設の原則を守る重い責任があるはず」という高須さんの指摘。この「はず」の2文字が、混迷の根源を象徴的に示している。拒否権という「特権」を付与されたかわりに重い責任を負わされている「はず」の大国が、まさしく侵害の当事者となる事態に有効に対応できる仕組みが、国連のシステムには用意されていなかった。  これは古くて新しい問題で、1990年代と2000年代の前半にも安保理改革を求める動きが盛り上がった。前者は冷戦終結に伴う米国一強への懸念、後者はイラク戦争をめぐって深まった国際社会の分断が、改革を求める声のきっかけにもなった。かのように国内世論と同様、国際社会にも物事を動かす「機運」「国際世論」というものがある。ロシアによるウクライナ侵攻を機にいかに、改革への機運を高め、維持し、変化につなげるかがカギとなるだろう。  残念ながら特効薬、即効薬はない。ただ、高須さんも触れている「国連総会がもっと強力な機能を果たす」については、いくつかの動きがあった。ひとつは40年ぶりに開かれ、圧倒的多数の141カ国がロシア非難に賛成した国連総会の緊急特別会合。ロシアへの強制力はなくとも、有志国による制裁など対抗措置への一定の「お墨付き」になっただろう。  もうひとつは、常任理事国が拒否権を行使した場合に総会で説明を求める総会決議。〝説明を拒否してよけい疑念を招く〟〝しどろもどろの説明で恥をかく〟ことを余儀なくされれば、間接的ながら「抑止力」にはなるだろう。  別の日本の国連大使経験者は「ほんらい国際社会は醜いもの。今回はその醜い現実が見えてしまったということ」と評した。国連を理想視する夢破れたいまこそ、国連システムの不備を乗り越える「あの手この手の」知恵と策を、したたかに探るべきだろう。

  • 右翼のルペン氏、得票4割 フランス大統領選が可視化した「分断」

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年4月25日12時48分 投稿

    【視点】 事前の世論調査の推移から見れば、得票差は意外に開いた印象だ。確かに「59%対41%」というのは通常の選挙では大差といえる。しかしかつてパリ特派員として、ルペン氏率いる「国民連合」の前身である「国民戦線」を取材し、その歴史的に強烈な排外主義をその基盤に有していた政治勢力が4割も得票したというのは、時代の変化やルペン氏の「脱悪魔化」路線を割り引いても、憂慮すべき驚きだ。(そもそも2002年、ルペン氏の父親との決選投票でシラク氏の得票は8割を超えていた)  たしかにエリート色、「上から目線」批判がつきまとうマクロン大統領だが、それでも失業対策やウクライナ問題など、実績でも「強いリーダー」像でも一定の評価があったことを考えれば、もし低迷著しい中道右派や左派の伝統政党のぱっとしない候補がもし決選の相手だったら、「ルペン大統領」だってありえたかもしれない。  米国もそうだが、特にリベラル層、中道左派では、社会保障、温暖化問題、ジェンダーなど支持層の関心がますます細分化している。一方、「左」との政策の違いが打ち出しにくくなった結果、中道右派も移民排斥など「より右へ」のバイアスがかかる。  反トランプで当選した米国のバイデン氏も、口では「民主主義」を唱えながら、理念先行で足がついていないため分断を克服できずにいる。守るべき価値観はいったい何か、一方でその価値観を守るのにいかなる「痛み」を伴うか、もろもろの痛みを差し置いても、それを上回るいかなるメリットがあるか。丁寧な説明を尽くさないと、今度こそマクロンも愛想を尽かされ、「やっぱり極右しかないね」ということにならないか。それが心配だ。

