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漫画偏愛主義

「マリカ」創刊号(扶桑社)

2008年05月23日

表紙malika (マリカ) 2008年 06月号 [雑誌]
 (扶桑社  ¥ 390)

 今回はちょっと趣向を変えて、雑誌を取り上げてみたい。近年やや力を失っていたレディース誌界だったが、最近、新しい雑誌の創刊が続いている。4月には白泉社から「Jossie」、扶桑社から「マリカ」と、2つの月刊誌が誕生した。今回は「マリカ」に着目したい。

 現在、女性向け漫画は売れなくなっている。大ヒット作はあるが、ほかは売れないのが現状だ。だから、相次ぐ創刊に私には「なぜ」という感がぬぐえない。「マリカ」本誌の中でもツッコミが入っていた。連載のひとつ、コラムニストの神足裕司ら男性3人による座談会形式の「へべれけじじ放談」で、「世の中的にはコミックの読者数はどんどん減っているわけですよ。そんな逆風の中、特に難しいといわれる大人の女性向けのコミック誌を出すんだから、チャレンジャーですよ、扶桑社は」と言われていた。

 改めて「マリカ」を見ると、創刊号の執筆者は藤末さくら、桜沢エリカ、小沢真里とそうそうたるメンバー。それに吉野朔実や一條裕子ら青年誌でも活躍している面々によるショートストーリー。キャッチコピーは「ひとりの時間が待ちどおしい、心に効くコミック誌」だ。扶桑社だけあって、フジテレビとの連携企画でドラマ「ラスト・フレンズ」のコミックなどもある。力を入れているのは間違いない。

 しかし、そこは扶桑社。続けられるかどうかの不安を自らちゃかすような遊び心が本誌の中に見え隠れする。一條裕子の連載は「百人一首を読み解く」。あおり文句に「怒濤の100回連載」とあるのを読んで、「ほんとに100号続くのかよ!」と読んでいるこっちが心配したところで、最終ページの柱(漫画の端っこの余白部分)を読んで脱力させられるのだ。編集部のコメントで「8年後にこの作品は完結します。その際すかさず一條先生に『千夜一夜物語』をお願いしようと画策しますので、親から子へ、子から孫へと『マリカ』を読み継いでいただくよう、お願い申し上げます」とある。まったく、人を食っているというか何というか。

 なぜ女性向け漫画誌が難しいかというと、漫画家よしながふみが言うところの「女の子は抑圧されているモノがそれぞれ違うから」(byよしながふみ対談集「あのひととここだけのおしゃべり」太田出版)だと思う。確かに、女の子は、親の価値観によって示される出世モデルが全く違う。斉藤美奈子の「モダンガール論」(マガジンハウス)でいうところの「女の出世には2つある 社長になるか社長夫人になるか」なのだ。「もっとおしゃれしなさい」か「もっと勉強しなさい」か、親次第で言われることが全然違ってくるわけだ。男性の一般的な出世モデル「社長になれ!」のように単純にはいかない。ちなみに私の場合は「もっとおしゃれしろ」だった。

 というわけで、おしゃれを目指しているだろう「マリカ」を読むと、おしゃれでない私は縮こまってしまう。8センチヒールを履いた主人公には腰が引ける。類は友を呼ぶで、友人にも8センチヒールを履く人はいない。私の周囲は「マリカ」のターゲットにはならないわけだ。

 とはいえ、続けて読んでみたい作品も多い。原田梨花の連載「もうきみを愛していない」は、読み切り形式で、もう終わってしまった恋への、未練とは違った切なさを描いている。熱い恋愛物語ばかりでないところが、大人の女性向けらしく共感がもてる。

 百人一首を完遂しろ、とはいわないが、今後もぜひ遊び心を忘れず、続けていって欲しい。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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