2018/06/06

人工知能のグランドチャレンジ 
北野 宏明さん AIフォーラムレポート

朝日新聞DIALOG編集部

(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長/所長

「朝日新聞DIALOG AI FORUM 2018」の初日に、「人工知能のグランドチャレンジ」と題して講演したのは、ロボティクス分野におけるグランドチャレンジ「ロボカップ」の創設者としても知られる、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明・代表取締役社長兼所長です。AIによって産業が根源的に変わろうとしているいま、私たちが働く会社が「AI-READY」な組織かどうかが重要だと指摘しました。

重要なのはAI-READYなカンパニーかどうか

人工知能はグランドチャレンジを重ねることで進歩しています。たとえば1997年にIBMのディープブルーが、チェスのチャンピオンであるゲイリー・カスパロフに勝利しました。コンピューターチェスは人工知能研究が始まった当初から目標にされていた分野です。また日本では、2017年に将棋の電王戦で将棋ソフト「ポナンザ」が佐藤天彦名人に連勝しました。これはコンピューターの能力が完全に人間を上回った、かなり象徴的なケースでした。

私は20年以上前にグランドチャレンジとして「ロボカップ」というプロジェクトを立ち上げました。目標は2050年までに、完全自律型ヒューマノイドロボットのチームで、FIFAワールドカップチャンピオンに勝利するというもの。その過程で培われた技術で社会や産業を変革していくことが狙いです。

実際、ロボカップに最初の頃に参加していたフランスのチームのメンバーが、アルデバランロボティクスという会社を立ち上げました。その会社はソフトバンクに買収され、誕生したのがPepper(ペッパー)です。また、小さなロボットによるスモールサイズリーグというのもありますが、ここで5連勝したコーネル大学のチームの先生は、物流ロボットを提供するキバ・システムズという会社を作りました。この会社はAmazonに買収され、現在はたくさんの物流ロボットがAmazonの倉庫で活躍しています。

大切なのは、二十数年前に今の未来を想像できたかどうか。ロボカップを始めた当初は、ピクリとも動かないサッカーロボットを見て、「どうにもならないからやめろ」と言った人も多かった。我々はそうした声を一切無視して、一生懸命にレベルを上げようと二十数年間続けてきました。だからこそ、これらのベンチャー企業が生まれたのです。

産業的な話をすると、いまのAIの世界は基本的にアメリカと中国が中心で、日本は蚊帳の外に置かれています。アメリカや中国でデータを保有するプラットフォーマーが、自動車や製造などの世界に参入してきたら、サービスの一番バリューがある部分を全部持っていかれる危険性があります。このままでは、日本の産業は携帯電話で失敗した時と同じような失敗をしかねません。では、どうすればいいのか。実世界の技術は一朝一夕にはできません。日本が負けないためには、ここからデータの世界にどれだけ早く入っていけるかに尽きると思います。

産業の変わり目においてもっとも重要なのは、我々の会社がAI-READYかどうかです。AIシステムはいろいろなところに使えますが、基本的に組織の形態であるとか、社会システムの再設計に波及すると思います。そうなると、今のやり方のままではダメ。AI-READYなソサエティー、AI-READYなカンパニーであるべきで、ビジネスプロセス・リエンジニアリングが必須になります。AIは一つの道具なんですね。知識を生み出す道具であり、我々の能力を拡張する道具。非常に大きなポテンシャルを持った道具なので、できるだけ早く展開していくことが重要だと考えています。

北野宏明
1961年生まれ。国際基督教大学教養学部理学科(物理学専攻)卒業。米カーネギーメロン大学客員研究員、京都大学博士課程(工学)を経て、93年にソニーコンピュータサイエンス研究所入社。2011年に現職。ソニー株式会社執行役員を兼任。
ソニーの犬型ロボット「AIBO」の開発者、また国際的ロボット競技大会である「ロボカップ」の発起人としても知られる

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