  • 国連総会、ロシア非難決議を141カ国賛成で採択 反対5カ国のみ

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年3月3日12時50分 投稿

    【視点】 今回の採決にいたるまでの国連総会での各国大使の演説から浮かび上がったのは「大国の横暴」に対する「小国」の怒りだった。とりわけ印象的だったのがカリブや南太平洋の島国などからの異議申し立てだ。  ジャマイカの国連大使は「その国の大きさや地位(statue)にかかわらず、すべての国に安全な環境をもたらしてくれるように設計されたのが国際法の枠組みと国連憲章だ」と述べた。つまり軍事力や経済力で劣る小国こそ、国連、そして国連憲章がその国の存立に不可欠な「よりどころ」であるとの「叫び」だ。大使は「その意味で、私たち全員がウクライナ人です」と述べ、同国出身の歌手、故ボブ・マーリーの歌のタイトル「ゲット・アップ、スタンド・アップ(目を覚まし、立ち上がろう)」で演説を締めくくった。  やはりカリブの島国、アンティグア・バーブーダの大使は「すべての国が国際法を順守すること。それこそ、私の国の安全の中核」と述べた。さらに、世界が今まさに新型コロナのパンデミックから復興しようとし、一方で気候変動対策にもっと努力をしなければならないさなかに「今回の紛争でそれらの議論が停滞すること」への強い危機感をにじませた。  南太平洋の島国、マーシャル諸島の大使は「私たちの国は小さい。しかし大きな声で叫ぶ」と前置きし、「国連は(安全保障の)基本的なプラットフォーム」と訴えた。  パラオの大使は「ウクライナは旧ソ連の大きな国、パラオは熱帯の島国と、共通点はほとんどないように見えるが」としつつ、同じ1990年代に独立するなど「ウクライナに親近感をおぼえる」。ロシアがウクライナとの「歴史的一体性」を説いて戦争を始めたことについて、「植民支配された国や過去占領された国が世界にどんなに多くあることか」と述べ、「統合された世界において、歴史を戦争の口実にしてはならない」と訴えた。  一方、マレーシアの大使は、プーチン大統領が核戦力の「特別態勢」を命じた問題をとりあげ、ロシアなど核兵器を保有する5大国が1月に出した「核戦争に勝者はない」とする共同声明を順守せよ、と厳しく注文した。大国が「拒否権」という特権で国際社会の合意形成をはばむことに対する不満の声も相次いだ。  ロシア軍の即時撤退を求めた今回の総会決議に法的拘束力はない。しかし、地球温暖化にせよコロナ対策にせよ、大きな危機をめぐる大国と小国の「格差拡大」が顕著になってきたところへ、大国が身勝手な理由で自分より弱い隣国に攻め込む横暴が現実に起きた。噴き出した怒り、不満、不安が、数字となって可視化されたといえるだろう。あのキューバですら、2014年のロシアのクリミア併合を非難する決議に賛成票を投じていたのが、今回は棄権に回った。  すぐには変わらないかも知れないが、長期的な構造変化を予感させる。

  • バイデン氏が演説「プーチンは間違っていた」「彼に責任をとらせる」

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年3月2日22時45分 投稿

    【視点】 私が過去聞いたアメリカ大統領の一般教書演説でも、かなり「内向き」の部類だったように思える。あのトランプ氏の方が(中身の是非はともかく)世界を語っていた。  確かに1時間くらいの演説で冒頭の20分くらいはウクライナ一色。確かにこの問題に限っては党派を超えて耳目を集められるホットテーマだ。  あとの時間は内政、それもインフラ法や最低法人税率など、数少ない実績の誇示、さらにこれから取り組むという、かなり細かい内政テーマの羅列。つい先日まで頻繁に口にしていた「民主主義(democracy)」は(複数形も含めて)4回。「中国」にいたっては、たったの2回。大国間競争と秩序の規範が崩れた時代に、いかに向き合い、米国としてのリーダーシップを回復していくかという展望は、ほとんど聞かれずじまいといって良い。  それもそうだろう。昨夏のアフガン撤退の混乱、インフレ・燃料高騰、目玉法案の停滞など、失態や誤算が続くバイデン氏にとって、今回の一般教書演説はある種の「ダメージコントロール」だったといえる。  まだ国民が関心を持っている間(厭戦気分にならない間)に今回のウクライナ危機を「プーチンに立ち向かった実績」と印象づけることはできる。しかし、身近なテーマ(つまり内政、さらにいえばインフレや治安・移民)で目に見える成果を早急に出し、政権への信頼をつなぎとめねば、本質的に対外関与に消極的、かつ何事も分断の口実にされがちな今の米社会のムードに再びかき消されてしまうという意識があるからだろう。

