DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2018/10/15

未知の領域にチャレンジできたのは「人が紡いだ縁」
ゼロからのスタートで生まれ変わったワインプラザYUNOKI

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2013年、父親が余命3カ月の宣告を受け他界したことをきっかけに、10年間のサラーマン生活に終止符を打ち、3代続いてきた家業の酒屋の4代目となることを選んだ柚木久美江さん。最初に直面したのは、先代が遺した2000本のワインの管理と、銀行口座凍結という、厳しい現実を綴ったエピソードが、「『経営の数だけ答えがある』ストーリー審査会」(エヌエヌ生命保険株式会社主催)でグランプリを受賞した。そこで大阪市にある「ワインプラザYUNOKI」を、特別審査員を務めた元フジテレビアナウンサーの木佐彩子さんが訪ね、現在に至るまでのストーリーを伺った。

ゼロからのスタートを乗り切れたのは「人と人の縁」

木佐 お店を拝見させていただきましたが、とても素敵な空間ですね。柚木さんは、ワインの知識もないまま、ゼロの状態からこのお店を継ぐことになったそうですね。

柚木 父の死後、父が遺した2000本のワインを保管していたワインクーラーのローンに加え、それを稼働するための電気代も払わなければいけない状態だったにも拘わらず、銀行口座が凍結され、まさにゼロからのスタートで、とにかくワインを売らなければマイナスになってしまうという状態でした。

木佐 今回グランプリを受賞されたストーリーに、乗り切れたのは「人と人の縁」と書かれていましたが、そのピンチを助けてくれた方がいたんですか。

柚木 すごくラッキーなことに、実家がレストランを経営する友人が、私の困っている姿を見て、高級ワインを大量に仕入れてくださり、まとまった資金を得ることができました。それを運転資金に、なんとか商売することができました。

木佐 お父さまのお仕事を継がれる前は、どんなお仕事をされていたんですか。

柚木 製薬会社で品質管理の仕事をしていました。自分で商売を始めてからは、知らないところへ飛び込んでいかなければなりませんでしたが、毎日研究室で実験をする仕事だったため、営業の経験がなく苦労しました。そのため最初はお客さまを常連の方に紹介していただいたりして、ワインを買っていただきました。最初は店舗営業をしていなかったので、ご紹介いただいた方を倉庫にご案内し、それこそ段ボールの山の中に入っていただいて、ワインを選んでもらっていました。

木佐 接客や営業の経験があったわけではなく、試行錯誤という感じだったわけですね。

柚木 そうですね。常連になってもらうには、まずお客さまのことを知らなければいけないと思い、一人ずつオリジナルのカルテを作成しました。そのカルテには、誰からの紹介で、何をどのくらい買ってくれたかを記録していました。中にはワインバーを経営しているなど、一度にたくさん買ってくれるお客さまもいらっしゃいました。2000本のワインを目の前に、どうしようと思っていたので、本当に人のご縁でお客様を紹介いただけたのは、感謝に堪えません。

木佐 2000本というコレクションそのものがお父様の生き様だったのでしょうね。そのワインたちを目の前に、まずは何から始めたんですか。

柚木 当時は価値がわかっていなくて、「これが3万円もするの?」という状態でした。人に頼ることもなかなかできず、自分で勉強するしかないと思い、営業後にワイン学校に通っています。例えば、安いワインはこちらに知識がなくても、売ることができますが、父がやってきたように、高いワインを扱おうとすると、私自身に知識がないと売れません。そのため、とにかくワインに関する知識を学ぶ必要がありました。そういう意味ではまだスタートラインにも立てていないかもしれません。

グランプリ受賞が、今後商売に向き合う勇気を与えてくれた

木佐 私もワインが大好きで、よくいただきますが、ワインの世界は奥が深くて、突き詰める人の拘りはすごいですよね。そういうお客さまを相手にするには、やはり知識が大事なんですね。あえて薄利多売の道を選ばずに、お父様と同じ道を選ぶ決断をしたきっかけになるようなことはあったんですか。

柚木 実は今回のストーリーに応募し、グランプリをいただいたことが背中を押してくれました。昨年、創業スクールに通っていた時、講師の方から新聞記事のスクラップを薦められて、日々新聞を読んで、切り張りしては、自分のコメントを書いていくという作業をするようになり、今も続けているんですが、そうやって新聞を読んでいたら今回のストーリー募集の広告が目に入ってきたんです。

木佐 そうだったんですか。私も審査員を務めさせていただき、柚木さんのストーリーを読んでとても共感していたので、なんだかうれしいですね。

柚木 この仕事を始めた時、ワインの国際資格を取るのが夢で、2年間勉強して取得したんです。ワインセラーも新調し、資金も貯まり、在庫のワインも家族で消費できるくらいの本数まで在庫が減ったため、今なら30代ギリギリ、サラリーマンに戻れるかもしれないと考えていたんです。でも、私のストーリーを認めてくださり、勉強は大変ですが、やはり先代がやってきたことを続けようと決心することができました。

木佐 今までずっと、在庫を減らさないと、という責任を背負ってやってきて、ゴールが見えてきたところで、改めて今後について考えたということですか。

柚木 そうなんです。インターネットで手軽に安いワインが手に入る時代に、わざわざ高いワインを仕入れて、また在庫を抱えることになるのかと考えたら、なんだか尻込みしてしまっていました。

