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2012年6月6日10時32分
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創作の源は「言葉を磨く」 大江健三郎、綿矢りさに語る

写真:語りあう綿矢りさ(左)と大江健三郎=東京・音羽拡大語りあう綿矢りさ(左)と大江健三郎=東京・音羽

 中編集『かわいそうだね?』(文芸春秋)で大江健三郎賞(講談社主催)を受けた作家の綿矢りさ(28)と、ひとりで選考した大江健三郎(77)の公開対談が東京都内であり、小説の言葉について語りあった。

 表題作は百貨店の店員樹理恵(じゅりえ)が主人公。恋人の隆大(りゅうだい)は、住む場所のない昔の彼女を自室に同居させる。樹理恵はかわいそうだからと許したものの、葛藤はすさまじい。最後には日ごろ封印していた関西弁で、2人に本心をぶちまける。

 綿矢は17歳のときに「インストール」で文芸賞、19歳のときには「蹴(け)りたい背中」で芥川賞を史上最年少で受賞した。その後の自己鍛錬から生まれた受賞作について、大江は「若い人のために書かれた作品だが、年代を超えた説得力をもち、私のような老人でも熱中できる。小説の書き方がたくみであり、日本の純文学には未来があると思った」と評した。

 大江が特に注目したのは「慈愛」という言葉。感情を爆発させた樹理恵は、卑小な同情心から一歩踏みだし、慈愛という深みのある言葉を思いうかべる。「私自身は慈愛という表現に違和感をもったが、綿矢さんはこの言葉を必要として、書きこまずにいられなかった。小説家にはそんな言葉があるものです」と大江。

 これについて綿矢は「同情や宗教的な愛ではなく、もっとさりげなく、持続的な温かいものを人に対してもちたい」と語った。

 綿矢が創作活動の源を尋ねると、大江は「言葉を磨くこと」と即答した。「自分を人間的な方向へと押しあげてくれる一つひとつの言葉を大切にして、正確に書くことが、小説家として生きるうえで大切です」

 そんな大江が受賞を記念して綿矢に贈ったのは、大野晋編『古典基礎語辞典』(角川学芸出版)だった。

 綿矢は今後の創作について、「私には大江さんのような大きな小説は書けない気がします。私のやり方で小さな小説を書いてゆきたい」と語った。これに対して大江は「大きすぎる小説は書かないことです。短編や中編をしっかり書いてください」とアドバイスしていた。(白石明彦)

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