2018/07/18

上司不在、話し合いで給料を決める会社
ダイヤモンドメディアが実践する「ホラクラシー経営」とは?

Written by 間宮秀人(POTETO) with 朝日新聞DIALOG編集部
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働く時間も場所も自由、上下関係なし、給料はみんなの話し合いで決める……そんな常識を覆す経営をしている会社があります。東京・青山にある「ダイヤモンドメディア」は、2007年設立の不動産テック企業。業務委託を含めて27人いる従業員のなかには、上司という存在がいません。権力を分散化させてフラットな組織運営を行う「ホラクラシー経営」の先進企業として、近年注目を集めています。それで、どうやって仕事するの? なぜそんな仕組みなの? そもそも、ホラクラシーって何??

次々と湧いてくる疑問を、共同創設者で代表取締役の武井浩三さん(34)にぶつけました。

「代表取締役」って、一番偉い人なのでは?

まず、代表取締役ということは武井さんが一番偉いんじゃないですか?

「いえいえ、会社法で定められているので仕方なく代表取締役を置いているだけで、本当は代表者のいない法人格をつくりたいと思っています。上司がいないというのは、中央集権的な管理体制ではなく、権力が分散化しているということ。Peer to Peer(同等なものから同等なものへ)なんです。だから僕も、みんなと同じ輪の中にいる」

代表取締役の武井浩三さん

役員は毎年、従業員らによる選挙を行い、投票結果を踏まえて話し合いで決めるそうです。武井さんの説明によれば、従業員一人ひとりには、あらかじめ役割が決められているのではなく、話し合いを重ねるうちに誰かが手を挙げて、結果的に役割が分かれていく。だから縦割りの部署もなければ、部署ごとの予算や目標もない。経営会議もかつては開いていたものの、必要がなくなってやめてしまったそうです。

ダイヤモンドメディアってどんな会社?

ダイヤモンドメディアは、不動産業界に特化してウェブサービスを提供する会社。不動産オーナーと管理会社をつなぐクラウドサービス「OwnerBox」や、入居者の募集業務を管理する管理会社向けシステムなどがあります。創業当初は、さまざまな企業のウェブサイト制作やウェブマーケティングが主力事業でしたが、不動産業界における情報の偏りに課題を見いだし、不動産テックに特化した現在のかたちになりました。ただ、武井さんはこうした会社の変遷を「たまたま」だと言います。

「何かをやりたいと思ったわけではなく、いい会社をつくりたいと思ったんです。ダイヤモンドメディアの前に、22歳で起業した会社をつぶしたことがあって、一緒にやっている仲間にも借金させて失敗してしまった。そのときに、会社って何なのかを突き詰めて考えました」

関わる人やもの、全てに対して良いことでなければやる意味がない。そう考えた武井さんが行き着いたのが、ホラクラシー経営でした。

そもそも、ホラクラシー経営って何?

ホラクラシー(holacracy)は、階層的な組織体系であるヒエラルキー(hierarchy)に相対する考え方です。多くの企業は社長を頂点としたピラミッド型で、役員、部長、課長、平社員と下にいくほど人数が増えていく中央集権的な組織構造ですよね。ホラクラシー経営は、上司・部下の関係をなくしたフラットな組織運営で、役職や仕事内容に人を当てはめるのではなく、一人ひとりが自分に適した役割を担います。それによって権力の集中を防ぎ、意思決定機能を組織全体に分散化させる仕組みです。個々人の裁量を増やして判断をゆだねることで、組織全体が最適化されるという考えに基づいています。

2007年に、米国の起業家ブライアン・ロバートソン氏が提唱したことが始まりとされています。米国など各国で、企業や非営利団体がホラクラシー経営を採り入れており、米国の通販アパレル「ザッポス(Zappos)」などが有名です。

「いいサービスを提供しても働く人を酷使していたり、働く人や買う人は幸せでも自然破壊をしていたり、バランスが崩れている会社が多いなと思って。どうしたらいいかを考えるうち、権力が組織をゆがめるということが分かってきた」と武井さん。特に重視するのは、情報の透明性です。透明性を高めれば、情報を囲い込んで権力を握ることができなくなるからです。そこでダイヤモンドメディアでは、会社のすべての財務情報を全従業員がパソコンで見られるようになっています。

