DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2017/11/29

里親制度の質を向上させる「ソーシャルワーク」の充実を 特定非営利活動法人キーアセット 代表 渡邊 守さん

朝日新聞DIALOG編集部

厚生労働省は2017年7月、虐待など様々な事情があって親元で暮らせない子どもについて、現在は2割未満の里親やファミリーホームへの委託率を、3歳から就学前はおおむね7年以内に75%以上にするといった目標を設定した。委託率を大幅に上げるには、まずは登録里親数を増やす必要がある。そのための課題は何なのか。里親制度のPR活動や里親登録前の研修といった里親支援機関事業を複数の自治体から受託する、特定非営利活動法人キーアセット代表の渡邊守さんに聞いた。

渡邊 守さん

自身も養育里親の経験があるキーアセット代表の渡邊守さんは、里親家庭を増やすには、養育里親の質の向上につながる制度の充実が大切だという。「キーアセットでは、広報啓発活動やメディアへの露出、リーフレットやDVDなどの作成を通じて、里親希望者のリクルートを行っていますが、最も効果的なリクルート方法は“口コミ”です。子どもの育ちを担う充実感を得られた里親が、そのポジティブな経験を友人や親類に発信できるような制度が充実すれば、里親家庭の登録を増やすことは可能です」。実際に、知り合いや親類に里親経験者がいる家庭の場合、問い合わせから登録までスムーズに進むケースは少なくないという。

ただ、里親制度が広く認知され、登録里親数が増えるだけでは、委託率の向上にはつながらないという。「日本にもかつて、地域社会で子どもたちを育てるという時代がありました。しかし、都市を中心にそうしたつながりはほとんどないのが現状です。昔のようなコミュニティーに戻ることを目指すのは現実的ではありません。そこで、そうしたつながりをつくるソーシャルワークが必要になりますが、その担い手の確保がままならないという課題があります」

キーアセットには、里親登録を検討する家庭から様々な質問が寄せられている。よく誤解されるのは、里親になるとその家庭だけで子育てを担わなくてはならないのではないかと考えられていることだ。「養育里親はチームで行います。私たちのようなソーシャルワークの担い手が里親家庭をチームに招き入れ、子どものニーズと地域社会の様々な資源(子育て支援サービス等)をつないでいきます。里親家庭を孤立させず、地域社会と協働して委託された子どもを育むことが重要です」

里子だけでなく里親のニーズも把握し、それに応えられる状況を整えるソーシャルワーカーの育成などが急がれている。渡邊さんは、そうした担い手を育てるには行政の力が不可欠だという。「新しいビジョンが示されたことは、とても意義のあることだと思っています。その実現に向け、私たちも自治体と協働して取り組んでいくつもりです。一方で、ソーシャルワークの実践者の育成などを本格的に進めるには、予算が必要です。それには、なぜ里親のもとで子どもたちを育てることが大切なのか、そうすることで社会がどう変わっていくのかということを、納税者である皆さんにしっかりと伝える必要がある。そうした情報の発信も行政に期待しています」

地域社会に根ざした本物の家庭で育つことは、子どもが自分らしい生き方を目指せる大人に成長する上で重要だと、渡邊さんは考えている。「個別に大切にされる経験をするだけでなく、時に迷いながら家庭生活を営む大人の姿を目の当たりにすることによっても、子どもたちは将来自分が社会に出て家庭を持った時にどうすべきかを学ぶことができます。ごく当たり前の家庭での風景の積み重ね。それを提供することが、養育里親家庭の大きな役割なのです」

渡邊守(わたなべ・まもる)
1971年、北海道生まれ。日本福祉大学卒業後、一般企業での勤務を経て、オーストラリアの大学院でソーシャルワークを学ぶ。2006年に里親登録。家庭養護の質を向上させるため、里親支援に関わる事業を行う特定非営利活動法人キーアセットを2010年に設立。多くの自治体から里親支援機関事業を受託し、新規里親を増やすためのPR活動などに取り組んでいる。

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