DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

ソーシャルイノベーターに聞く「政治をわかりやすく」古井康介さん(23)

朝日新聞DIALOG編集部

朝日新聞DIALOGは「2030年の日本をつくる」をコンセプトとしたプロジェクトです。2030年に社会の最前線に立つ、若きソーシャルイノベーターたちが多数参加しています。初回は、「政治を、わかりやすく」をテーマにメディアと教育の二つの事業を運営する株式会社POTETO Mediaの古井康介社長に話を聞きました。

#政治 #メディア #教育

Q:POTETOはどんな活動をしているのですか?

A:POTETOは「POlitical TElecommunications TOwer(政治の電波塔)」の略で、政治や経済、社会のニュースを若い人に身近に感じてもらうため、イラストや動画にまとめて毎日SNSで発信するほか、中学校や高校での主権者教育を主な事業として展開しています。SNSのビューは1日約3万人です。団体を設立しようと思ったのは、2016年に起きたイギリスのEU離脱騒動がきっかけでした。歴史が変わりつつあることを実感し、レンタルビデオショップのバイト代を貯め、同年11月にアメリカ大統領選の取材に行きました。そこで目の当たりにしたのは、トランプ、クリントン両陣営が、若者票を獲得しようと繰り広げるPVやインフォグラフィクスなどを多用した「分かりやすくてかっこいい」選挙キャンペーンでした。「こういう政治の伝え方を日本にも広めたい」と思い、帰国後、任意団体として立ち上げ、翌17年に株式会社化しました。現在は慶応大、早稲田大、中央大、東京大など、計約10大学の学生や院生約40人が活動しています。

Q:なぜ、政治をテーマにしたのですか?

A:僕は富山県出身で、3人兄弟の長男です。両親は飲食店を営んでいましたが、リーマンショック後は特に経済的に厳しい状況でした。ちょうど高校無償化が始まった時期だったので、なんとか学費の心配をせずに高校に進学できましたが、陸上部ではユニフォームを買えず、先輩のお下がりをもらっていました。塾にも行けませんでした。弟のバイト代で家の電気代を支払ったこともあります。その後、奨学金制度を利用して慶応大に進学しましたが、住んでいた学生寮が取り壊されることになったときは、引っ越し費用が工面できず、しばらくホームレス状態になったりもしました。

僕の場合、高校無償化や就学援助といった、学費に関する様々な公的支援がなければ、第一志望だった東京の大学への進学は難しかったと思います。これらの制度を作ったのは政治。すごく生活に身近で大事なものなのに、みんなが毛嫌いしている今の状況を何とか変えられないか。それがPOTETOを始めた原点にあります。

Q:活動を続ける中で、見えてきた課題はありますか?

A:18歳選挙権の導入にあたり、模擬投票を授業に採り入れる高校が一気に増えました。でも、本当にそれでいいのかなと思ったんです。高校生が本当に知りたいのは、投票箱にどうやって投票用紙を入れるかではなく、今、世の中で何が問題となっているのか、その背景には何があるのかということ。それを知らないままに投票するのは怖い。だから、投票したくないというのが、僕が出会ってきた多くの高校生の素直な感想でした。選挙権が与えられて「うれしい」というよりは「困惑している」というか。

政治について発信している既存のメディアは、新聞から大きなウェブメディアまで、難しい話を難しいまま、長すぎる文章で書き連ねるものがほとんどです。「Twitterの140字で十分な内容は伝えきれない!」「あれは真の情報発信じゃない!」と思うかもしれませんが、若者に分かるように伝えないと、いずれしっぺ返しが来ます。それを何とか防ぎたい。そういう思いで、とにかく分かりやすく伝えることに力を入れています。

Q:これからどんな活動を展開していきたいですか?

A:政治にまつわるすべてのニュースを、とっつきやすいものにしたいと考えています。少しずつではありますが、既存のメディアや政治家にもクライアントになっていただいています。政治の1次情報を発信する政治家自身が、その発信方法をアップデートすれば、自ずと、政治の発信はもっとオープンで、摂取しやすいものになっていく。だから僕たちは、政治家の人となりや政策、思想信条をカッコいい動画やグラフィック、イベントプロデュースを通じて発信しています。

政治関連のインターンを斡旋しているNPOのアンケートでは、政治家の事務所でインターンを経験した学生のおよそ8割は「政治家は意外といい人だった」と答えています。政治家には、自分を投げ打ってでも世の中を変えたいと思っている熱い人たちが、けっこう多い。そんな良い面を良い面として発信していく。そうすれば、政治のイメージは絶対に変わると思います。

Q:2030年の日本はどうなっていると思いますか。そのとき、どんな自分になっていたいですか?

2030年の日本、と言われても、正直、具体的なイメージを持つことができません。未来はわからないんだ!ということを、幼い頃から刷り込まれているのが、僕らの世代なんじゃないかなぁと思ったりもしていて……。

でも、社会がグローバル化やIT化の波に飲まれたり飲まれなかったりするなかで、人の「欲」だけは充足されないままだと思うんです。大学で「マズローの5段階欲求」について学びました。それによると、社会や技術が発達して従来の欲求が満たされても、人はどんどん高次の欲求を持つので、簡単には満たされません。

例えば、戦後の日本では、衣食住の欲求が最優先されました。でも、世界有数の経済規模になった日本では、「疎外感」や「承認欲求が満たされないこと」に悩み、負の状態に陥る人も少なくありません。そうした新たな欲求を満たしてくれるツールとして、TwitterやInstagramなどのサービスが人気を集めてきましたが、今後はスタートアップがますます乱立して、いろんなサービスがどんどん使い捨てされる究極の大量生産・大量消費社会に巻き込まれていくのかなとも思っています。

そんな社会の中でも、人間の行動原理の根元になる「欲」を直視し、うまく付き合っていける人間になりたい。もっと大きなことを言えば、安心して明日を迎えられ、生きたい人生を歩んでいいよ! と、みんなが子どもに言える社会を実現するために、時代に合ったベストな方法を見出し、そこに熱中して取り組みたい。2030年には35歳になります。いろんなことに挑戦できる年齢だと思うので、いい感じに熟した、夢を語る目がキラキラしているおじさんになりたいです。

古井康介(ふるい・こうすけ)
株式会社POTETO Media 代表取締役社長
1995年、富山市生まれ。慶應義塾大学経済学部4年。専攻は社会政策。若者に政治をわかりやすく届けるメディア「POTETO」を立ち上げ、1日2万人の若者が閲覧するメディアに。2018年2月に大手人材会社の内定を辞退し、事業に専念。現在は、様々な党派の政治家や政党、企業などのプロモーション事業を担当。「朝日新聞DIALOG」メディアパートナー、国際女性会議WAW!2017ユーススピーカーなどを務めている。日本経済新聞社「日経カレッジカフェ」、毎日新聞社「政治プレミア」で連載中。

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