  • プーチン氏、核戦力含む特別態勢を命令 「欧米の攻撃姿勢に対抗」

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年2月28日10時39分 投稿

    【視点】 プーチン大統領は過去にも危機に際して核戦力を示唆してきた。しかしいったん開かれた戦火のさなかに「特別態勢」を命じるというのは、あまりにも危うく、そして、軽率だ。いまや情報の混乱そして戦況によって誤解・誤算が起きるリスクは極度に高まっている。国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」もさっそく「危険かつ無責任」とプーチン氏を非難する声明を発している。  「ウクライナは核を持たないからロシアに攻め込まれるのだ」という言辞もちらほら聞かれる。ソ連崩壊時にウクライナにあった核兵器をロシアが引き取る代わり、ウクライナの主権を尊重する合意をロシアと欧米は交わしている。  バイデン政権がかねて「ウクライナに派兵しない」と宣言したのは、もし米国とロシアが軍事的に直接対峙すれば、「核戦争」を惹起しかねない懸念があった。しかしその後の展開をみれば、核抑止をもってしても、ここまで露骨に法を踏みにじる蛮行は止められなかったこともはっきりしている。  そもそも核抑止は、核兵器を保有する相手の国(のリーダー)が核戦争のリスクについて理性的な判断を有しているという前提に成り立っている。今回の侵攻をめぐるプーチン大統領の反応はそうした前提に疑問を突きつけるものだ。  やはり核兵器を違法化し、なくしていくこと「しか」、選択肢はないのではなかろうか。たとえ時間がかかろうとも。

  • ロシアの侵攻、安全保障に直結せず? 派兵しない米の本音と国民感情

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年2月25日16時22分 投稿

    【視点】ケイトー研究所は、個人的・経済的な自由の尊重、小さな政府、公的規制や関与の極小化を求めるリバタリアン(自由至上主義者)系の米シンクタンクだが、この識者が説く米国のウクライナ問題への非介入指向はたしかに党派を問わず米社会に広く浸透しつつあるように思える。  AP通信などがこのほど実施した、米国がウクライナ問題にどの程度関与するかを尋ねた世論調査では、「小さな役割」が52%と、「大きな役割」の26%を大きく上まわった。特に「小さな役割」と答えたのは、民主党支持者も共和党支持者も同率。(「大きな役割」としたのは民主32%、共和22%)  いろいろな理由が指摘できるだろう。ローガン氏が言うように、泥沼になった「対テロ」戦争への疲れ、米国人にとって安全保障上の脅威と感じられないこと--は大きい。バイデン外交そのものが信頼できない、というのもあるだろう。  トランプ時代を経た今の米国の保守層が対外関与に後ろ向きとなった理由は理解できるが、リベラル層はやや複雑だ。特に若い層にとっては、冷戦時代そのものが記憶の枠外にある。差別や格差などの「不公正」をいやというほど身近に見ているため、いくら「民主主義や自由のモデル」と米国を称揚してもピンとこない。 いぜん、シリアやアフガンからの米軍撤退を主要公約に掲げる米大統領選(民主党予備選)の候補の選挙集会を取材して、集まっていた若者に「では米国が果たすべき役割は?」と尋ねたら、「温暖化対策で率先すること」という答えが返ってきた。  狭い地球で地政学的な争いを繰り広げていることへのアパシーだとすれば、一概に「内向き」と切って捨てるわけにいかないかとも思う。

  • マスクやワクチンも政争の具 「非トランプ」では癒やせなかった分断

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年1月23日18時40分 投稿

    【視点】最近、civil war (内戦)とかSecond Civil War(第2の南北戦争)といった物騒な言葉が米国では飛び交っている。これには二つの意味があるように思える。まず、分断が極まった結果、もはや対話によっては解決せず、暴力でしか決着がつかないという考え。もう一つは、共存は不可能なので、いっそ二つの国に分裂してもやむなしという考えだ。  とくに最近、世界の紛争の分析をしているカリフォルニア大学サンディエゴ校のバーバラ・ウォルター教授が新著「内戦はいかに始まるか」で、「内戦に陥った他国と同様の物差しをあてはめれば、米国は危険な領域に入っている」と断じたこと。米軍の退役将軍が連名で、昨年1月6日のトランプ支持者による議事堂襲撃事件について「次に起きれば、クーデターは成功する」と米紙への投稿で警鐘を鳴らしたことで、一気に議論に火がついた。  私は長期的にみれば、米国は、白人主導の社会から、多様なアイデンティティーや価値観が並び立つ社会へと移行しゆく大きな過渡期、転換期ではないかと思っている。まだ白人男性が政治、経済、社会の枢要部分(エリート層)を牛耳っているが、いつまでそれがもつのか。いずれは落ち着くべきところに落ち着いていくのではないか。  しかし、それは「長期的」という話であって、次の大統領選挙は2024年に迫っている。仮にトランプ氏が出馬し、民主党候補(それがバイデン氏かどうかはわからない)と得票を競えば、どちらの陣営、支持者ともに「選挙結果」を受け入れないだろう。その意味で、civil warは現実味を帯びる。  ところで、トランプ氏はエリート打破を唱えて台頭した。そのトランプ氏が既得権を失う白人(中間層の男性)の絶大な支持を受けているのは皮肉な構図ではある。

