DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2018/01/11

20代で会社漬けとかマジありえない
大手商社の若手男子が「定時退社」と「有休」を死守する理由

朝日新聞DIALOG編集部

前回の「働き方座談会」は、バリキャリ志向の男子学生や新社会人男子に、結婚相手に求めるものをホンネで語ってもらい、ワーキングマザーらから「血圧が上がった」とご意見をいただくなど、反響が大きかった。第2弾は、バリキャリ人材だらけの商社に勤務しながら、「会社漬け」とは無縁の生活を送る20代の男子2人に、キャリア観や人生観を尋ねてみた。モデレーターは、働き方改革に関する著作が多い、ジャーナリストの白河桃子さん。座談会は12月中旬の平日夜、参加者が定時に退社して間もない18時半から、東京都渋谷区にある朝日新聞メディアラボ分室で行われた。

参加者はこちらのお二人。(いずれも仮名)

★プリンス
都内の名門私大卒。大手商社1年目で繊維担当。メーカー勤務の父の仕事の都合で海外生活が長く、高校から日本暮らし。幼少期、平日夜は父と近所のコートでテニスをしていた。母は自宅で学習塾を営む。兄が1人。趣味はボイスパーカッション(ボイパ)、コーヒー。

★殿
同じく都内の有名私大卒。大手商社3年目でIT担当。商社勤務の父の転勤で、小学校高学年になるまで外国暮らし。大学時代は中国へ留学。家族は広告会社勤務の兄と、旅行業に従事する母。海外に行くチャンスの多さを考えて、商社に就職することを決めた。

白河:退社早々に駆けつけてくださってありがとうございます。今日は定時退社、有休男子座談会ということなんですが……。ぶっちゃけ、社内で浮きませんか?

プリンス:まあ村八分というか、「スゲー変わってる人」と思われているとは思います。商社って、運動会を始め、社内のイベントがめちゃくちゃ多いんです。運動会は、入社3年目くらいまでは強制参加というのが暗黙のルールで、行かなかったのは僕が初めてみたい。開催が近づくと、昼休みに出し物の練習をしたりして。うちの社は働き方改革の取り組みで注目されているんですけど、社員の精神はあんまり変わっているように見えません。

僕は時間があるなら、ほかのことに使いたいんです。だから毎朝7時頃に出社して、午後6時半くらいまで集中して働いて、ほぼ、定時に退社しています。退社後は社外の人と会ったり、バイトで雑誌のモデルをやったり。実は近い将来、会社を辞めようと思っているので、会社にどう思われるかはあまり気にしていないですね。

殿:社内イベントは本当に多い。夏は運動会。冬はクリスマスパーティーに忘年会。ただ、社風は意外にフラットですね。労働時間が短いとは言えないけど、自由。予定がある日であれば、17時半に帰ろうと思えば帰れますし。平日に開催されるイベントやシンポジウムに参加するために、有休を取ることもあります。

毎日の平均退社時間は19時半くらい。この2、3年で残業はだいぶ減りました。入社1、2年目は月30連勤なんかもあったけど、今はない。残業時間も今は月に50~60時間くらい。上の人が残っていても、自分の仕事が終われば帰れる雰囲気はありますよ。

白河:私もはるか昔のバブル時代に大手商社に勤務していた経験があるのですが、社内の出し物の準備で残業とか、まったく昭和のころと変わってないですね!(笑) 夜の会議室で窓を鏡代わりに踊りの練習をしていました。しかし、商社は優秀な学生が志望するところです。1年目なのに、もう退職を検討中という話もありましたが、あえて商社から「得るところ」を挙げるとしたら、どんな点でしょう?

プリンス:得るところはあると思うんですけど、得るまでの時間がかかりすぎる。「スゲー優秀だな」と思う同期が、コピーを取っていたりして。下積みが大事なのは分かるんですけど、無駄なストレスとか、上下関係が多すぎる。みんな多分、50%くらいのパフォーマンスしか発揮できていないんじゃないかなと思っていて。

入社してすぐ「死にそう」って思いましたね。父親と同じ年代の人に囲まれて、僕が思ったことを口にしても、全否定されて。こうやって、人って老いていくんだなって感じたんです。あとは部署によってもカルチャーが違いますよね。僕の部署は古い体質の人が多いということも多分に影響しているとは思います。

