若者が政治を学ぶ意味って何? 奨学金から考える@聖光学院高等学校:朝日新聞DIALOG
2018/08/29

若者が政治を学ぶ意味って何? 奨学金から考える@聖光学院高等学校

Written by間宮秀人(POTETO)with 朝日新聞DIALOG編集部

若者の政治的無関心が指摘されている中で、そもそも政治を学ぶ意味とは何か、疑問に思う人が多いのではないだろうか。

そこで、高校生に政治の意義を考えてもらう授業を企画した。講師は、政治・経済・国際ニュースを、イラストやアニメーションなどでわかりやすく発信するメディア「POTETO」を運営するPOTETO Mediaの学生たち。同社の教育事業チーム「POTETOPIC CLASSROOM」で活動する、慶応義塾大学の古井康介、早稲田大学大学院の野田雅満、早稲田大学の間宮秀人ら、大学生・大学院生12人が参加した。

授業は6月9日、横浜市の名門私立男子校、聖光学院高等学校で実施した。毎週土曜日に、1年生の授業の一環で、社会人を講師に迎えた講演会を開いている。今回は、投票年齢が20歳から18歳に引き下げられたことを受け、高校入学時から政治に関心を持ってもらおうというのが授業の狙いだ。

そもそも「政治を知る意味」とは何か。どんな人も、社会・経済状況によっては貧困に陥る可能性があり、いざというときに必要なのが公的なセーフティーネットだ。そのために普段から政治を知っておくことが重要だと考えている。

では「セーフティーネット」には具体的にどのようなものがあるだろうか。POTETOでは、複数のメンバーが奨学金を受けて大学に通っている。授業では、メンバーが自身の体験を交えながら、政治の役割の一つでもある「奨学金」を入り口に、高校生に政治について知ってほしいと考えた。

そこで、まずこんな質問を高校生たちにぶつけてみた。
「聖光学院に入学できたのは偶然か、努力の(たま)(もの)か」

大多数の生徒が一斉に「たまたま」であると挙手した。たまたま良い友人に出会った、たまたま入試に合格したなど、多くの生徒が「偶然性」を強調していた。そこで、生まれた家庭や地域、経済状況の違いから生じる教育格差について考えてもらった。

(小学何年生で塾に通い始めたかを質問するPOTETOの野田)

教育格差は様々な問題を抱えている。家庭の経済的な事情から大学進学を諦めた子どもたちは、将来得られるお金が大卒者に比べて少ないことが多い。そこから「貧困の世代間連鎖」などの問題が発生する。

格差をなくさなくてもよい」という立場の人もいる。「個人の努力によって、格差による不利益を解消することができる」と主張する人もいる。格差がなければ、個人のやる気もなくなり、国の成長が止まってしまうかもしれないというのが、彼らの主張の根本にある。

そこで生徒たちに、教育格差をなくしたほうがよいか、というテーマを投げかけてみた。格差の是正に賛成か反対か、またその理由を論じてもらった。

賛否の数はほぼ同じくらいだった。是正に賛成の立場の意見として、「教育を十分に受けられない人が困っていることは事実。そうである以上、教育をより充実させ、格差をなくす方向にするべきである。この議題を常に頭の片隅に入れておくことが大事だと思った」などの意見があった。

一方、教育格差を是正しなくてもよいという立場からは、「単純労働は社会に必要。頭脳労働をする人が、単純労働に就く人を差別する構造は、そう簡単になくならないのでは」とか、「義務教育を受けるだけで生活に困らないのなら、是正しなくてもいい。塾などの教育サービスは、親という顧客が金で買っているので、これを否定すると市場の基本原理を根本から否定することになる」といった意見が出た。

白熱した議論の最後にPOTETO Mediaの代表・古井が、自身の経験を語り始めた。小学校時代は富山県で両親や兄弟と比較的裕福な生活を送っていたが、2008年のリーマン・ショックで状況はガラリと変わり、東京の大学への進学が絶望的になった。子どもではどうにもならない窮地を乗り越えて慶応義塾大学に進学し、在学中に起業できたのは、「奨学金の存在が大きかった」と古井は語った。

聖光学院の生徒の多くにとって、奨学金や教育格差は関心事ではないかもしれない。しかし、無関係に思えても、それがどういう形で自分と関わり、救いの手となるか分からない。
「いざというときのために、社会保障や社会のルール、つまりは『政治』を知っておくことには価値がある」。古井はそう締めくくった。

授業後のアンケートでは、「教育格差について考えたこともなく、ただ無関心だったが、議論をすることの面白さに触れることができた。自分の世界に閉じこもるにしても、『こういう視点もある』ということを知っているのと知っていないのでは、大きく異なる。 結局、政治というのは、『困ったときにどうしようもなくなる』という状況を回避するためのルールのようなものだと思う。知らなかったり、知ろうとすらしなかったりするのでは、いざ困ったとき、ルールに定められた制度に助けを求める権利は、そもそもないのかもしれないと思った」という意見があった。まさしく、今回の授業を通して生徒たちに理解してもらいたかったことだった。困ったときに行動しても遅い。大切なことは常に政治を理解しておくことだ。

〈Author〉間宮秀人……早稲田大学教育学部教育学科教育学専修2年。POTETO Mediaではメディア提携事業部に所属。

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