DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2018/10/31

教員SNSに離島教育――社会課題を解決する子どもを育てる
Social Innovator’s EXPO for 2025 ~未来社会を考える3日間 3日目レポート[PR]

[PR]2025日本万国博覧会誘致委員会 協力 日本財団、朝日新聞社

■3日目(9月17日)
テーマ「教育システムで社会を変える。」

9月15~17日の3日間にわたって東京・渋谷で開かれた「Social Innovator’s EXPO for 2025 ~未来社会を考える3日間」(2025日本万国博覧会誘致委員会主催)は、2025年大阪・関西万博の誘致活動で掲げている「SDGs達成への貢献」について、若きソーシャル・イノベーターたちとともに考えようという試みです。
最終日のテーマは「教育システムで社会を変える。」。2025年大阪・関西万博がめざすのは、教育システムの改革によって人と社会、人と行政、人と人がよりよい関係で結ばれる社会です。2025年日本万国博覧会誘致委員会事務局の永井隆裕次長の基調講演に続き、キーノートスピーチや事例紹介、パネルディスカッションが行われました。

【キーノートスピーチ】
●浅野大介氏(経済産業省商務・サービスグループ政策課長兼教育産業室長)

経済産業省では、文部科学省が担当する「学校」とは別に教育産業というカテゴリーで教育とかかわっている。同省教育産業室長の浅野大介氏は、会場に向けてこう訴えた。
「現在、経産省は教育改革を政策の一つに掲げています。あらゆるビジネスは、社会課題と生活課題を解決することで対価を得ることで成り立ちます。しかし、最近の日本にはイノベーションが生まれていません。課題の構造を見極めて解決していくにはデザインセンスが必要で、それには文系と理系を分けるような発想ではダメ。課題の解決のためには、知識の壁を取り除かなくてはいけないのです」

経産省が推進する教育改革は、2025年の大阪万博が掲げている「People’s Living lab(未来社会の実験場)」というコンセプトに根差している。世界の知、異分野の知がコラボレーションする場にしよう、という思いが込められているという。
「Lifeという言葉にかなり思いを込めたのが日本の特徴です。日本は課題が山積する“課題先進国”ですが、問題を発見して解決し、自分の力でルールを作り直していく力が弱い。そういう力を育てることを、従来の教育は得意としてきませんでした。これまでの教育では、世界とともに未来社会を作っていく日本人を育てていくことはできない。だからこそ教育改革を私たちがやろうとしているわけです」

【事例紹介】

その後は初日、2日目と同様に、2つの事例紹介に移った。岩本悠氏は日本財団のソーシャルイノベーター最優秀賞、浅谷治希氏は同優秀賞を受賞したプロジェクトを運営している。

●岩本悠氏(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表)

「島根県隠岐島にある海士町でやってきたことは、学校や学習塾の壁を超えて、多様な人たちが、子どもたちの未来をつくっていくために深い対話や共通体験の場をつくるということでした。学校では単に勉強を教えるだけでなく、子どもたちが大人と一緒になって社会課題を解決していくプロジェクト型の学習を中心に行っています」
一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表の岩本悠氏は2006年から海士町に移住し、教育委員会で教育を通じた町づくり推進してきた。その経験を島根県全体に広めるため、現在は島根県教育庁特命官も務めている。

「社会問題の解決において、これまで子どもたちは不在でした。それを、子ども主体に変えたのです。それによって、社会を変えるという自覚を持ち、実行していける子どもたちが育っています。未来をつくる『オーナーシップマインド』を持った若者が育っているわけです」
島は人口流出が激しく、唯一の高校だった県立隠岐島前高校も統廃合の危機に瀕していた。そこに岩本氏が「高校魅力化プロデュサー」として乗り込んで、魅力化事業をスタートさせた。魅力化事業はやがて中学、小学校へと広がっていく。
「大人と一緒になって社会課題を解決していくことで、子どもたちは貴重な体験を積み重ね、深い学びを得ていきます。そこで学んだ子どもたちは学校を卒業しても、学びを止めない。そういう活動を続けているなかで、12年前は中学を卒業すると半分が本土の高校に進学していましたが、いまでは9割が地元の高校に進学します。それどころか、県外からの“島留学”や、ここでの教育を受けるために家族ごと移住してくるケースも増えてきています」
岩本氏が始めた魅力化プロジェクトは、島内の人だけでなく、島外の人たちをも魅了しているようだ。

●浅谷治希氏(一般社団法人日本教員多忙化対策委員会代表)

