2018/07/09

社会課題、ビジネスの手法でどう解決できる?
次世代リーダーサミット(NELIS) 上智大で開催

朝日新聞DIALOG編集部

不安定(Volatile)で不確実(Uncertain)、複雑(Complex)で不明確(Ambiguous)な、「VUCA」と呼ばれる時代に生きる私たち。様々な社会課題の解決に向け、新しい価値観と行動力を持つリーダーを育成しようと、2015年に日本で始まったプロジェクトがNext Leaders’ Initiative for Sustainability (以下、NELIS)です。NELISの共同代表を務めるのは、「売り手」「買い手」「世間」の「三方良し」で知られる近江商人の街・滋賀県近江八幡市で長年、自然とビジネスの融合を目指してきた老舗和菓子店「たねや」4代目の山本昌仁社長と、近江八幡商工会議所の秋村田津夫会頭、そして、環境問題やCSRのコンサルティングに取り組んできた、在日歴20年超のデンマーク人、ピーター・D・ピーダーセンさんの3人。世界各国の次世代リーダーたちをネットワーク化し、持続可能な社会の創造に向けた知見の共有や、情報発信を続けています。

(ピーダーセンさん)

6月9、10の両日には、上智大学(東京都千代田区)との共催で、16カ国から40人の次世代リーダーを日本に招き、2回目となる「次世代リーダーサミット」を開催。2日間でのべ525人が参加しました。2日目の模様をお伝えします。

午前中は、「ビジネスで社会を変える~2つのケーススタディ」と題して、(株)ボーダーレスジャパンの田口一成社長と、ナイジェリアで、農業を通じた若者や女性の就労支援やコミュニティ開発を進める企業SpringboardのCEO、ローレンス・アフェレさんが講演しました。
ボーダーレスジャパンは、社会起業家に課題解決のためのノウハウや資金、人材を提供する企業です。現在、8カ国で事業を展開し、売り上げは43億円。例えばミャンマーでは、健康被害や環境負荷が高い葉巻たばこの農家にオーガニックハーブへの転作を勧め、高く買い取ります。その上で、ハーブの専門家の知見を生かしておいしいお茶に加工し、カフェインレス志向の高い妊婦や授乳中の母親向けに販売する仕組みを導入したといいます。

(講演する、ボーダーレスジャパン・田口一成社長)

田口さんは、「これまでマーケットが放置してきた、貧困や食料問題、差別や限界集落といった、社会の欠陥や不合理から生まれる、社会生活に支障をきたすレベルの課題こそ、ビジネスの手法で解決していく意義がある。経済的にまわる仕組みができれば、企業が本業として取り組める。そうした社会起業家を増やすのが、我々の使命だ」と語りました。
また、田口さんは、「世の中にはいい事業アイデアやノウハウがたくさんあるのに、なかなか広がらない。それは第一人者が、自分のアイデアを真似して広げたいと思う人や企業から、研修費やロイヤリティを取るためだ」と指摘しました。ビジネスの世界ではよくある話ですが、それでは社会課題の解決者が増えません。そこで田口さんが考案したのが、「他人の身内化」「財布の同一化」という概念です。
具体的には、第一人者のアイデアやノウハウを実践したいというフォロワー企業が現れたら、その社の利益は自己投資分を除き、すべて第一人者と共有するというものです。おのおのが独立して経営しつつ、利益は共有で活用することにより、特定の社会課題を解決するコミュニティが形成され、資金も増え、解決のスピードが速まることが期待できるうえ、各社は新たな社会課題の解決策の開発に取り組めるようになるメリットがあります。「社会起業家が次から次に誕生する社会システムをつくるためには、『仲間が増えるのはいいことだ』という仕組みが必要だ」と田口さんは指摘しました。
また、田口さんは「お笑い芸人を養成する吉本興業NSCのような、ソーシャルビジネス版の学校をつくりたい」と語り、今年10月に福岡と東京で社会起業家を目指す人向けの養成所をオープンさせる計画も明らかにしました。

