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2012年5月4日11時3分
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サラダ記念日から25年 俵万智、震災後つづった歌集

写真:俵万智さん=品田裕美撮影拡大俵万智さん=品田裕美撮影

 歌人俵万智が歌集『風が笑えば』(中央公論新社)を出した。ミリオンセラー『サラダ記念日』刊行から25年。節目の歌集には、大震災後の日々をつづったエッセーを織り込んだ。「特別な一冊になりました」と語る。

 《川べりの道を散歩に選ぶ午後風が笑えば水面が笑う》

 『風が笑えば』は、英国在住の写真家奥宮誠次の写真に短歌をつけた写真歌集だ。2008年からの雑誌連載を編集し、エッセーを書き下ろした。「大震災からの1年と連載していた40代、『サラダ記念日』から25年を振り返り、自分の心の整理もできればいいな」と思ったという。

 震災当日、俵は8歳の息子を仙台に残し、仕事で上京していた。携帯電話は夜までつながらず「息苦しくなるほど祈りつづけた」。5日後にやっと仙台に戻ると、翌朝、息子を連れ、たまたま飛行機に空席があった沖縄を目指した。

 一時避難のつもりだったが、海で生き生きと遊ぶ息子の姿を見て、友人のいる石垣島で暮らすことを決めた。逃げたと非難を浴びた。エッセーには「『そこまでしなくても、よかったのにね』と、早く言われたい、と思う。ここでの暮らしが、いつか幸せな笑い話になりますように」と書いた。

 「震災で変わったのは、自分にとって一番大事なのは子どもだと潔く考えられるようになったし、人に助けてと素直に言えるようになったこと」と話す。

 歌集に、津波や原発事故をうかがわせる短歌は一首もない。けれど、どれも震災後の心にしみる。例えば、幼い子が庭先で手を広げてニワトリを追いかけている写真と短歌。

 《風と草と光と春のかくれんぼ探してごらんさわってごらん》

 震災前の作品だが、「草と水があり動物がいて、そこに子どもの笑顔がある。当たり前の光景がいまは奇跡のように感じられる」。

 20代は「短歌で自分を表現したい」と考えていたが、今は「短歌で何を表現できるか」に関心がある。内容も恋愛から子育てへと変わった。しかし、根底には一貫して、物事を肯定的に受け止める姿勢がある。

 「8いやなことと2いいことがあったら、この2だけをうたにしたい。それも特別な体験ではなく、だれもが目にしている道端の石ころに名前をつけるようなこと。それが詩を書くことだと思っている」(伊佐恭子)

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