浅谷治希氏が代表を務める一般社団法人「日本教員多忙化対策委員会」はその名のとおり、教員の多忙を解消して生徒と向き合える環境づくりのために活動している。
「6年前に、学校の先生をしている高校時代の同級生と久々に再会したことが、この事業を立ち上げるきっかけでした」
もともと教育関係の企業に勤めていた浅谷氏は、教員という職業は“つまらない”と思われがちだと思っていた。それが、友人と話すうちに、教員も実は情熱を持っているし、いろいろ悩みがあることがわかったという。

「ならば、先生を基点に学校教育を大きく変えられるのではないか、と考えたのです。いまの先生たちは多忙で、1日の授業の準備時間が5分から15分しかとれず、ほとんど準備ができないまま授業に臨んでいます。この課題を解決していくことが、学校の活性化につながるし、それが社会の活性化にもつながっていくと考えています」
学校教員同士が意見交換もできる情報共有サービス「SENSEI NOTE」(小中高の先生向けのSNS)のリリースや、多忙を解消するためのアイデアをまとめた「教員多忙化対策 とらの巻」の作成などを行っている。こうした活動を通して、「教員の役割が広がっていく」と浅谷氏は説明する。
「“変わっている生徒”“教室でういている生徒”はいます。これまで学校は、そういう子どもたちを学中に閉じ込めてきました。しかしそれも、先生たちが『こういう子がいるよ』と情報を発信することで、外からさまざまな力を借りることができ、子どもの可能性を広げることができるようになります。情報の使い方で学校が変わるし、社会を変えていけると考えています」

【パネルディスカッション】

モデレーター
最上元樹氏(株式会社フューチャーセッションズイノベーション プロデューサー)
パネラー
福本理恵氏(東京大学先端科学技術研究センター特任助教)
浅野大介氏(経済産業省商務・サービスグループ政策課長兼教育産業室長)
岩本悠氏(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表)
浅谷治希氏(一般社団法人日本教員多忙化対策委員会代表)

続いて行われたパネルディスカッションには、東京大学先端科学技術研究センター特任助教の福本理恵氏も加わった。モデレーターを務めたのは、株式会社フューチャーセッションズのイノベーション・プロデューサー、最上元樹氏だ。

福本 まず、私たちの大学が取り組んでいるプロジェクトについて紹介したいと思います。日本財団と共同主催で、不登校の子どもたちを対象にエッジの効いた教育をする「異才発掘プロジェクト:ROCKET」に取り組んでいまして、そこで私はプロジェクトリーダーをやっています。現在、13万人を超える不登校の子がいるといわれています。そういう枠に収まらない子どもたちは、イノベーションを起こしていける異才の持ち主である可能性を秘めている、という前提からスタートしています。全国で100人の不登校の子たちを対象に、プロジェクトは4年目に入っています。 そういう子たちに共通しているのは、「好きだからやめられないものがある」という特徴です。そこを育てていくことをプロジェクトの目的として取り組んでいるところです。

浅野 いまは枠をつくっている学校そのものが、物理的な存在としては、なくなるのではないかと思います。学びのために、必ずしも学校という場にいる必要はなくなる。先生もいまは、教科書の1ページから順追って教えていくのが役割だと思っています。その役割は、ごく一部の人が担えばいいことです。これから、先生の役割は変わってくると思います。

岩本 学校は、従来の社会モデルを引きずっている存在ですよね。次の段階は地域社会に開かれた学校に、その後は未来社会に開かれた学校になっていくと思います。学校が、社会を先取りするようなことを実現していく場になる。その中で、子どもたちは未来社会の課題を解決していくことを学んでいく。

最上 そのためには現在、何がハードルとして存在しているんでしょうか。

浅谷 実際に先生たちに会っていて思うのは、先生たちが変わるとは思っていないし、学校が変わるとは思っていない、ということです。

福本 先生たちが、もっと社会の現場に入っていったらいいと思います。たとえば、手すき昆布職人の話を聞くと、日々が昆布のことばかりのはずなのに、浸透圧とか植物の生態に詳しい。昆布を通じて、学校の5教科全部の知識を持っている。そういう学び方があることを知れば、先生の教え方も違ってくるはずです。だから、現場に出るべきなんです。

岩本 教科との紐付けでいけば、いまでも抜け道はあるんですよ。高校なら家庭、情報、芸術、保健という必履修以外の科目がありますが、それを私たちは一つにまとめてしまいました。プロジェクトの中で学んでいることを、家庭科的な部分、情報科的な部分と当てはめていけばいい。それは、できるんですよ。ただ、本当にやったかどうかの後付け資料みたいなものを、文部科学省は大量に提出させるんですね。そういうムダなことをさせられるので、負担になりますね。