木佐 決断してみていかがですか。

柚木 これまで、ブルゴーニュのバックビンテージを中心に扱ってきたので、これからもフランスのブルゴーニュ産に特化しようと思っています。そのため、これまで以上に勉強をしっかりしなければいけないのですが。

行動すれば次につながる。将来はこの思いを世界につなげたい

木佐 新たなキャリアをスタートして、何か変化などはありましたか。

柚木 実は、ワインがきっかけで主人と出会いました。これも本当に人がつないでくださった縁です。友人に誘われて、営業目的もかねて、飲食店の方が集まるバーベキューに参加したんですが、主人もそこに参加していました。その時は、営業に必死で気づかなかったんですが(笑)。

木佐 それは素敵ですね。お父さまがつないでくれたご縁でもありますね。お仕事の方も、大阪産の野菜に目を付けた、新たな取り組みを始められているようですね。

柚木 昨年、創業スクールに参加したことがきっかけで、「おおさかもんDEマリアージュ」というイベントをスタートしました。健康のため、山登りをしているのですが、道の駅で大阪産の野菜が売っているのを見かけたんです。泉州の水ナスは有名ですが、難波ネギなど、地元大阪の人も知らない野菜がたくさんあるので、それを広めたいと考えるようになりました。もともと、私はワインと野菜の組み合わせが好きだったので、そこから着想しました。

木佐 ワインと言うと、赤だったらチーズとかお肉、白だったらお魚などと組み合わせることが多いですけど、野菜だったらヘルシーで女性にも支持されそうですね。

柚木 仕事柄毎日ワインを飲んでいたので、普通に食べていたら太ってしまうなと……それで山登りもしていたのですが、野菜だったら太らないからと、ワインに組み合わせていたところ、必然的に好きになって、それなら大阪産の野菜とワインというコンセプトで行こうとなったわけです。

木佐 ボルドーワインは和食にも合うって言いますよね。具体的にはどんなことをしているんですか。

柚木 生産者の農家さんにこのお店に来ていただき、育てている野菜をおいしく、かつ家でも簡単に再現できる料理法を教えていただきます。前回は水ナスの料理を作っていただいたんですが、短時間で作れて素材の味を楽しめるもので、参加者にも好評でした。そしてその料理に合うワインを私が選んでお出しします。最後はお土産に水ナスとレシピを持って帰っていただきます。

木佐 若い人が新たな楽しみ方としてワインと地元の野菜に親しんでくれたら、地産地消にもなり、おいしいし楽しいし、みんながハッピーになりますね。

柚木 農家の方のモチベーションも上がります。やはり自分たちが育てた野菜をおいしいと喜んでいる姿を見るのはうれしいと思います。最初に協力してくれる農家の方を見つけるのは大変でしたが、次はこの農家さんに玉ねぎ農家さんを紹介してもらうなど、どんどんつながっていけばいいと思っています。

木佐 農家さんもリレー形式でつながる。まさに人と人とのあたたかいつながりがここにも生まれますね。夢が広がります。

柚木 そうですね。活動しているといろいろと広がっていきます。最近は「まちぜみ」という活動も始めました。最近個人商店が減っていますが、こうした商店を元気づけようと、個人商店の店主が講師として専門性を生かした学びの場を提供します。例えば八百屋さんから新鮮な野菜の見分け方を教えてもらいます。しかし本当の狙いは、その店主さん自身の人柄を知っていただき、ファンを増やすことです。まずお店に来てもらうことがとても大切です。うちの店も敷居が高そうだと言われますが、来ていただければ、1000円のワインも置いていることをわかっていただけます。

木佐 なるほど、一回とにかく来てもらうと次につながるわけですね。

柚木 はい。そこで、お店の人を知ってもらえれば、2回目が来やすくなります。

木佐 地方創生にも貢献できますね。私も内閣府の仕事などで、地方の取り組みに関心を持っていますが、良いモデルになりそうです。

柚木 代々ここで商売をさせてもらっているため、やはり地域に還元をしたいという気持ちがあります。

木佐 恩返しを忘れないというか、ここでずっと長い間、地域愛が強いんですね。今後、将来の夢はありますか。

柚木 私はワインを通じて、世界につながることができました。以前、部屋にこもって実験ばかりしていた時と比べたら、本当に世界が開けたと思います。ゆくゆくは主人とフランスに住んで、せっかく取得した国際資格を生かしてみたいなと考えています。

木佐 全国には柚木さんのように日々奮闘している中小企業の方がたくさんいますが、何かメッセージをお願いできますか。

柚木 最初は相談する相手が母親しかいなかったのですが、自治体や金融機関などの助成金や制度を活用することで、助けられました。自分一人の力じゃ何もできない。でも協働して誰かとタッグを組むことで、道が開けるということを知りました。ですから、ぜひそうした制度を活用するといいと思います。

木佐 日本人はなかなか助けてと言えず、自分で背負ってしまいがちですよね。もうちょっと甘えてもいいのに。本日は楽しいお話をありがとうございました。この後私も是非ワインを買って帰ろうと思います(笑)。

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