
藤原 弘治(株式会社みずほ銀行 取締役頭取/一般社団法人全国銀行協会 会長)
「朝日新聞DIALOG AI FORUM 2018」の5日目に、株式会社みずほ銀行取締役頭取で、一般社団法人全国銀行協会会長も務める藤原弘治さんが登壇しました。AIなどのテクノロジーを導入して様々な社会課題を解決するには、金融機関が意識を変えることが重要だと指摘。未来のあるべき日本の姿からバックキャスティングして考えた金融機関の在り方や役割、新たな産業や価値創出について語りました。
金融機関が率先して意識を変え、AI時代の新たな産業・価値創出に貢献する
AIという手段を使って世の中の課題をどう解決するか、我々の未来をどうつくるか。これが、いま私たちに与えられた課題ではないでしょうか。このまま何の対策もしなければ、今後、日本は本格的な人口減少、超高齢化時代、財政難に直面します。2050年ごろには人口は1億人を割り、高齢化率が4割になり、生産年齢人口は今より3割減ると予想されています。
生産年齢人口が減るなか、デジタルテクノロジー、特にAI導入による効率化を推進する必要があります。新たなテクノロジーの導入には抜本的な改革が必要となりますが、中でも経営層の意識改革が最も重要です。目指すべき未来像からバックキャスティングし、困難であっても挑戦するパッションをもって変革していかなければ、日本の経済、産業の衰退を招きかねません。まずは私たち金融機関こそ、意識を変えなければならないと考えています。

金融機関の普遍的かつ本質的な役割は、リスクマネーの供給を通じて経済・社会の未来を創造することと、お客様に寄り添う優れたパートナーであることです。これらは新しい時代には不可欠です。企業や個人の価値観は多様化し、成功や幸せの定義はさまざま。一人ひとりに寄り添ったコンサルティング機能が今後は求められます。
また、未来で金融が果たすべき役割は、①成長産業の創出・育成、②データの利活用、③金融インフラの進化だと考えています。金融の世界を変えるキーワードは「リバンドリング」です。フィンテック企業など異業種のリソース活用を行い、新たな産業をつくる必要があります。

みずほ銀行も、2016年にソフトバンク株式会社との合弁で株式会社J.Score(ジェイスコア)を設立し、日本初のAIスコア・レンディングをスタートさせました。さらに、ロボティクス、ビッグデータ、AIを活用した新たな金融ビジネスとして、インターネット上で、顧客のリスク許容度などを踏まえた投資信託のポートフォリオを提案するSMART FOLIO(ロボ・アドバイザー)を15年10月に、アルゴリズムトレーディング・AIによる外国為替取引の共同研究を17年6月にスタートさせました。また、この度、AIを手がけるベンチャー企業と協力し、AIを用いた手書き・非定型帳票の入力自動化技術を開発しました。
17年には株式会社Blue Lab を設立し、あらゆる産業・業種に視野を広げ、新たなテクノロジーを活用し、次世代のビジネスモデルの創出を目指しています。デジタルテクノロジー時代の金融ビジネスに求められる人材は、これまでの銀行のイメージとは異なるかもしれません。非連続的な事象を創造的に組み立てていくチャレンジングな人材が金融ビジネスの担い手となることを、若い人たちに知っていただき、ぜひチャレンジしてもらいたいと考えています。

最新の技術は便利で、ストレスフリーで、生活を楽しくしてくれます。しかし、便利になることと幸せになることは違います。AIによって得るものがある半面、人の痛みや悩みに気づく力、苦労を乗り越えた喜び、人間として成長するきっかけなど、失うものもあるのではと危惧しています。テクノロジー時代こそ、倫理と道徳が最も大切になるということも伝えたいと思います。
藤原 弘治
1985年早稲田大学商学部卒業。旧第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。2012年みずほフィナンシャルグループ執行役員、14年みずほ銀行常務取締役。17年4月よりみずほ銀行頭取。18年4月、全国銀行協会会長に就任。広島県出身