(講演するアフェレさん)

続いて登壇したのは、ナイジェリアの企業Springboard代表のローレンス・アフェレさん。「私はなぜビジネスキャリアを諦め、農村で農業起業家の道を選んだか」をテーマに講演しました。両親が苦労して大学まで送り出してくれ、「将来は医者か銀行員、弁護士かガス会社員など、いい職業に就いてほしい」と期待されていたなか、農家になることを志したのは、在学中だった2006年に読んだ、ある新聞記事がきっかけだったと語りました。
それは、ナイジェリアの高学歴な若者に就職口がなく、詐欺や強盗、誘拐といった犯罪行為に手を染める人が増えていることを警告する内容で、2020年までに2千万人の若者が犯罪者になる恐れがあると書かれた記事でした。「もし私が仕事で成功し、家庭を持ったとしても、社会の治安が悪ければ、安心して暮らすことはできない。自分のためではなく、社会を安全で豊かにすることを仕事にしたいと考えるようになったんです」と振り返りました。
大学では経営学を学んだアフェレさんが着目したのが、農業でした。大きな河川の流れるナイジェリアは、農業のポテンシャルが高いにもかかわらず、国内で育てられる作物でさえ輸入に頼る現状があります。アフェレさんは、「職を求めて都市に移住しなくても、農村で働き、食べていけるモデルを構築できれば、若者が犯罪者にならずに済む」という信念のもと、素人ながら、若者向けに農業体験を提供するプログラムを2010年から始めたそうです。
収穫した作物の販売利益の一部をプログラムに還元してもらうほか、法人や個人から寄付を募り、既存の農家の女性の起業支援や加工品の販売、少額融資、農家の子ども向けの教育事業など、様々なプロジェクトを手がけ、現在は20人の有給職員を雇用するまでになりました。今後は国内の他の州や近隣国のコートジボワール、ルワンダなどでも事業を展開していく予定だそうです。

講演に続いては、丸井、東芝、SG(佐川急便)グループ、NECといった国内企業の若手社員による寸劇形式のプレゼンテーションが行われました。舞台は、日本のとある大手家電メーカー。若手社員が経営層に対し、環境や社会に配慮した投資や取り組みを増やすことを提案する会議の場です。

「SDGsが国連で採択され、ESG投資への関心も高まっています」
「UberやAirbnbなど、シェアリングエコノミーは利益を生み出しています」
「個人消費でも、エコバッグや中古市場の活況など、環境への配慮が定着しています」

といった若手の意見に、経営陣は、

「方向性は正しいと思うが……」
「すでに環境に配慮した商品やサービスを出している。これ以上やる意味があるのか」

と、煮え切らない態度。そこで、若手社員は会場にいるNELISの海外メンバーを舞台に呼び込み、上層部を説得するよう訴えます。なんとこれはぶっつけ本番。名前を呼ばれたメンバーは、やや不安げな表情で壇上に立ちました。

インドから参加した、リサイクル会社「Paperman」CEOのマシュー・ホセさんは「世界には70億の人口がおり、消費者として力をつけてきている。そういうマーケットが何を欲しがっているのか、日本の企業はもっと理解すべきだ」と発言。シンガポールから参加した、エネルギー効率の向上をコンサルティングする「Nexenergy」の共同創業者、レカ・パトマナタンさんは「長期的な視野を持つことが今日の経営には不可欠。よい意思を持っている会社を消費者も投資家もちゃんとみている」と助言した。

午後のセッションでは、ブラジルやオーストラリア、ナイジェリア、コロンビア、ノルウェー、アメリカ、シンガポールなどからの参加者による、次世代リーダーシップに関するパネルディスカッションや、「持続可能性をテーマとした教育実践のあり方」「ソーシャルグッドにテクノロジーをどう生かすか」などをテーマにしたワークショップが行われました。

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