  • バイデン氏がトランプ氏を非難 議会襲撃「民主主義ののど元に短剣」

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年1月7日13時45分 投稿

    【視点】 連邦議事堂を襲撃・占拠したのはいったい何者なのか。  「ごりごりの白人至上主義思想にとりつかれた活動家」「経済のグローバル化にはじき出された労働者層や失業者」といったイメージとはまったく異なる人物像をあぶり出したシカゴ大学の研究チーム「Chicago Project on Security and Threats」の分析が興味深い。  逮捕・訴追された700人以上の半分以上が、自営業者、経営者、ホワイトカラー、医師、弁護士、建築家らを含む専門職など、それなりに社会的地位がある人物だったという。うち失業中は7%と平均的な失業率と大きな差はなかった。また、暴力的な白人至上主義グループに所属しているのは14%にすぎなかったそうだ。  彼らの居住地も、必ずしも保守が強い地域ではなく、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロス、フィラデルフィアなど大都市周辺が多かったとのこと。  要するに、身の回りの人口構成が急速に多様化するのになじめず、「白人の地位が脅かされる」と感じている層が多かったということになる。こうした「他者にとってかわられる」恐怖心はフランスをはじめ欧州での極右台頭の背景としても指摘されるところだ。  マジョリティーのマイノリティー化、マイノリティーのマジョリティー化は、開かれた社会においては止めようがない動きだ。それへの反発がますます暴力的になっていくのか。それともいずれ変化に慣れて終息する過渡的現象なのか。気になるところだ。

  • 言行不一致の核保有5カ国 「核戦争回避」を素直に受け取れぬ理由

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2022年1月5日10時40分 投稿

    【視点】 「核戦争に勝者なし」。今回の共同声明が引いたこの文言は、冷戦中だった1985年、スイスのジュネーブで初めて会談した米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長の共同声明に明記されたものだ。  実はこの時の首脳会談で、ほかにも興味深いエピソードがある。全体会議の合間に湖畔の山荘で、レーガン氏とゴルバチョフ氏は通訳だけを同席させ、暖炉をはさんで向き合った。  「アメリカが宇宙人に攻撃されたら、助けてくれますか」とレーガン氏。  ゴルバチョフ氏がすぐさま応じた。「もちろん」  レーガン氏も返した。「我々も(ソ連を助けます)」  レーガン氏のSF好きはかねて有名だったが、この「秘話」はかなり後になってゴルバチョフ氏自身によって明かされた。  こうした首脳同士の気のおけない対話が、その後の雪解けの下地をつくったものと思われるが、それ以上に、冷戦という分断状況にあって東西陣営のリーダーが「宇宙人の攻撃」という「人類共通の脅威」に同じ態度で向き合っていたのが興味深い。  冷戦が終わって「わずか30年」というべきか、それとも「もう30年」なのか。勝利したかにみえた米国には、もはや一国では世界の核軍縮・核廃絶への行程を牽引していくパワーがなくなってしまったという「ニューノーマル」なのか。ロシアをはじめ、さながらゾンビのように立ち上がる「冷戦思考」は、歴史は繰り返すということなのか。  それとも本当に宇宙人が攻めてきたら、世界は「結束」をするのだろうか。  いずれにせよ、手放しで歓迎というわけにはいかない共同宣言である。

