私たちはAIとどう生きるのか? -社会実装の現状と課題- 辻井 潤一さん AIフォーラムレポート:朝日新聞DIALOG
2018/06/06

私たちはAIとどう生きるのか? -社会実装の現状と課題- 
辻井 潤一さん AIフォーラムレポート

朝日新聞DIALOG編集部

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 フェロー
人工知能研究センター 研究センター長
英国マンチェスター大学 教授(兼任)

人工知能(AI)を中心とした技術が、これからの社会でどのように浸透していくのかを読み解く連続フォーラム「朝日新聞DIALOG AI FORUM」。初日となった20日は、国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センターの辻井潤一・研究センター長による基調講演「私たちはAIとどう生きるのか?-社会実装の現状と課題-」からスタートしました。

AI、人間双方の特性を理解して、より厳密な議論を

AIに関しては、「すごいものができているな」という期待感と、「まだまだなのでは?」という不安感が混在しているのが現状です。

AIには二つの流れがあります。一つは人間に近いものを作りましょうという流れ。例えば碁を打つ人工知能や、東大入試合格を目指す人工知能。もう一つはビッグデータを使った人工知能。例えば100万人の患者のデータがあれば、新しい患者を診断できます。いまは計算機の技術が成熟してきているので、100万人の患者の背後にある規則性を予測して、ある意味で人間を超えるような知能を持つ可能性があります。

とはいえ最近少し、AIに関する議論が混乱しているように感じています。人工知能が人間の知能を超えるのかという議論をよく耳にしますが、これは問題の設定がおかしい。AIというのは仕事ごとに異なるプログラムが組まれています。ですから、あるタスクに限れば、人と比べて優れているか、劣っているかを判断できますが、プログラム総体を人間と比較しても意味はありません。

また、知能というと、どうしても勝つか負けるかという話になりがちですが、そもそもこれは一次元に並べられるような単純なものではない。例えば、東大合格を目指すロボットが明治大学や青山学院大学の合格圏となる偏差値を上回った、というニュースがありましたが、これもおかしな議論。AIは、少し問題の出し方を変えると、まったく解けなくなります。つまり、偏差値によって測られる能力がAIに備わっているわけではないのです。

雇用者の半分が不要になるという議論もかなり大雑把です。実際には、人間の仕事の範囲が変わっていくと思われます。確かに、ビッグデータがあればAIはいろいろなことができます。しかし、人間がデータを集めるだけの道具になるかというと、そうではありません。例えば、お医者さんにただ「有益な情報をください」と依頼して集めても、その情報はビッグデータにはなり得ません。きっちりと意味のあるビッグデータにしたければ、医学に対する理解を上げたうえで、AIに学習させる知識を整理する必要があり、これは人間の役割です。

今後、AIの浸透により製造業のスピードは向上すると考えられますが、いろいろなところに人間が必要です。例えば、ユーザーの需要を分析したり、需要を知ったうえで作る物を設計したり。さらに、状況の変化をとらえてシステムの組み替えを行う人間も必要でしょう。AIが人間の仕事を奪うという話がありますが、実際にはAIを動かしていくエンジニア、研究者、医者、介護者など、膨大な人数が必要です。仕事の質が変わる可能性はありますが、人間の力がまったくいらないというのは、かなり極端な議論。こうしたことを踏まえて、今後は厳密な議論を進めていく必要があると考えています。

辻井潤一
1973年、京都大学大学院修士課程修了。東京大学大学院情報理工学系研究科教授、マンチェスター大学教授、マイクロソフト研究所アジア首席研究員などをへて現職。計算言語学会(ACL)、国際機械翻訳協会(IAMT)、アジア言語処理学会連合(AFNLP)、言語処理学会などの会長を歴任し、2015年より国際計算言語学委員会(ICCL)会長。日本IBM科学賞(1988年)、紫綬褒章(2010)、大川賞(2015年)など国内外での受賞・受章多数

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