
東京ミッドタウン日比谷で開催中の「朝日新聞DIALOG AI FORUM」。2日目(21日)の最初のセッションでは、「AI×モビリティで変わる暮らしと解決すべき社会課題」をテーマに、4人の専門家が討論を行いました。

もっとも議論が集中したのは、自動運転車を社会実装する際に大きな関門となる「安全」の問題です。
トヨタ自動車先進技術開発カンパニーの鯉渕健常務理事は、「自由に移動できることは、人生を豊かにする。自動運転はそれに寄与するが、事故のリスクは、人間が運転する場合よりはるかに少ないものの、ゼロではない。得られるメリットの代わりに、どこまでのリスクなら受け入れるのか。社会的な合意のもとに実装していく必要がある」と指摘しました。

法政大学大学院法務研究科の今井猛嘉教授(刑法)は、「AIが運転して事故を起こしたとき、誰が責任を取るのかは、精密に議論されなくてはならない。しかし、メーカーだけに責任を負わせるのはフェアではない。人間もAIも『判断』の部分ではブラックボックスなので、どのような『結果』を生んでしまったかで責任を問われるべきではないか」と話しました。
「安全」に続いて議論されたのは「個人の自由」の問題です。東京大学政策ビジョン研究センターの江間有沙特任講師は、「自動運転の質を高めるには多くの情報収集が必要だが、『自分がどこに行ったのか』という情報を他人に知られたくない人もいる。そうした『情報』の部分も含め、運転の自動化に伴う様々な変化に適応するため、ドライバーが知識をアップデートできるような『再教育』システムが必要ではないか」と問題提起しました。

討論のモデレーター役を務めた国際自動車ジャーナリストの清水和夫さんは、「日本人はリスクを受け入れにくい傾向がある。しかし、自動運転はゼロかイチかで判断できるものではない。どこまでのリスクを許容するか。開発者、メーカー、販売者、行政などが社会とどう向き合って、丁寧な説明をしていくのか。社会の中におけるメリットとリスクの議論を深めるため、しっかりと対話をしなくてはならない」と話しました。

午後は七つのセッションとセミナーが開催されました。
「GPUディープラーニングで加速するAIの社会実装とスタートアップ企業の活躍」と題したセッションでは、エヌビディア合同会社の山田泰永さんと、二つのAIスタートアップ企業の代表者が鼎談しました。
AI分野におけるスタートアップ企業ならではの「強み」について、エクサウィザーズ代表取締役社長の石山洸さんは、「動きが早く、リスクを取りやすい点」を挙げました。以前は大企業で研究開発に携わっていた経験から、「大きい企業だと二の足を踏むような領域も、スタートアップなら、リスクをとってチャレンジできる。そこから社会課題を解決できる点が大きな魅力だ」と語りました。
Laboro.AI代表取締役CTOの藤原弘将さんは、石山さんが挙げた強みに加え「スタートアップ企業の社会的信用が上昇している」と指摘。「AIが持つ可能性を評価していただき、資金的な部分でもサポートを受けられることが増え、挑戦しやすくなった。以前は、『会社を辞めてスタートアップ』と言うと、ネガティブな反応されることも多かったようだが、そのような経験は、ありがたいことに、いまだにない」と話しました。
続いて議論されたのは「AIを社会実装していく中で感じる課題」です。石山さんは、「研究者やエンジニアといった技術者と、クライアントが日々生活する現場の常識が違うことが、意外に課題となっている。今まで交わることのなかった人たちを交えて開発していくので、思ってもみない衝突や葛藤が起きる」と明かしました。
藤原さんは「現状の技術水準と、(クライアントが)求める水準が、異なる場合が多い。人間のすることを、AIがすべて代替できるわけではない。その認識ギャップを埋めることが、AIをバズワードで終わらせないために大切だと思う」と話しました。
鼎談のモデレーター役を務めた山田さんは、朝日新聞DIALOGがテーマとする2030年という時代を念頭に「(2030年までは)技術的に大きく変わる12年になる。様々な課題はあるが、AIを社会にとってどのように有用に使っていくかという目線を忘れないようにしたい。その点で、社会課題の解決のためにリスクをとってチャレンジできるスタートアップ企業に期待します」とエールを送りました。

午後6時半スタートのナイトセッションでは、「AI時代に求められる教育とは」をテーマに平成生まれの3人が議論しました。登壇者は、若者のキャリア教育に携わるNPO法人青春基地の石黒和己さんと株式会社キタイエの喜多恒介さん、現役高校生でワンファイナンシャルCEOの山内奏人さんです。テクノロジーの進化で、知識を覚えることの価値が低下する時代に向けて、どんな教育が必要かを若者代表として話し合いました。
6歳で家にあったパソコンで遊び始め、小6のときにプログラミングコンテストで優勝した経験を持つ山内さんは、「好きなこと、モチベーションを持つことがこれからの時代は勝ちになる」とし、自分でプログラムを書き上げる達成感や、それを人に使ってもらい、フィードバックをもらうことがやりがいになっていると語りました。一方で、好きなことが見つからず、追い詰められてしまう心理にも共感を示し、「学校は、必ず行かなくてはならない場所だとは思わない。休んだり、やめたり、回り道したりしながら、やりたいことを探していけばいいと思う」と語りました。

好きなことと出会うきっかけは、「人」でなくても構わない、と語ったのは石黒さん。読書好きだった子ども時代を振り返り、小3のときに図書館で片っ端から本を借り、図鑑や小説などを1年間に300冊読破したエピソードを紹介しました。また、AIの進化により、個々人に最適化された学びの環境が得られやすい時代になっても、多様な考え方や背景を持つ他者との出会いの場としての学校の価値は残り続けると指摘しました。
喜多さんは、子どもの心に「好き」が芽生えるために周りの大人ができることとして、「いいね!」というポジティブなフィードバックを与え続けることと、若者から学ぼうとする姿勢を持つことの2点を挙げました。それらの根底にあるのはズバリ「愛」だと指摘しました。
「好きなことばかりしていても、将来食べていけないのでは?」という会場からの質問には、3人が共に「食べていく、の概念を変えるべきでは」と口を揃えました。今後は人口減で空き家が増え、住む場所を選ばなければ生活コストも下げられるとして、「そんなに稼がなくても生きていける時代は、意外と近いのでは」と語りました。

「AI FORUM」は24日(木)まで、東京ミッドタウン日比谷のビジネス連携拠点「BASE Q」で開かれています。
http://www.asahi.com/dialog/ai/