  • 極右の弁護士vs左派の元学生連盟会長 チリ大統領選、決選投票へ

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年11月23日9時32分 投稿

    【視点】 新型コロナのパンデミックが世界を覆う少し前の2020年1月にチリの首都サンティアゴに出張した。前年、チリを揺るがした若者を中心とした反政府デモの余韻が当時はまだ残っていた。街中いたるところにある落書き、放火され閉鎖したホテル、商店――。  経済成長が続いて「南米の優等生」といわれ、中道右派と中道左派が政権交代を重ねる陰で、経済自由化の恩恵が既得権を握る一部の富裕ファミリーを肥やす一方、中間層、とくに若い世代が「成長に見合った豊かさ」への階段からはじき落とされていた。  そうした構造を長年、見て見ぬ振りをしてきた「中道」「穏健」が信用を失い、「より左へ」「より右へ」と民意の遠心力が働いたと考えれば、今チリで起きていることは驚かない。また、多くの中南米諸国に共通する現象ともいえる。  欧州(特に東欧)などと比べて中南米は移民(特に同じラテンアメリカからの)に寛容と見られただけに、反移民感情の広がりには少々驚く。ただ私が訪れた2年前にもその萌芽はあった。当時急増していたのはベネズエラからの難民。比較的、学歴や職歴のある人が多く、チリの若年雇用を圧迫する要因にもなっていた。その後、ハイチからの移民・難民も増え、ブルーカラー層の間でも不満が広がっていたのだろうか。  米国もそうだが、中間層の存在がぶあつい政治的穏健層、中道を形作り、左右の対話が成り立つ民主主義を支えてきた。その中間層がやせ細り、政治もより分断、両極化を強める。このまま民主主義の土台が崩されていくのか。チリには軍政から平和的に決別した歴史がある。そうならないよう期待したい。

  • 北京五輪の外交ボイコット、バイデン氏「検討」 人権問題を懸念

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年11月19日16時4分 投稿

    【視点】 北京五輪の「外交ボイコット」をめぐり、最初のワシントンポスト紙の報道に続いて、18日にバイデン大統領も記者から質問されて「検討している」と公の場で答えた。ウイグル人をはじめ少数民族の人権を侵害するふるまいに対して、国際社会は結束して、許さない姿勢を中国に示すべきだし、指摘されている強制労働や強制不妊などの問題について透明性のある説明を求めるべきは言うまでもない。それを前提としたうえで、米国が検討中というこの外交ボイコットが有効な圧力になるとは思えない。  この記事にもあるように、米国側ではペロシ下院議長をはじめ人権問題を重んじる民主党の有力者からはかねて「ジェノサイド(集団殺害)」だとして五輪参加に反対する声が上がっていた。一方で、共和党からも同様の声が強まっている。特に保守的な宗教右派の間では中国の対応への批判が大きい。つまり今の米国ではきわめて珍しい保守・リベラルが歩調を合わせられるアジェンダとなっていた。  それぞれの主張はそれなりの理があるものでも、すでにこの問題は米国では一種の「国内政治」になっており、中国もおそらくそういうものと見切っているのではなかろうか。おそらく米国が「外交ボイコット」をしたからといって、中国がこれまでのふるまいを改めるとは考えがたい。むしろ国内で反西側ナショナリズムをあおる具に利用されるだけではないか。一方で米国は「五輪の政治利用」の責めを負うことになる。要するに、中途半端なのである。  米政権は同盟・友好国はそれぞれの判断に委ねるとしているが、もし間接的にでも踏み絵を迫るようなものとなれば、かえって分断を生みかねない。人権問題については、「出るべきところ」には出て、結束して伝えるというのが筋ではないか。

  • 入国制限の緩和スタート 受け入れ企業の有無で恩恵に明暗も 

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年11月10日12時31分 投稿

    【視点】 欧州のように感染が再拡大している国や地域もあれば、新たな変異株への懸念もあるので、慎重に物事を運ぶことは致し方ないとはいえ、気になるのは、日本への入国申請時の手続きの煩雑さ、なかんずく求められる書類の多さ、そしてハードコピー(原本や、その写し)主義である。  ウイルス検査にせよワクチン接種証明にせよ、国によっては「電子証明書」がスタンダードになっているところもある。現時点では状況は多少改善されているかもしれないが、たとえば春に私が米国赴任を終えて帰国した時、日本政府は医師のサインなどが入った「紙に書かれた」検査証明を求めていた。当時、すでに米国ではオンラインで検査結果が通知されるのが通例で、「紙」の検査証明を入手するのは容易ではなかった。仕方なく、目をむくような高額な手数料で「日本式の検査証明書」なるものを出してくれる民間診療所にたよった。手続きが煩雑だったり、出すべき書類が多かったりしたため、日本の空港での入国手続きがきわめて「密」な環境となり、そこでの感染の恐怖を覚えるほどだった。  日本式のガラパゴス手続きに拘泥せず、デジタル化にもうまく対応し、本来の水際効果が発揮できる効率性をぜひ追及してほしい。

