2018/06/18

モビリティ連続セッション
AI×モビリティで変わる暮らしと解決すべき社会課題
ローカルエリア・モビリティソリューション ~AI×モビリティによる地域課題の解決~

朝日新聞DIALOG編集部

AI×モビリティで変わる暮らしと解決すべき社会課題
鯉渕健(トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 常務理事〈自動運転、AI担当〉) 清水和夫(国際自動車ジャーナリスト) 今井猛嘉(法政大学大学院 法務研究科教授) 江間有沙(東京大学政策ビジョン研究センター特任講師)

ローカルエリア・モビリティソリューション ~AI×モビリティによる地域課題の解決~
東島勝義(パナソニック株式会社 ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンター モビリティソリューション部 部長)

トヨタ自動車株式会社の鯉渕健さん、国際自動車ジャーナリストの清水和夫さん、法政大学大学院教授の今井猛嘉さん、東京大学特任講師の江間有沙さん。異なる視点でAI×モビリティに関心を寄せる4人が、自動運転技術を社会実装する際に考慮すべき点について討論しました。
続いてのセッションでは、パナソニック株式会社の東島勝義さんが、ローカルエリアにおけるモビリティソリューションの課題解決に向けた実証実験の様子を紹介しました。

自動運転を社会実装する際、求められる議論とは

清水 いま、自動車のトレンドは、connectivity(接続性)の「C」、autonomous(自律性)の「A」、shared(共有の)の「S」、そしてelectric(電動の)の「E」という四つの単語の頭文字をとって、「CASE」という造語で示されています。自動運転については、技術的な話だけではなく、社会的受容性や法律の問題など、社会が新たな技術をいかに受け入れるかが肝となります。さらに、そもそもなぜ私たちは移動したいのか、その先のコミュニティーでどんな暮らしをしたいのか、といったことも考え始めています。

鯉渕 トヨタ自動車は「すべての人に移動の自由を」という理念を掲げ、2017年、新型レクサス「LS」で自動運転のレベル2(部分的自動運転)に相当する技術を実現し、今後早い段階で、ドライバーレスを実現したいと考えています。しかし、社会はどの程度の安全を担保できれば認めてくれるのか。例えば平均的な人間のドライバーの2倍なのか、10倍なのか。ドライバーはどこまでの役割を負うべきなのか。他の車や歩行者との共存はどうするのか。さらに、事故が起こった際の責任はどこにあるのか。どこまで法規でルール化するべきなのか、など様々な課題があります。

今井 まず、事故が起こった際、AIに刑罰を科せられるのかという問題があります。民事的な責任は、現状通り保険がカバーするでしょうが、刑事的にはどうでしょうか。刑罰として自動車そのものを壊せば、被害者は満足するでしょうか。その場合、車内のドライバーが責任を問われるべきなのか。また、レベル5の完全な自動運転で、まっすぐ進めば多くの犠牲者を出すが、進路を変えれば1人の犠牲で済むという、いわゆる「トロッコ問題」に直面した際の判断をどうさせるのか、といった課題もあります。

江間 ブラジルでの事例を紹介すると、リオデジャネイロには観光地が点在していますが、犯罪が多発する危険なエリアと隣接しているケースが少なくありません。地図アプリにナビゲートされて最短距離で歩くと、地元の人でも通らないような危険なエリアに入り、犯罪に巻き込まれることもあるでしょう。この場合、「危険という情報」をどう集め、どう実装し、更新していくのか。こうした問題は技術者だけでは解決できません。そのため、AIと社会について、技術者だけではなく、大学、NPO、学会、企業などいろいろな人が参加して議論する必要があります。

鯉渕 どこまで安全な自動運転技術を作ればいいのかを考えるうえでは、「平均的なドライバーよりも確実に安全であることをみんなが実感できる」というのが、求められる最低限のレベルなのでしょうが、そもそも安全度を客観的に測る手段はありません。

