DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2018/07/12

ゲームAIから考える、プレシンギュラリティ時代におけるAIと人の関係
AIフォーラムレポート

朝日新聞DIALOG編集部

三宅 陽一郎(株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー)
鳥海 不二夫(東京大学大学院工学系研究科准教授)

アメリカの未来学者、レイ・カーツワイルは、人工知能(AI)が人類を追い越す「シンギュラリティ」(技術的特異点)が、2045年に訪れると予測しました(その後、2029年に前倒し)。「プレシンギュラリティ時代」であるいま、私たちはAIとどのような関係性を構築すればよいのでしょうか。「朝日新聞DIALOG AI FORUM 2018」4日目に登壇した、株式会社スクウェア・エニックスでゲームAIの開発にあたる三宅陽一郎さんと、東京大学大学院工学系研究科准教授で人狼知能プロジェクト代表を務める鳥海不二夫さんが、ゲームにおけるAIの役割から、社会への応用の可能性について語り合いました。

ゲームAIとは、人とAIの関係を探求するもの

三宅 日本で最初のゲームAIは「パックマン」だといわれています。このゲームに登場する四つの敵キャラクターは、実はそれぞれアルゴリズムが違うため、異なる動きをします。ゲームの世界では、プレーヤーが太刀打ちできないくらいキャラクターが強いと面白くありません。敵キャラクターはプレーヤーをギリギリのところまで追いつめて倒される。こうした考えを基本に、ゲームAIは発展してきました。ゲームAIはまさに、人とAIの関係を探求するものです。つまり、人をどう理解するかということが、ゲームAIの開発では重要です。

鳥海 私が研究する人狼AIも、めちゃくちゃ強いプレーヤーを作ったら面白くありません。ゲームの世界ではAIが弱くてもいいわけです。

三宅 問題はどう弱いか、そこが大事。実は強くするのは簡単なんです。

鳥海 実際に、AIはゲームの中でどのような役割をしているんでしょうか。

三宅 ゲームの世界では、モンスターなど敵キャラクターをつかさどる「キャラクターAI」、森や湖などゲームの舞台となる環境でどう動くかをつかさどる「ナビゲーションAI」に加え、「メタAI」が大きな役割を果たします。メタAIとは言ってみれば神様で、全体を俯瞰して、プレーヤーがピンチになるとちょっと手加減したり、モンスター同士が連携していないときは調整したりして、場を整えます。

鳥海 キャラクターの動きは、個々のキャラクターが判断しているわけではないんですね。

三宅 メタAIがなくてもゲームは動きますが、間が抜けた感じになってしまい、エンターテインメントとしての体験をつくることができません。この考えは、ゲームだけではなく、様々な場面に適用可能ではないでしょうか。例えば、将来、デパートでは、フロアに設置されたロボットだけではなく、メタAIが天井からフロア全体を俯瞰し、困っている人がいないか、混雑具合はどうかなどを察知して、フロアにいるロボットに適切な指示を出すことが可能です。すでに、ゲーム業界以外からも引き合いがあります。

鳥海 「強いAI」「弱いAI」という言葉があります。強いAIとは、人間のように意識を持ち、人間が関与できないレベルでものを考えるAIです。一方で、弱いAIは、特定作業において人間の作業を代替し、知的に見える処理を行うAIです。今のAI開発の中心は、まだ弱いAIの段階ですが、メタAIに代表されるゲームAIが社会に実装されれば、当面はドラえもんのような強いAIは必要ないかもしれません。

三宅 AIは、まだ無限のフレームで活用できるレベルには至っていないので、まずはゲームという枠の中で機械学習を行い、将来は社会に貢献できるようになるのが目標です。

鳥海 今後、ゲームから飛び出して、私たちの社会に入ってくる気がしますね。

三宅 陽一郎
株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー
京都大学で数学を専攻、大阪大学大学院理学研究科物理学修士課程、東京大学大学院工学系研究科博士課程を経て、人工知能研究の道へ。ゲームAI開発者としてデジタルゲームにおける人工知能技術の発展に従事。国際ゲーム開発者協会日本ゲームAI専門部会チェア、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。著書に「人工知能のための哲学塾」「人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇」(ともにビー・エヌ・エヌ新社)など

鳥海 不二夫
東京大学大学院工学系研究科准教授
2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻博士課程修了後、名古屋大学大学院情報科学研究科助手、同研究科助教を経て2012年より現職。 研究テーマは計算社会科学と人工知能技術の社会応用、ゲームにおけるAIなど。人狼知能プロジェクト代表。 主な著書に『強いAI・弱いAI 研究者に聞く人工知能の実像』(17年、丸善出版)、共著書に『人狼知能で学ぶAIプログラミング』(17年、マイナビ出版)など。

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