殿:IT関連の部署にいるのですが、改めて考えてみると、無駄な仕事はあまりないですね。若手も新規の企画を提案させてもらえるので、成長できている実感はあります。ITという業界の特性もあるのかな。社内の飲み会とかは厳しいですけど、入社3年くらいまでは社会人としての基本所作を学ぶという意味ではいいと思っています。ただ、確かに3~10年目くらいになると、成長の機会があまりなさそうな気が……。

とはいえ、その年代で海外勤務にバンバン行っている人もいるので、全体として見てみて、不満を感じている人は少ないと思いますね。そうそう、若手社員の間では海外の大学へのMBA留学も人気で、毎年10人くらい行ってますね。僕も狙ってます。

プリンス:僕もMBAに関心があって社内で留学制度のことを聞いてみたんですが、「MBA取った人はみんな会社を辞めちゃうから、推奨していない」って言われちゃいました(笑)。

殿:今は正直、会社を辞めてまでやりたいことはないですね。最近は海外のビジネススクールの日本校のお手伝いをさせていただいていて、プログラムの企画や広報を担当しています。ほかには、プログラミングの勉強と、ピアノを習い始めました。社会人になると、土日がヒマすぎて。学生時代はサークルにバイトにインターンと、いくつも掛け持ちしてたんで、すごく忙しかったんですけど。就職すると、土日がとにかくヒマでヒマで。

プリンス:すごい分かります。同期は休みには合コンばっかりしてるんですけど、もったいないなと思って。僕は今も実家住まいで、定時で退社したら午後7時前には家に着きます。それからはYouTubeにボイパの動画をあげたり、ブログを書いたりしてますね。YouTube上のボイパ動画ってほとんど海外発で英語なんですね。それに和訳をつけたりしているんです。ほとんどオタクの世界ですね。

白河:土日がヒマ! つまり、学生時代にマルチに活動をされていたので、一企業の仕事だけだと、時間を持て余しちゃうんですね。最近の優秀な学生は、NPOなど3つくらいの活動を掛け持ちしていて、社会人になってからも副業的に関わる方が多い印象があります。この世代の「マルチタスク」志向はよく分かります。会社の中にいるだけじゃ「成長できない」と思ってしまうんでしょうね。ちなみに、「余裕があれば、もっと仕事しろよ」という意見には、どう答えますか?

殿:もっとやろうと思えばできますが、あえて引き受けないというところはありますね。会社の仕事一色だけにはしたくないので。

白河:ちなみに、定時退社する時って「お先に失礼します」って言わないといけない雰囲気はありますか? そのあたりが残業カルチャーの分かれ目とも聞いたことがありますが。

プリンス:僕は言います。「お先に失礼しまーす」って。ほとんど毎日、パシッと定時退社なので。申請したら夜10時まで残業できるんですけどね。同期には「なんで帰れるの?」って聞かれますけど、逆に「なんで帰らないの?」って聞く。だって定時じゃないですか。今いる部署は営業じゃなくて、財務分析とかをする内勤系なので、先輩たちも午後6時くらいには帰ってます。9月は決算期とか報告書まとめが多かったので、遅くなる日もありましたけど。

殿:僕は「先に帰ってすみません」というのは言わないですね。帰る時間は自由なので、申し訳ないという気持ちはないですかね。平日は夜8時くらいに帰宅して、家では特に何もしないで8時間くらい寝ます。飲みに行く友達は、外資系コンサルが多いかな。その子たちは飲みが終わったら会社に戻りますけど(笑)。

そういえば、若手社員の残業は「月30時間以内」という指針が最近、できました。オーバーしたらサービス残業扱い。でも、僕は全部つけてます。仕事が減るわけじゃないので。そのことで何か言われたりはしないですね。

白河:サビ残は違法なんですけどね……。企業はよく「最近の若い者は」と言うけれど、自分たちの組織内に問題があるってことに、目が向かない。

プリンス:知り合いが大手広告会社勤務でした。

殿:飲み会が夜12時スタートとかなんでしょ?

