DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2018/05/29

AIと共に生きることは、「人としてどう生きるか」を考えること AIフォーラム最終日

朝日新聞DIALOG編集部

東京ミッドタウン日比谷で5日間にわたり開催された「朝日新聞DIALOG AI FORUM」が、5月24日に終わりました。人工知能が社会実装される時代に向けて、課題を探ることをテーマとしたフォーラムでしたが、多様な講師のセッションを通じて見えてきたのは、「AIと共に生きていくことは、人としてどう生きるべきかを改めて考えることだ」というメッセージだったのではないでしょうか。最終日のセッションをご紹介します。

5日目のトップバッターは、東北大学大学院准教授で、量子アニーリング研究開発センター(T-QARD)センター長も務める大関真之さんによる「量子コンピュータが人工知能を加速する」と題した講演でした。

通常のコンピュータの1億倍の高速処理が可能と言われる量子コンピュータ。大関さんは「量子力学の原理が分からないから私には関係ない、と思ったら負け。社会や産業界のどんな課題を量子コンピュータに演算させ、その結果をどう翻訳して解決策に役立てていくのか。それを今から考えていかなくてはならない」と力説しました。

講演中には、カナダのベンチャー企業が開発し、ロッキード・マーティン社やNASA、グーグルも購入したとされる世界初の商用量子コンピュータにクラウドでログインし、複雑な1000個の計算を2ミリ秒で解く実演も。「量子コンピュータは、それぞれの企業で役立つ活用方法が必ずある」と大関さん。

最後に大関さんは「私には夢があります」と言い、携帯端末の位置情報を用いて、災害時に被災者一人ひとりの携帯に、最適な避難経路や避難所を個別に案内するシステムを、量子コンピュータを使って開発していることを明らかにし、「量子コンピュータで安全な社会を実現したい」と語りました。

午後のセッションでは、AIなどテクノロジーを駆使した全自動の資産運用システムを提供する WealthNavi(ウェルスナビ)株式会社代表取締役CEOの柴山和久さんが最初に登壇しました。

米国で日本との金融格差を目の当たりにしたことが立ち上げのきっかけとなったという同社。柴山さんは「働く世代の資産運用が重要なのに、必要な情報開示がされていないことが日本の課題だ」と指摘し、貯蓄の多い高齢者ではなく、現役世代がアプリを使って管理可能な資産運用システムを作成していることを説明しました。

「人間の脳は資産運用に向いていない」と柴山さん。資産運用にAIを使えば、客観的なアルゴリズムに基づき最適解を提示してくれるといいます。様々な取引パターンを学習した複数のAIが資産運用に関わることで、「富裕層だけでなく一般の人にとっても、資産運用は身近なものになっていく」と、資産運用の民主化が進む未来への展望を語りました。

次に登壇したのは、株式会社みずほ銀行取締役頭取の藤原弘治さんです。「『AI×金融』が切り拓く未来」をテーマに講演しました。

少子高齢化など、深刻化する日本社会の課題にふれつつ、「実世界とサイバー空間が融合することで、様々な課題を解消できる」とし、AIをはじめとするデジタルテクノロジーの可能性や、同社の様々な取り組みについて語りました。また、スタートアップの若手経営者らと定期的に食事会を設けていると語り、「情熱を持ち、非連続な事象を創造的に組み立てていくチャレンジングなマインドを持った人材が、これからの時代には必要。成功の反対は失敗ではなく、挑戦しないことだ」と話しました。

さらに、テクノロジーの進化で世の中が便利に、スマートに変わっていくことは、必ずしも幸せとイコールではないのでは、とも指摘。「人の痛みや悩みに気づく力、苦労を乗り越える喜びなど、道徳や倫理をしっかり持つことが、テクノロジーが進化する社会において最も重要だ」と締めくくりました。

続いて登壇した、遺伝子分野での研究開発や、遺伝子検査キット GeneLife(ジーンライフ)の販売などを手がけるジェネシスヘルスケア株式会社CTOの宮原武尊さんは、自らの遺伝子検査の診断結果を用いながら自己紹介。遺伝子のタイプとしては、アルコールを分解しにくい体質であることや、太りにくく、やせにくい体質であることなどユーモアを交えて語りました。

