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貴志祐介さんが新作 超管理社会の恐怖を克明に

2008年03月03日15時01分

 保険金をめぐる人間の欲望を描いた『黒い家』など、出色のホラーで知られる作家の貴志祐介さん(49)が新作『新世界より』(講談社)を出した。1000年後の日本で子どもたちが次々と消え、想像上の動物たちと人間の戦いが繰り広げられる。身の毛がよだつ怖さだけではなく、超管理社会や、自然を破壊し続ける人間への警告も読み取れる。

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 『新世界より』は、真言(マントラ)を唱えて物を動かす「呪力」を使う人間と、人間並みの知能を持った生物「バケネズミ」が共存する世界を描く。一見平和だが、子どもたちの行動は徹底的に管理され、都合の悪い記憶は消され、問題があるとされた子どもは、不良品をより分けるように処分される。小さな規則違反をしたことから、次々と友達を失った主人公・早季は、人間とバケネズミの戦争に巻き込まれていく。

 構想の原点は生物学の本を読みふけった学生時代にある。「動物行動学者のコンラート・ローレンツが、人間の攻撃性について書いた本に感銘を受けました。オオカミのような攻撃的な動物は、負けのポーズをとったらそれ以上攻撃しない。一方、人間は知力は発達しているものの、そうした抑制は働きにくい。その特徴と念動力を組み合わせると、とんでもないことが起きるのではないかと」

 人間の言葉をしゃべる「バケネズミ」は、東アフリカに住む「ハダカデバネズミ」をもとに思いついた。ネズミなのに、アリやハチのように女王を中心としたコロニーを作る。人間と共存しているといわれながら、実は常に人間の機嫌をうかがい、時には狩られる者の悲しみをバケネズミが語る場面は圧巻だ。

 現在の教育をめぐる問題も意識の中にあった。「弟や知人が『子どもが死んで帰ってくるのは何としても止めなければ』と言うのを聞き、現実はそこまで来たかと衝撃を受けた。だが、大人が子どもを恐れていては問題は解決しない。そうしたメッセージもこめた」

 タイトルの『新世界より』は、ドボルザークの曲からとった。小学校高学年の時、生まれて初めて買ったLPだ。『新世界より』では、この音楽が効果的に使われている。また、主人公たちが利根川をカヌーで下る場面は、自然の美しさが活写される。だが、こうした描写さえ、牧歌的な日常が冷たい恐怖と隣り合わせであることを強調する。

 下調べに時間をかけるせいで、寡作の印象が強い。「日本推理作家協会賞を受賞した時、宮部みゆきさんに『もっと書きなさい』と激励された。腹案ばかりたまって、死ぬまでに書ききれないんじゃないか。スピードをあげようと思う」。現在、高校を舞台にしたサイコホラーを執筆中だ。

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