ソーシャルイノベーターに聞く「テクノロジーとデータ、デザインの力で法律や政治をアップデートしたい」徐東輝さん(27)

朝日新聞DIALOG編集部

「2030年の社会を考える」をコンセプトとする朝日新聞DIALOGには、様々な社会課題に取り組む若者が多数関わっています。そぉとんふぃさん(27)は、弁護士1年生。東京都内のベンチャー法律事務所で激務を担いながら、学生時代に立ち上げた、NPOの代表理事も続けています。「テクノロジーやデータ、デザインの力で、法律や政治をアップデートしたい」と語る東輝さんに、思いを聞きました。

#政治 #人権 #テクノロジー

Q: そもそも、なぜ弁護士になろうと思ったのですか?

A: 名前からも分かるかと思うのですが、僕は在日韓国人として生まれました。祖父母の代に日本に来て、両親は日本生まれ、日本育ち。僕はいわゆる3世です。高校まで大阪で育ったのですが、小学生の頃は韓国人だということでいじめられ、不登校も経験しました。どうして韓国人に生まれたんだろうと悩んだ時期もありましたね。「在日」に対するイメージもあまり良くなくて。被害者意識のかたまりだとか、日本人の悪口ばかり言っているとか、勝手にそんな風に思っていました。

小学5年生の時、両親があるシンポジウムに連れて行ってくれました。韓国人や台湾人の戦時中の損害賠償請求がテーマだったのですが、弁護団が全員日本人だったんです。当時、僕はいじめられていて、日本人は皆、韓国人が嫌いだと思っていたので、シンポジウムの後、弁護団のトップの人に「なぜ日本人が韓国人の弁護をするんですか」と聞いたんですね。すると、「国籍にかかわらず、人として正しいことを追求できるのが弁護士という仕事なんだよ」と言われて、とても感動したんです。その日から「僕、弁護士になる」と周囲に宣言していたそうです。

1歳の誕生日に

Q: 政治に興味を持つようになったきっかけは何だったんですか。

A: 理由はいくつかあるんですけど、一つは自分のアイデンティティーにかかわる部分。在日なので、日本にも韓国にも投票する機会がなかったんですね。韓国は2009年の法改正までは在外投票が認められていなかったので、韓国でも日本でも投票ができなかったんです。日本は20代の投票率が低いですが、投票権のない僕からしたら、こんなにも美しい権利を捨ててしまってもったいないな、と。投票権が欲しいというより、投票権があるのに使わない人たちに切なさを感じていました。

もう一つが震災です。2011年、大学2年の時にニュージーランドに留学したのですが、滞在中にクライストチャーチ地震に遭遇し、トイレも電気もない生活をしばらく経験しました。帰国後の3月、友人たちと東北旅行をし、関西に戻った翌日に東日本大震災が起きたんです。昨日までいた場所が津波にのみ込まれる映像を見て、いても立ってもいられず、南三陸や気仙沼でボランティアをしたり、福島からの避難者を支援する活動をしたりしました。こうした活動を通じて、絶望的な時期における、政治の力の大きさを痛感するようになったんです。

ただ実際、震災後に民主党政権から自公政権に代わった時の総選挙の投票率は、その前の総選挙の時より下がったんですね。日本がこんな状況の時こそ、もっとみんなが政治に関心を持つべきなんじゃないか、そのために何かできることはないかと考えるようになりました。

その思いを具現化するため、大学院に進学した2014年、学生団体「ivote関西」を立ち上げ、高校でシティズンシップ教育の授業をしたり、政治家や様々な著名人を招いて「民主主義」を若者に感じてもらうイベントや空間を作り上げたりしました。2016年に団体名を「Mielka」と改称し、NPO法人化しました。

Q: Mielkaは、政治情報の「見える化」にかけているのですね。2017年の総選挙時に作った情報サイト「JAPAN CHOICE」は話題になりました。

A: ありがとうございます。Mielkaは「テクノロジー、データ、デザインによる民主主義のアップデート」をビジョンの一つに掲げています。たとえば、投票するのに必要な情報って、テレビや新聞、選挙公報などを自分で調べないと分からないことが多いですよね。ネットが普及しても、それは同じです。人づての、真偽が不明な情報や、権力を持つ側が発信する情報が投票の判断材料になっているという点において、民主主義の形は昔と変わっていないと言えると思います。

しかし、データから本質的な論点をあぶり出したり、必要十分な情報をテクノロジーで抽出したり、大量の情報をデザインによって直感的に理解できるシステムを作ることが可能になれば、人は無意識のうちに、楽に、合理的な意思決定ができるようになるのではないかと仮説を立てました。それが、僕たちの目指す「民主主義2.0」です。投票率は、単なる指標の一つに過ぎず、結局は共同体の幸福度が高まる意思決定をどう実現するのかが重要だと考えています。

JAPAN CHOICE(http://japanchoice.jp/、現在一部改修中)は、サイト上の日本地図で自分の町をクリックすると、候補者が一覧で示されます。また、社会政策に関する質問に答えていくと、自分と考えの似た政党をマッチングしてくれる機能もあります。このサイトは今も改良を重ねていて、国会の決算資料や政治資金、質問や答弁などのデータを集めています。歴代の政権が、何の政策にどれだけお金を使ってきたかをビジュアルで見せられるようにしたいと思っているんです。ちなみに、先日の沖縄県知事選でも特設サイトをつくりました。(http://mielka.org/okinawa

Q: 政治や選挙をデータで可視化する。そのアイデアを得たきっかけは何だったのですか?