プリンス:ラジオ、テレビ局の担当が特に厳しいみたいです。労働時間だけじゃなく、罵詈雑言も日常茶飯事だとか。実は僕、商社で最初に配属された部署でうつになっちゃって。仕事の厳しさには耐えられると思ったんですけど、組織風土とか上下関係の厳しいところに配属されちゃって。僕の机の上に先輩たちのゴミが置いてあって「捨ててこい」とか。「1年目だから」とばかり言われて、どんどん悪いサイクルに入って。会社の最寄り駅に近づくと、過呼吸になったり、涙が止まらなかったり、湿疹が出たりしたんです。その部署の新人は僕1人だったので、誰にも相談できなかった。

ある日、産業医のところに行ったら100点満点のうつで。1カ月、自宅で療養しました。休職中は大学院の講座を聴講したり、人に会ったり。「やっぱり会社だけの人生じゃないな」って思って、復職後に部署が変わってから定時退社をし始めたんです。

白河:早期に専門家の助けを借りて良かったですね。そんな社風の中、同期の方たちのキャリア観って、どんな感じなんでしょう。

プリンス:同期にはあまり友達がいないんですけど……。「この人面白い」っていう人と、狭く深くつきあうのが好きなので。そういう同期は皆、今の仕事を「踏み台」的に考えているというか。転職を考えているのは5人くらいかな。口だけで「転職したい」って言っている人はいっぱいいるけど、そういう人って、実際はしないんですよね。本当に転職を考えている人は言わないです。

うちの社では、情報とか金融を担当している部署は転職者が多いですね。ITベンチャーに行ったりとか。取引先にITベンチャーが多いから、そういう人たちの生き生きとした働きぶりに触発されるみたいで。僕のいる部署はきついので有名で、4年目の人は半分以上が辞めて転職しています。

殿:同期は約170人いるんですが、3年間で辞めたのは5~6人かな。転職を考えているのは、残っている人のうち1~2割くらいですかね。

白河:副業が最近、注目されていますが、商社ってどうなんでしょう?

殿:兼業制度というのがあって、僕は申請しています。同期で1、2人くらいしかいないと思うんですけど。誰にでも認められるわけじゃなく、それなりに本業で成果を出していないと、認められないみたいです。なので、なるべく新規提案も手を挙げるようにしてますね。
僕は月の残業時間が50~60時間くらいなんですが、長さでいうと、部内で3本の指に入るくらいだと思っています。でも、それだけやっているから、好きな時に有休が取れるんじゃないかと。他の皆が忙しい時でも、「明日から3日間シンポジウム出て勉強してきます」って、ふらっと出て行けたりとか。そういうキャラ作りはかなり意識してますね。

有休は7割取得がマストなんです。部署が忙殺されていようが、7割とらないと怒られます。僕としては服装ももっと自由だったらいいのになって思います。取引先のIT企業はTシャツにデニムにクロックスとか。僕も本当はそうしたいんですけど、そこはやっぱりダメで。

白河:将来、結婚とか子育てをしたいとかは考えていますか?

殿:子どもはほしいけど、まだあまり具体的には考えていないですね。週末もやりたいことがたくさんあるので、彼女も今はちょっと……。僕の興味がある活動を一緒にやってくれる彼女だったら最高なんですけどね。家事はなるべくしたくないし、結婚相手だけにさせるのもよくないので、外注できたらいいなとは思います。子どもはなんとなく3人ほしいなと。いろんな経験をさせてみたいんです。この子は音楽、この子はスポーツ、みたいに才能をそれぞれに開花させたい。僕の兄にもうすぐ子どもが生まれるので、自分がおじさんになったら、また考え方も変わるのかなと思っています。

プリンス:子どもは大好きなんですけど、今はイメージできないかな。同世代の女子は、安定的なキャッシュを持って帰ってくる旦那がいいと思うので、僕は夫候補とは思われてない気がする。人生がもう少し落ち着いたら、考えたいですね。家事外注は僕、海外では当たり前だと思っていたんですが、日本に帰国して、日本人ってこんなに他人を信用しないんだなって感じました。家に他人を入れることへの警戒感が相当強いですよね。

白河:私、かつてインドネシアで暮らしていたことがあるんですけど、アジアの働く女性は、家事代行を使うのが当たり前。住み込みのサービスだけじゃなく、最近はウーバーみたいなお手伝いさんの派遣サービスも手軽に利用できるようになっています。日本も東京近郊ではだいぶ家事代行が盛んになってきましたよね。

さて、今日はご参加いただき、ありがとうございました。キーワードを挙げるなら「マルチタスク志向」と「成長志向」の強さでしょうか。限られた時間の中で、マルチに挑戦し、早く成長したいという意識を持っている皆さんからすると、「会社漬け」や「滅私奉公」が当たり前だった日本企業の、従来型の時間感覚や育成速度にはついていけない。これからの働き方改革は、若手社員にどれだけ早く、成長機会を提供できるか、柔軟な働き方を認めるかというところもポイントになるのではないかと感じました。

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