  • 仏大統領選、極右論客が2位に 差別発言で罰金刑の過去 日本を評価

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年10月25日23時34分 投稿

    【視点】マリーヌ・ルペン氏が党首を務める国民連合(旧・国民戦線)は、もともと仏南部の保守系カトリックを地盤にしつつ、欧州統合に反発する北部の労働者を取り込んでいった。ルペン氏の父で党創設者のジャンマリ・ルペン氏は若いころは、右翼の武闘派として名をはせ、メンバーによる暴行事件も絶えなかった。  それに比べると、ゼムール氏はエリート大学校で学んだインテリで、ルペン(父)に対してアレルギーのある保守層を引きつける可能性がある。一方で、メディア露出で知名度を上げてきたこと、反エスタブリッシュメントの政治的アウトサイダーという面に注目すれば、アメリカのトランプ前大統領や、FOXニュースのトランプ応援団のトークショー司会者に似ている。国民連合は中間層まで支持を広げるため、近年は穏健化路線を進めてきたが、それに飽き足らない層を引きつけているようだ。したがって、反イスラム、反移民の主張は国民連合より過激に感じられる。 ゼムールは日本を評価しているとある。実は「日本ひいき」は欧州の右翼にあまねく見られる現象でもある。「移民や難民に門戸を閉ざしている→テロのない安全な社会」という理屈で、人手不足やヘイトなど「負」の面には彼らは触れない。国民連合ナンバー2だったブルーノ・ゴルニッシュ氏は日本留学の経験もある日本政治の専門家でもあったが、彼と会うたびに「日本のメディアはわれわれを極右というが、やめてほしい。うちの政策は日本の自民党よりは左だ」と苦言を呈されたのを覚えている。

  • (現場へ!)米ローカルメディアの挑戦:2 地域に記者がいるからこそ

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年10月20日14時42分 投稿

    【解説】私が書いたこの記事で触れた「地方記者という『監視役』がいなくなった結果、自治体財政が放漫になり、資金調達コストが上昇する傾向を解き明かした」というのは、米イリノイ大学シカゴ校のダーモット・マーフィー助教らの研究。地元紙がなくなった自治体では、公共事業のために起債した時の利率が高くなる傾向が有意にみられたという。つまり放漫財政になるリスクが増したため。ほかにも、自治体職員の給与が平均して1.5%上昇し、住民が払う地方税も1人あたり平均年85ドル上昇した。 「調査報道はもちろんのこと、記者が日々の取材活動で行政をチェックし、(当局者に)適切な質問を投げかけることが、いかにムダの節減につながるかを示している」とマーフィー助教は私の取材に答えた。 地方紙がなくなると、「国政の分断が地方に波及する」というのは、ルイジアナ州立大学のジョシュア・ダール助教らによる共同研究。地方政治と中央政治はかならずしもシンクロするわけではない。たとえば大統領選では民主党候補に投票しても、地元の地方議員や政治任用の教育委員などは共和党候補に投票するということは日常的にある(split-ticket voting)。しかし地元紙がなくなると、地方政治に関する情報が薄くなる反面、中央政界のニュースに引っ張られて、国政選挙と地方選挙で同じ投票行動をとる人が増える。 分断が深まるだけでなく、より市民生活に密着しているはずの地方政治がゆがむと、ダール助教は指摘している。

  • G20、アフガン支援協議 日本220億円、EU1300億円

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年10月13日12時38分 投稿

    【視点】アフガン政権の崩壊から2カ月たつというのに、国際社会は「アフガンをいかにして支援するか」の入り口論でいまだに足踏みをしている。そんな中でEUの約10億ユーロの支援というのは目を引くが、おそらく欧州にはこのままでは2015年の「シリア難民危機」の再来になってしまうという危機感があるのだろう。  一方、米国はG20サミット後の発表文は「ISの脅威などテロ封じ込めに照準を当て続けていくかを議論した」という部分が先頭に来て、人道支援の必要性は後半で言及。しかも「いかに国際組織を通じて、アフガンの人々に直接支援をとどけるか」とわざわざ強調している。つまり〝タリバン政権〟の承認はまだまだ先の話で、当面はタリバンの統治の行方を注視する姿勢がありありだ。(ホワイトハウス報道官はアフガン資産の凍結解除について、明確に「ノー」と語った)  しかしこのままアフガンの人道状況が悪化の一途をたどれば、麻薬取引などの闇経済の蔓延はもとより、もたらされる混乱がISなどテロ組織に有利になる事態は避けられまい。米国の体力が弱まり、中ロが独自の道を進むなど国際社会に遠心力がはたらくこういうときにこそ、日本が思い切ったプレッジをしてこのスパイラルを断ち切るリーダーシップの一翼でも担ってほしいと思うのだが。