浅野 そんなことあるんですか。それは、政策課題ですね。重く受けとめます(笑)。

福本 自分がやりたいことをやっていて、先に進むときに自分の知識が不足していることに気づくのは子どもたち自身なんですね。それで専門知識の勉強をはじめたときに、どう助けていくかが大人の役割です。

浅野 勉強する気になったら、ギアが入ってやるじゃないですか。そのとき、初めて教科書が生きてくる。分かりやすく、良くできているのが教科書ですからね。

浅谷 最近、カリキュラムマネジメントというテーマがあるんです。世界史を学ぶときに古代から始める必要はなくて、現代からやったほうが実感をもって学べるかもしれない、という考え方です。

岩本 これから育てたい“チェンジメーカー”(社会変革の担い手)というのは、主体的に課題を発見して解決していく、多様な人たちと協同する、学び続ける力を持った人たちですよね。そうした力を育む上で、プロジェクトベース・ラーニングも大事ですが、もっと重要なのは環境なんですよ。私たちは「土壌」と呼んでいるんですが、問う、問われる、という対話的な土壌が必要です。先生や保護者が指示するのではなく、問う、問われる関係が豊かなコミュニケーションの中にいることが大事だと思います。

浅野 プロジェクトでも、こういうことを学んで欲しいというオチを設定しているものなら、やらないほうがいい。プロジェクトは世の中に価値を生むことが目的であって、学びを得ることが目的ではないからです。学びを得ることを目的化したとき、すべてが意味を失う。価値を生む中で、学びもあったね、ということならいいんでしょうけどね。いまの学校は、いまの社会に適応することを教えている。そうではなくて、いまある社会の限界を超えることを目標にするのが、これからの学校だと思います。それを先生たちが言える環境をつくっていくことが大事です。

岩本 さっき浅野さんと話していて、「やろう」と意気投合したことがあるんです。チェンジメーカーになる子どもたちが、どんどん輩出されていく場をつくっていこうというプランです。自分でプロジェクトをつくったり、ソーシャル・チャレンジをしたいという子どもたちを理解しないのが、いまの学校です。そういうところから子どもたちを解放しよう、と。「こんなことをやりたい」という子たちが集まってきて、それを大人たちが自分のできる支援をする場を来年度にもつくっていこうと、話をしていたところです。

福本 課題解決という言葉を、子どもに与えすぎている、と私は感じています。「社会活動家になりたい」と言いだす子がROCKETの中にもでてくるんです。もともと歴史が好きだったのに、課題解決する社会活動家の存在が注目されすぎて、そこに引きずられてしまっているんです。それによって、自分の強みが伸ばせなくなる可能性もあります。課題解決にとらわれず、自分のやりたいこと、好きなことを伸ばすことに集中することも大事だなと考えています。いくところまでいって、そこで社会と結びつくことで、結果的にイノベーションが生まれる。そういう状況をつくっていくことも、必要だと思っています。

浅野 子どものときからソーシャル・イシューに興味ある子とない子、いろいろですよね。だからこそ、オチを簡単につけないことが、とても重要だと思います。いろんな選択肢があり、いろんな結論があり得る教育が、これからの教育じゃないでしょうか。

最上 本日は、ありがとうございました。

最後に、今回のイベントの協力団体の一つである日本財団の笹川順平常務理事が登壇し、万博誘致に向けた応援を訴え、イベントを締めくくった。

「今日の話にもあったように、もちろん学校も大事なんですが、個人的には家庭が根幹にあると思います。日本財団がいちばん大事にしているキーワードが『子ども』であり、貧困も含めて環境が恵まれていない子どもたちが多く存在しています。また、学校の集団活動の中では芽が出せないけれども、個になったときに力を伸ばせる子もいます。日本財団としては、さまざまな視点から子どもたちを支えていきたいと考えています。

日本には多くのソーシャル・イノベーターが存在します。そういう方々をネットワークで結び、いろいろなかたちで財団として支援させていただきます。11月23日の開催地を決める投票で勝っていただいて、ソーシャル・イノベーターによる日本の力を世界に発信する機会をつくっていきたいと思います。どうぞ、みなさん、よろしくお願いします」

2025年万博の開催国は今年11月23日にBIE(博覧会国際事務局)総会で決定します。
2025年万博を日本、大阪・関西へ
詳しくは、こちら(2025日本万国博覧会誘致委員会のページ)をご覧ください。
https://www.expo2025-osaka-japan.jp/

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