講演のテーマである「遺伝情報とAIは我々の社会をどのように変えるのか」については、海外での遺伝子データを活用したビジネスの例として、食品異物混入の調査や、ゲノム編集技術による農作物の遺伝子組み換えなどを挙げました。

また、58万人の遺伝子情報を持つ同社は、AIを活用して膨大なゲノム情報を管理し、個々人の健康管理に関するアドバイスを行うアプリを、近日中にローンチする予定であることを明かしました。

かつて、1人の全ゲノムの解析には2年ほどの期間と数億円の費用が必要でしたが、現在ではたった1日、費用も10万円程度でできるようになったそうです。宮原さんは「今後は当たり前のように遺伝子検査を行う世の中になる」と語り、膨大な遺伝子情報のデータベースが、薬の効き目のチェックや職業の適性判定などにも活用されていくようになると語りました。

5番目のセッションに登壇した、フラワー・ロボティクス株式会社代表で、コネクティッドホームアライアンスのデザインディレクターも務める松井龍哉さんは、「ロボットのデザインで大切なことは、ロボットが自ら人間の生活や環境を見て学び、自力で行動できるようにすることだ」と語りました。

「知能は主体と環境との相互作用としてとらえるべきである」という人工知能研究者の言葉を紹介し、「ロボットが普及するには、人の生活の中に自然に溶け込ませ、人間のルールになじませないといけない。人間の環境にどう関わるかを考えることで、使い道が見えてくる」と指摘しました。そして、同社が開発中の人工知能を搭載した自律式台車型ロボット「patin(パタン、フランス語でスケート靴の意味)」のデモ動画を上映しました。

このロボットは、台車の上に観葉植物や照明器具などを載せられるのが特徴です。例えば、部屋の住人が暗いところで読書していると、照明を載せているpatinが自ら暗さを判断し、近づいて照らしてくれるという具合です。今後、ロボットは、環境の中で情報を取捨選択し行動基準を作る「自律型ロボット」から、大量のデータをもとに様々なものをつなげていく「コネクティッドロボット」へと変化していくと語り、講演を締めくくりました。

最後のメインセッションには、東京大学生産技術研究所所長の野城智也さんが登壇し、「どうすればIoTは暮らしを豊かにできるのか?」と題して講演。IoTが建築分野にもたらすものや、企業間、個人と企業間のデータの連携で注意しなければならない点、IoTの普及に向けて社会に求められていることなどを解説しました。

センサーで心拍や呼吸数が計測できるベッドや、用を足すと尿の尿酸値が測れる便器などの実例を挙げながら、「(個々にデータ計測ができるモノどうしの)ひとまとまりの価値は、人工物の意味を変える」と指摘。たとえば、不足している食品リストが冷蔵庫からスマホを介してスーパーに送られ、自宅に届くといったサービスも可能になるといいます。

一方で、今後はプライバシー管理など、データ連携の課題が生じるとも指摘。「個人と企業の間に代理人を入れたり、モノとモノとの間にインターフェースを置くなど、安全な仕組みやシステムを構築しなければIoTは社会に根付かない」と指摘しました。

ナイトセッションは、「大手各社のイントラプレナーにガチンコインタビュー 『オープンイノベーション2.0』に進むための条件」と題して開催。三井不動産株式会社ベンチャー共創事業部事業グループ統括の光村圭一郎さんがモデレーター役を務め、富士通株式会社マーケティング戦略本部ビジネス開発統括部ベンチャー協業推進部長の徳永奈緒美さん、CBcloud株式会社取締役CSOで元KDDI株式会社∞Labo担当の皆川拓也さん、株式会社電通のマーケティング・クリエーティブセンター戦略コンサルティング部の志村彰洋さんら3人のゲストとのディスカッションの後、来場者と軽食を取りながらの交流会が開かれました。

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