2018/06/25

(後編)「障害をもつ社員は職人」発信することが社会への貢献日本理化学工業 代表取締役社長 大山 隆久 氏

朝日新聞DIALOG編集部

社員の約7割が知的障害者で、チョークを製造する日本理化学工業の大山隆久社長に、障害者雇用を続けてきた理由や、会社の取り組みについて聞いた。

――社員として働き始めた当初、障害者雇用に対する戸惑いはありましたか?

旧工場の横にあった自宅で、障害をもった社員に遊んでもらって育ったので、彼らは身近な存在でした。それでも、新卒で入った広告会社を経て父が経営していた日本理化学工業に入社した当初は、障害をもつ人は何かができない人だと思っていた。広告会社では深夜1時から打ち合わせをするのが当たり前だったので、せかせかしていない日本理化学の学校みたいな雰囲気が、危機感の薄い会社にも見えました。

だけど、それは間違いだと彼らが身をもって教えてくれた。何年もかかりましたが、日本理化学が障害者雇用を続けてきた理由や、彼らがいるからこそ商品ができることがつながってきて、腑に落ちたときから迷いがなくなりました。

――腑に落ちた具体的な出来事があったのですか?

それはないです。彼らと一緒に働くなかで、小さな積み重ねをずっと続けてきた結果です。すごいなと思うことで見方が変わり、尊敬に変わっていきました。

――障害をもつ人の「すごさ」とは何ですか?

集中力や持続力、一つのことを邪念なくやる姿勢です。臨機応変に動くのは苦手な人も多いですけど、こだわりが強い分、職人のようにきちんとやってくれる信頼感があります。障害の重い人ほど不良品を出さなかったり、けがをする確率が低かったりする。それは手抜きをせず、決められた手順通りにやってくれるからです。

――現場ではどのような工夫をしているのですか?

会社のなかで一番大事にしているのは、相手の理解力に合わせて段取りを教えるということ。誰かに何かを教えたときに、その人ができなかったら、それを教えたほうが悪いという考えがうちにはあります。相手の能力のせいにしない。伝わらなかったら、またいろいろ工夫するうちに突破口が開けたりする。諦めちゃいけないんです。

僕らは一般企業ですから、障害者雇用も慈善事業ではなく、彼らの力が必要だからやっている。余裕のある会社ではないので、1人雇用したら、なんとか後押しして、その人を戦力にしないといけない。切羽詰まった状況なのです。

――一人ひとりに合わせた現場での工夫は、中小企業だからこそできたのでしょうか?

大企業は仕事の進め方をマニュアル化して整備しているところが多いと思います。一方で、我々のような中小零細企業は、職人のように「見て覚えろ」とか、逆に、手取り足取り教えたりできる環境がある。大企業のような洗練されたやり方とは違うけど、障害をもった人にも、相手の理解力に合わせた対応がとりやすいんだと思います。

――チョーク製造という業種も、障害者雇用と相性が良かったのですか?

チョークだったからこういう経営ができたと、会長である父もずっと言っていました。主な納品先が学校なので、景気に左右されにくい商品なんですね。計画的につくりやすい商品だったことは、会社にとって追い風でした。

けれど、少子化で市場は縮小しています。さらにプロジェクターや電子黒板の登場、最近はiPadで授業をするような世の中ですから、チョークを使う場面はますます減っています。当社は50%以上の市場シェアがありますが、シェアが大きい分、市場縮小の影響をもろに受けるので、本当に厳しい状況です。

――現状の打開策は見えていますか?

2005年に、「キットパス」というガラスに描いて消せる固形マーカーを発売しました。これを会社の大きな柱にしようと手探りしている最中です。おかげさまで、いろんな人が協力してくれて少しずつかたちになってきました。小さな市場で一番になることを積み上げるのが、我々のような零細企業が生き残る道だと思っています。

――障害者雇用を長年続けてきた企業として、様々な賞を受賞し、注目を集めています。社会にとっての会社の役割をどのように考えますか?

障害をもつ人は「できない人」ではなくて、「得意なことを職人のようにやってくれる人」だということを、僕らは知っている。だけど、この会社が興味を持たれて、いろんな人が見に来てくれるのは、それを知らないからですよね。そういう意味では、うちで出来ていることをちゃんと世の中に伝えていくのが、僕らの役割なんだろうなと思います。日本理化学工業のような小さな会社が単体で社会の役に立ったり、貢献できたりすることはほんのわずかだけど、ちゃんとした情報を伝えることができたら、水をたたくと水面に波が広がっていくように、弱い力でもスーッと伝わっていくんじゃないか。そうすれば、最後は大きな貢献につながるんじゃないかと思っています。

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