2018/12/06

その手があったか!
ちゃんともうかる、未来の「森」の造り方

朝日新聞DIALOG編集部

国連は、貧困や格差、環境など17分野で2030年までの達成を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げています。その中の目標15「陸の豊かさも守ろう」をめぐり、持続可能な森林資源の活用や、森林の社会的価値について考えるシンポジウム「森が活きれば未来もイキル」が10月21日、東京・有楽町朝日ホールで開催されました。その模様をお伝えします。

木材の「意味と価値のイノベーション」が決め手に

シンポジウムは2部構成。林野庁の牧元幸司長官のあいさつの後、第1部では、ウッドデザイン賞の審査委員長を務めるユニバーサルデザイン総合研究所の赤池学所長が、「その手があったか ウッドデザイン」と題した基調講演をしました。ウッドデザイン賞は、木の良さや価値を再発見させる製品・取り組みの中で、特に優れたものを消費者目線で評価し、表彰しています。

赤池さんは「デザインと言うと意匠レベルのデザインを考える人が多いが、設定した目標を達成するためのすべての創造的行為がデザイン」と説明。「生物の多様性を育んでいる森を未来に継承していくため、事業益をきちんと確保しながら、公益にも資する森林のデザインを考えていくことが大切だ」と指摘しました。

そこでいちばんポイントになるのは“意味と価値のイノベーション”だと赤池さんは言います。「ろうそくの生産量は、LEDなど新しい照明機器が出てきているのに変わっていない。高級レストランなどの空間を演出するツールとして売れているからだ。木材も、意味と価値のイノベーションを戦略的にたくらむことで、新しい商流が生まれるはず。林業従事者だけでなく、製材会社、資材会社、地域のビルダー、お客様など多様なステークホルダーとの補助線を引いていく。従来の商流には乗ってない、とんでもないモノ同士を結び付けることによって、これまでなかった木材利活用のマーケットをつくっていけるのではないか」

赤池さんはさらに、ウッドデザイン賞の上位賞を受賞したさまざまな事例を紹介し、その斬新なビジネスモデルについても解説しました。

人のつながりが、新たな森林活用法を生み出す

第2部のパネルディスカッションでは、「協業が育む森林活用の未来」をテーマに、赤池さんがコーディネーターを務め、林野庁で森林管理システムを担う林政部企画課の山口靖課長と、木の香りなどによるリラックス効果を研究している東京大学大学院の恒次祐子准教授、東京都檜原村に事務所を構え、造林や育林管理などを行う株式会社東京チェンソーズの青木亮輔代表取締役が話し合いました。

赤池 今日は、木材のチャーミングな利活用の在り方、そのためにどのような価値の連鎖を築いていけばよいかをご提案いただければと思っています。

山口 日本の価値は自然の豊かさで、その源は豊かな森林です。現在、私有の森林で、きちんと経営管理されているのは3分の1。残りの3分の2の森林をどう管理していくかが課題です。国産材の需要が増えているので、経営規模を拡大したい事業者は多いけれど、事業地の確保が困難で、なかなか拡大できません。新しい林業経営者を育成するためにも、事業者と森林所有者の間を市町村が仲介するマッチングシステムが必要です。

青木 今の林業は大きく二つに分けられます。一つは森林整備事業で、公共事業として個人の山の手入れをしています。もう一つは、本来の事業としての木材生産ですが、木材の販売価格は、市場では1立米で1万円くらい。どうやってもっとおカネを生み出すかが課題です。そこで、デザイナーなどと協業し、これまで捨てられていた根株は空間ディスプレーに、枝葉はリース作りなどに活用していただいています。

恒次 木の良さ、森の良さ、心地よい落ち着く感じを科学的データで示すのが、私の研究テーマです。木と触れあったとき人がどのような影響を受けるかを、人の体を測ることで評価しています。たとえば、木の良いにおいを嗅ぐと血圧が下がったり、心拍数が下がったりする効果があることが分かってきています。また、木を触ると心拍数が下がり、自律神経が落ち着くというデータも出てきています。学校や保育施設、病院などで木材を使っていくときに、こうしたデータでバックアップできるとよいなあと思っています。

赤池 自治体や林業経営者は今後、どう連携すべきでしょうか。

山口 地方公共団体や国の職員は、規制をしたり、予算を付けたりするのが仕事ですが、今までなかったようなつながりをつくるのも仕事ではないかと思っています。いろんな人とつながって、新しいバリューチェーンをしっかりつくっていくのが、これからとても大事になります。

青木 捨てられている素材は、使ってもらわないと価値がない。新しい使い方を、街で仕事をしている人たちから教えてもらいたい。異業種交流の機会をどんどんつくっていきたいですね。

恒次 研究だけでなく、大学のもう一つの重要な機能は人材の育成です。これから大学が、人材面でも林業の現場とつながっていければ、と思っています。

赤池 幼稚園などで地域材を使う取り組みが広がっています。都市部の自治体が林業自治体と連携して、都会の公園を木質の施設にしていくといったこともできるのではないでしょうか。今回のイベントをキックオフとして、未来に向けて森を活かす知恵を、みなさんから出していただけるような機会を、また設けられるとありがたいなと思います。

第2部終了後、イラストレーターとしても活躍する林野庁の平田美紗子さんによるアフタートークも行われました。平田さんは自身の作品を見せながら、ワークショップの活動や図書館、イラストを活用した情報発信の展望について語り、シンポジウムは終了しました。

パネルディスカッションに登壇した青木さんによると、今の東京の山は樹齢60年くらいで、2050年代には樹齢100年の森が広がるそうです。そうした未来に思いをはせながら、木や森とどのように付き合うかを家庭や学校で考えてみたら、「その手があったか」と思わずひざを打つユニークなアイデアが生まれるかもしれませんね。

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