
平成の30年間で、人々の働き方や仕事への価値観は大きく変わりました。1990年代から働く女性が増えて育児との両立が課題になり、2000年代からは「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が広く知られるようになって、男性の働き方にも影響を与えています。働き方の変化とともに、家族のあり方も多様化しています。
朝日新聞DIALOGは11月7日(水)に、連続セッション「平成世代が考える『平成30年』の先の未来」第4弾を、「働き方と家族のかたち」をテーマに開催します。これに先駆けて、ゲストとして登壇する武石恵美子・法政大学キャリアデザイン学部教授に、この30年間の働き方をめぐる社会の変化について聞きました。
女性も働き、男性も育児をする方向へ進んできた社会
Q.この30年間、どのような政策や社会の変化が人々の働き方に影響を与えてきたのでしょうか。
A.女性の働き方の変化にとって、1986(昭和61)年に施行された「男女雇用機会均等法」は大きなインパクトがありました。それまでは女性というだけで企業の採用試験を受けられないなど、女性が雇用差別を受けてきた実態がありましたが、均等法を機に、女性が能力を発揮できる職場環境の重要性が認識されるようになりました。90年代には「育児休業法」(現在の「育児・介護休業法」)の施行など、女性が出産しても仕事を辞めずに働き続ける道が開けました。ただ、当時は、長期継続雇用を前提とした男性の働き方のモデルにいかに女性を近づけるかということが議論の方向性でした。また、90年代後半の就職氷河期には女性の非正規労働化が急速に進むなど、必ずしも法が目指した方向に進んできたとはいえなかったと思います。

2000年代に入ると、賃金体系の見直しなどにより「夫が稼いで、妻が家を守る」という家族のあり方が時代にそぐわなくなります。働き方も、男性モデルを女性が追いかけるのではなく、新しいかたちを模索する動きが起きました。育児と仕事の「両立」のみならず、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」を重視する企業が増え、政府も07年に「ワーク・ライフ・バランス憲章」を策定して男性の育児休業取得率の目標値を定めるなど、政策的にも「働き方変革」が重要課題となりました。
2010年代には人口減少や人手不足の観点から「女性活躍」が注目されるようになりますが、人材の多様性が企業の価値を高めるという、よりポジティブな意味での「ダイバーシティー(多様性)推進」が重視されるようになり、この観点から女性活躍が「人事戦略」として展開されるようになってきました。法や企業の態勢も整備が進み、女性が出産後も仕事を辞めない傾向は顕著になりました。さらに、男性も育児に参加しようという流れが生まれています。非正規の女性にしわ寄せがいっているといった課題を残しながらも、働き方をめぐる状況は改善の方向に向かってきています。
長時間労働に働く側が問題提起したイギリス、日本は?
Q.ワーク・ライフ・バランスの実現には、長時間労働が今も大きな課題ですね。
A.海外と比べた日本の特徴は、企業が長時間労働の是正を進めようとしても、働く個人から「もっと働きたいのに」という声が上がることです。イギリスの場合、働く人が疲弊していって長時間労働の問題が顕在化し、労働者の側から問題提起されたことで、90年代後半にフレキシブルな働き方の導入が進みました。
とはいえ、働き方改革の効果が出ている企業もあり、状況は改善していると思います。ただ、労働時間削減などは現場レベルでの改善はできても、日本の雇用システムに根差した構造的な問題もあって根本的な解決には至っていません。長期雇用を重視すると企業は簡単に従業員を解雇できず、雇用を保証することが期待されるため、長時間労働や転勤など自由度が少ない働き方につながってしまうという面があるからです。そうした雇用慣行を変えなければいけない時期が遅かれ早かれ来るでしょう。
自分のキャリアを自分でデザインする時代へ
Q.社会が変化していくなかで、働く個人には今後どのようなことが求められますか。

A.これまでは、働く個人のキャリア形成やスキルアップも企業が主体的に取り組んできましたが、今後は自分のキャリア形成を企業に任せることが難しい社会となるでしょう。なぜなら、急速な技術革新など社会の変動が大きくなり、10年かけて磨いたスキルが10年後に本当に役に立つかどうかは分からなくなっているからです。10年後にどのような人材が必要になるか予測できないため、企業が育成責任を持つことが難しくなっているのです。
そうなると、働く個人は自分のキャリアを自分でデザインしなければいけません。人生において何を大事にしたいか、自分にとって働くことの意味は何かを考える必要があります。若い人は、自ら学ぶ力や新しいことに挑戦する力を意識して伸ばしていかなければ将来のリスクになるかもしれません。
「働き方と家族のかたち」をテーマに議論します
朝日新聞DIALOGの連続セッション「平成世代が考える『平成30年』の先の未来」第4弾を、11月7日(水)に開催します。テーマは「働き方と家族のかたち」。武石教授によるキーノートスピーチで働き方をめぐるこの30年間を振り返るほか、多様な働き方を実践するサイボウズ株式会社の松川隆・人事部マネジャーも登壇。平成生まれの若者世代を交えて、「働くこと」のこれからを議論していきます。ぜひご参加ください。
朝日新聞DIALOG連続セッション 平成世代が考える「平成30年」の先の未来
第4弾 〜働き方と家族のかたち〜
【日時】2018/11/07(水) 18:30 ~ 21:00
【場所】朝日新聞 東京本社 本館2階 読者ホール (東京都 中央区築地5-3-2)
【参加費】無料
【申し込みはこちら】https://eventregist.com/e/heisei4