  • バランス重視の岸田内閣 「私でいいの?」と漏らす閣僚も 迫る審判

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年10月5日0時52分 投稿

    【視点】 首相を含む閣僚21人のうち女性が3人。菅政権発足時が2人だった。そもそも女性の政治家が少ないので、ここで指摘するのもむなしい感もあるが、世界との落差は大きい。それももはや「日本は女性閣僚が少ないね」というレベルでなく、「この国の民主主義は大丈夫か」といわれても仕方がない水準。2020年1月時点のデータで女性閣僚はスペインが15人中10人、フィンランドが18人中11人。女性閣僚比率30%以上が先進国と途上国とりまぜて51カ国ある。調査時点(19人中3人)で日本は113位で、モロッコと同順位。  以前取材したマッキンゼーの国際調査を思い出す。「経営陣への女性登用で上位4分の1の企業の利益率は、下位4分の1の企業より25%も上回った」  岸田内閣の平均年齢は61.8歳。老壮青のバランスというが、果たしてそうか。2018年の集計ではOECD加盟国の平均は53歳。当時の日本の数字は62歳で最高齢。

  • 米英、豪の原子力潜水艦保有を支援へ 中国念頭に新たな安保の枠組み

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年9月17日12時2分 投稿

    【視点】慎重に名指しを避けながら中国の台頭を見すえた米英豪の新協力ということになるだろうが、危うさと粗雑感がぬぐえない。 もちろん米英、米豪とも強固な同盟関係で、一緒に戦争を戦った歴史もある。英語圏5カ国の機密情報共有の枠組みである「ファイブ・アイズ」のメンバー国として見えないところでも緊密に連携しているだろう。ただこうしたパワーバランスをめぐる現状変更は、人権・民主主義では厳しく注文をつけ、気候危機など利害が一致する分野では協力するというバイデン政権の対中戦略をかえって難しくするのでないか。インド太平洋地域を舞台にした軍拡競争の一層の加速を招くリスクもあるだろう。潜水艦には通常兵器を搭載するとしているものの、非核国である豪州と高度の核技術を共有するという点も、核不拡散の観点から懸念がある。 英国のジョンソン首相は「これで多くの雇用が英国で創出される」とはしゃいでいるが、豪州はフランスと結んでいた潜水艦の建造契約を破棄。フランスは「裏切り」と反発し、EUでも波紋が広がっている。折しも同じ日、EUが新たなインド太平洋協力戦略を発表したのは皮肉なタイミングになった。そこでは台湾との関係強化など、脱中国依存の方針も盛り込まれているが、中国を見すえた米欧の結束が、今回の米英豪の新協力で揺らがないか。バイデンの米国が、アフガンでの失地回復も含め、じっくり本腰を据えるべき対中政策を、生煮え、前のめりで進めていかないだろうかと心配になる。

  • アフガン撤退「裏切りだ」 米議会公聴会で追及 政権は「想定外」

    沢村亙
    沢村亙
    朝日新聞論説委員=国際政治、歴史
    2021年9月15日13時59分 投稿

    【視点】ふつう、外からの危機は国の結束をもたらす。しかし新型コロナへの対応を見てもしかり。そんな歴史的危機すら分断に結びついてしまうのが、今の米国だ。ましてアフガン撤退をめぐる「失態」が格好の政争の具になるのはある意味当然の成りゆきだろう。一方で20年間もの「終わりのない戦争」に財政的なゴーサインを与え、ずるずると続行を可能にしてきた責任は連邦議会にもある。アフガンから撤退したが、「戦争のコスト」はまだ続く。米兵だけでも対テロ戦争で肉体的、精神的に何らかの障害を負ったとされるのは180万人。彼らの年金や手当は生涯続く。もちろんイラク人やアフガン人ら戦場で民間人が受けた傷はさらに計り知れない。いずれやめるべき戦争だった。

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