給料の決め方に会社の価値観が表れる

ダイヤモンドメディアが実践するホラクラシー経営の考え方を端的に表しているのが、給料の決め方です。一般的な企業では、年齢や職能、役職などに応じて基本給が定められた給与制度がありますが、ダイヤモンドメディアにはこのような制度自体がありません。その代わりに半年に1度、2時間ずつ2回の会議で、従業員同士が話し合って決めるそうです。「互いを評価し合うのではなく、相場で決まる」と武井さんは言います。

従業員の給与額を決める会議の様子

具体的には、AさんとBさんの給与額の差はどれくらいが最適か、というふうに決めていきます。そのためにも、従業員全員の給与額が社内でオープンになっています。「その人に対する評価って日常的にある程度しているので、会議で決めるというより、ふだん感じていることを会議でとりまとめる感覚。給与を決める行為自体が分散化しているわけです」と武井さん。ちなみに、給与が最も高いのは武井さんで、新人社員の4~5倍だそうです。

武井さんの説明をもう少し続けます。

「私たちは、働く人が仕事の価値と向き合う機会を奪わないことを重視しています。人間って目の前のものに引っ張られがちなので、給与制度があると、自分がかかわる仕事そのものの価値と向き合わず、何をすれば給料が上がるかを考え始めてしまう。上司がいれば、自分の評価を決める上司に気に入られることが、給料を上げるいちばん手っ取り早い方法になる。給与制度や上下関係など、『本当に大事なことを邪魔するもの』をひたすら取り除く作業を、ずっと進めてきました」

リーダー不在でも調和する「渡り鳥」のような会社

仕事内容を定める枠もなく、指示をくれる上司もいない。そんな環境では、組織がバラバラになってしまいそうです。でも、武井さんは会社を渡り鳥にたとえて、組織がまとまる理由をこんなふうに話します。

「渡り鳥は数百羽の一群が一糸乱れず飛んでいる。あのなかにリーダーはいないけど、調和しているのはなぜか。それは一羽一羽が隣の鳥の動きをまねして、その連鎖が全体としての一体感を生んでいるからです。自分の周りの数十人とつながれば、その連続で全体がつながる。分散化できれば、誰かがかじ取りをしたり全体を把握したりする必要はなくなるのです」

情報の伝達方法を例にとると、明日どこかに出かけようというとき、従来のピラミッド型組織では、集合時間や場所、行き先を全て決めた上で、連絡網のようにトップから順に、次の人へと情報を渡していく。一方、ダイヤモンドメディアのスタイルでは、誰かが全体に対して「何も決まってないけど、どこか行かない?」と投げかけ、それに「行く行くー」「どこにしようか?」「先に店入ってるね」とそれぞれが応答して、複数対複数でリアルタイムのやりとりをしながら物事が進んでいきます。これを武井さんは「LINEグループ経営」と表現していました。こうした組織のあり方は、ITの発達によって可能になったと言えます。

ホラクラシー経営の向き不向きは?

ダイヤモンドメディアの従業員数は30人弱。人数が増えていくと、ホラクラシー経営は難しくなりそうですが、武井さんは「規模は関係ない」と断言します。例えば、前出の米国のZapposは従業員が1500人以上います。ただし、ホラクラシー経営を円滑に進めるには注意点も。「会社全体のお金の情報がオープンになっていることが絶対条件。会社と自分のお金の流れがつながらないと、経費を無駄遣いしてもいいや、となってしまいます」

また、ホラクラシー経営と相性のいい業種とそうでない業種もあります。IT関係は場所を問わないのでやりやすいですが、逆に物理的制約がある小売業などでは難しそうです。「店舗があると、店に行かないとビジネスが始まらないので、出社時間を自由にできない。医療や原発、重工業など失敗すると人命にかかわる分野も制約が出てくると思います」と武井さん。働く人も、常に周囲とやりとりしながら仕事を進めていくため、高いコミュニケーション能力が求められます。

IT企業はホラクラシー経営と相性がいい

ホラクラシー経営が全てを解決するわけではありませんが、組織の硬直化に悩む企業にはヒントになるかもしれません。独自の経営メソッドを採り入れるダイヤモンドメディアのこれからに、引き続き注目していきます。

(武井さんの写真は取材時に撮影、それ以外はダイヤモンドメディア提供)

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