江間 さらに安全の基準は国によっても違う気がします。国によって自動運転への対応は変わってくるのでしょうか。

清水 例えばドイツだと、黄色信号は強いブレーキで止まりますが、日本ではアクセルを踏んで、早く渡ろうとします。そうした慣習やルールをどこまで厳格に見るか。そこも難しい。交通事故の原因のほとんどはヒューマンエラーですが、ルール違反も入っていると言われています。

今井 自動運転の車の場合は、ルールはルールとしてきちんと従いますので、ルール違反を見落とすことはないと思います。あるとすれば、ルールに従っていたのに、ルールでは予測できない現象がインプットされてしまい、アウトプットできなかったときだと思います。ユーザーとしては、自動運転技術が早くレベル4(ほぼ完全な自動運転)になってほしいと思っています。

事例紹介:ローカルエリア・モビリティソリューション(パナソニック株式会社 ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンター モビリティソリューション部・東島勝義部長)

いま、新興国を含め世界的に都市化が進み、モータリゼーションが加速しています。その結果、交通事故や交通渋滞、大気汚染などの問題も深刻化しています。こうした課題を解決に導くと期待されているのが、EV(電気自動車)と自動運転技術です。

他方、日本の地方では、ますます人手不足になり、「移動・運転難民」の増加が見込まれています。このままいけば、地域における生活必須サービスの衰退を招きます。そこで私たちが目指すのは、ローカルエリアの地域課題に寄り添ったAI×モビリティソリューションです。具体的には、エリア・用途を限定し、低速・短距離で簡単に利用できる移動サービスの提供です。

ローカルエリアといっても、地域ごとに環境やモビリティのニーズは異なります。そのため、私たちは、企業の敷地内などのゲーティッドエリア、山間地域、郊外、中心部といった様々なエリア、実フィールドで、低速自動運転技術とサービス受容性を検証しています。レベル4を目指した低速自動運転の実現、人・モノの効率よい移動管理、安全・省力化という課題をクリアするため、特定エリアの特定ニーズに絞ることで、技術の難易度、コストと、提供価値のバランスが取れる可能性があると考えています。

鯉渕 健
1993年4月、トヨタ自動車入社。ブレーキ制御を用いた車両安定化制御、ステア制御等を統合した車両運動統合制御の開発を経て、2006年からはエンジン、トランスミッションを統合制御する駆動力デマンド制御等の開発に携わる。09年からはアイドリングストップや充電制御等の省燃費制御システムの開発を担当。14年より自動運転技術開発、16年より先進安全技術も担当

清水 和夫
1977年、武蔵工業大学電子通信工学卒。81年、プロのレースドライバーに転向。88年、本格的なジャーナリスト活動開始。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)、日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)などの会員や、国土交通省の車両安全対策委員会や経済産業省の自動走行ビジネス検討会などのメンバーも務める。主な著書に「クルマ安全学のすすめ」「燃料電池とは何か 水素エネルギーが拓く新世紀」(いずれもNHK出版)など

今井 猛嘉
警察庁の「自動走行の制度的課題等に関する調査検討委員会」「技術開発の方向性に即した自動運転の段階的実現に向けた調査検討委員会」、国土交通省の「事業用自動車事故調査委員会」、経済産業省の「スマートモビリティシステム研究開発・実証事業(自動走行の民事上の責任及び社会受容性に関する研究、平成28・29年度)において委員を務める

江間 有沙
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。京都大学白眉センター特定助教、東京大学教養学部附属教養教育高度化機構科学技術インタープリター養成部門特任講師を経て、2018年4月より東京大学政策ビジョン研究センター特任講師。17年1月より国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員。専門は科学技術社会論(STS)。人工知能学会倫理委員会委員

東島 勝義
1992年、松下電器産業(現パナソニック) 入社。半導体開発部門にて、動画像コーデックLSIの開発に従事しFOMA初のテレビ電話を実現。その後、デジタルテレビ、ブルーレイレコーダ向けシステムLSI開発を担当。2011年より、本社R&D部門にて、スマート家電・スマートハウス開発戦略企画、AI研究・開発戦略企画を経て、車載向けAIセンシング技術開発などを担当。17年4月より現職。AIを活用したモビリティソリューションの開発を担当

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