A: 2016年に司法試験に合格した後、司法修習生になるまでの3カ月間、クラウドファンディングで資金を集めてアメリカ大統領選を取材したんです。日本の選挙と最も大きく違っていたのは、人々の情報へのリテラシーと、メディアによる情報の見せ方でした。候補者が積極的に情報を開示するだけでなく、様々な情報の組み合わせ、掛け合わせで、有権者が求める情報をかっこいいインフォグラフィックスにして伝えるメディアがたくさんあったんです。彼らは、「自分たちが民主主義を作っていく」という気概にあふれていました。既存の民主主義の形態に問題があるなら、「投票に行こう!」という啓発活動で人々の意識を変える試みだけでなく、サイトを見ただけで投票に行きたくなるような、人々の無意識に働きかけるようなシステムを作ってみたいと思ったのがきっかけですね。

2016年10月、オハイオ州でヒラリー・クリントン氏の集会を取材した

Q: 所属されている法律事務所ZeLoも、ブロックチェーンや仮想通貨、フィンテック、人工知能(AI)といったテック系に強いイメージがあります。大手ではなく、ベンチャーの事務所を選ばれたのはなぜですか?

A: 事務所としては2017年の創業以来、上場企業や歴史ある企業のみならず、スタートアップ企業のサポートにも力を入れてきました。気づけば、顧客にテック分野の企業が多かったということで、テック系に特化しているわけでもないんです。一方で、ZeLoの創業メンバーは、AIを活用した契約書の自動レビューサービスを開発する株式会社「Legal Force」を同時に創業しており、僕たち自身もまた、一つのスタートアップの当事者でもあるんです。

テクノロジーの進化で、社会や企業の動きが大きく変わる中、法制度が追いついていない部分がたくさんありますよね。あるテクノロジーが社会に大きな変革をもたらす際に、何らかの害悪をもたらす恐れもある、というケースは多々見受けられます。このとき、人間の弁護士としては、本質的な部分、つまり、産業の成長は加速させながらも、現在の法規制が保護する法益との関係を調整する力が必要です。ZeLoのポリシーには、ルールメーカーとなる弁護士になることも掲げられています。定型的な業務が、人間よりも処理能力の高いAIや機械に任せられるようになると、弁護士が従来よりもクリエーティブな仕事に注力できるようになり、そういった役割も果たしていけるのではないかと考えています。

大手ではなくZeLoを選んだのは、同時に創業したLegal Forceを手伝い、大きくしていけるから、そして、若手であっても裁量を与えられ、様々な難題に本気で挑戦させてもらえると思ったからです。僕以外は大手や老舗の弁護士事務所からリスクをとってジョインされた先輩が多く、そういった先輩方と仕事ができることも魅力の一つでした。1週間のうち、月曜から土曜の昼までは弁護士として働き、土曜の午後から日曜の夜までは、Mielkaの活動に充てている感じです。体力的にはハードな日々ですが、仕事も含めて好きなことだけで生きているので、精神的な疲労はなく、素敵な先輩や同志に恵まれて、充実した日々を過ごしています。

Q: テクノロジーの進化で、社会の在り方や働き方も大きく変わっていくでしょうが、2030年はどんな社会になっていて、東輝さんはどんな大人になっていると思われますか?

A: 物事や情報の動きが速くなりすぎて、そもそも3~5年先くらいまでしか具体的な未来は考えないようにしているんですけど、AIとかロボティクスが、今、人間が担っている仕事の多くを代替する状況にはまだなっていないと思います。国がどういう政策分野に投資をしていくのかによっても、社会像は変わってきますよね。経済格差は古今東西、いつの世もあると思いますが、人口減が進む中で、世代間対立をあおるような政策分野の対立、例えば、教育費を削ってでも医療費にまわす、逆もまたしかり、みたいなことが起きていないかが心配です。

僕自身は、39歳になっている予定ですね。きついですね。あと12年で30代が終わると思うと(笑)。同世代に、様々な分野で活躍している仲間が多いので、ぼーっとしていたら置いていかれるという焦りはあります。自分が理想とする人物、例えばソフトバンクの孫正義さんが株式を店頭公開したのが36歳、山田進太郎さんがメルカリを創業したのは35歳の時なんですよ。30代半ばから40歳くらいで何かを成し遂げたいと思ったときに、必要な人、情報、お金を集められる人間になっていたいなと考えています。頑張らないといけないですね。

徐東輝(そぉとんふぃ)
弁護士、NPO法人Mielka代表理事
1991年生まれ。2016年、京都大学法科大学院修了時に同大学総長賞を受賞。同年、司法試験合格。2017年弁護士登録。2018年より法律事務所ZeLo(東京都中央区)に参画。世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバルシェイパー。NewsPicksプロピッカー。

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