DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

「多様性を価値にできない企業に人材は集まらない」
LGBTコンサルタント・増原裕子さんインタビュー

朝日新聞DIALOG編集部

朝日新聞DIALOGは12月21日夜に、「セクシュアリティーの軌跡」をテーマにセッションを開催します。平成の時代をふり返る連続企画の第5弾として、セクシュアルマイノリティーをめぐる30年間の社会の変化をふり返りつつ、これからを議論します。

ゲストで登壇予定の増原裕子さんは、2011年にレズビアンであることを公表し、LGBTアクティビストとして積極的に発信してきました。LGBTコンサルタントとしても活動する増原さんに、日本での企業の動きや欧米諸国との違いなどを伺いました。

上司の理解がなければ制度も使えない

Q.企業へのコンサルティングでは、どのようなことをしているのですか?

A.管理職向けの研修で講師を務めたり、性の多様性による差別をしない方針を社内規則などで明文化するためのお手伝いをしたりしています。制度を整えても、上司や職場の理解がなければその制度を使うこともできないので、ソフト面から変えていくことも重要です。

大事にしているのは、LGBT当事者の境遇だけが良くなればいいのではなく、ダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(包摂性)の重要性をきちんと伝えることです。とくにこれからの時代は、従業員一人ひとりの違いを企業の価値に変えていくことが必要で、性的指向・性自認などの性の多様性もその違いの中の一つです。そういったフレームワークを理解してもらわないと、根本的な改善につながりません。

Q.企業の取り組みは広がっていますか?

A.LGBTへの理解や支援の動きは確実に広がっています。従業員向けの取り組みは、日本IBMやゴールドマン・サックスなどの先進的な企業が2008年ごろから始めていました。サービス面では、2015年にライフネット生命が同性パートナーを生命保険の受取人として認め、他の生命保険会社も追随しました。通信会社や航空会社も、携帯電話料金やマイレージサービスで同性カップルに家族割引を適用するようになっています。

経済合理性で動き始めた企業、オリパラも追い風に

コンサルティングへの企業のニーズも高まっています。とくに2020年の東京五輪・パラリンピックに関係する企業は、大会組織委員会が定める物品やサービスの調達の規則に「性的指向・性自認による差別禁止」が盛り込まれていることから、今年から取り組み始めるところも多いです。

また、LGBTフレンドリーか否かは就職活動の際に企業を選ぶ基準になっており、転職のタイミングでカミングアウトしたいと考えている人もいます。2016年にはLGBTへの企業の取り組み状況をまとめた就活・転職活動サイト「JobRainbow」ができ、注目されています。実際にLGBTフレンドリーでない企業からは人材も顧客も離れていく現実があるため、経済合理性からも企業は積極的に動き始めています。

大きな一歩になった、渋谷区のパートナーシップ制度

Q.こうした企業の動きには、何かきっかけがあったのでしょうか?

A.2015年に東京都渋谷区と世田谷区が同性カップルを公的にパートナーと認めるパートナーシップ制度を導入したことは、大きなインパクトがありました。これを機に、企業の動きが本格化していきました。自治体が動いたことで潮目が変わり、まじめに取り組むべき社会課題なのだという認識が広がったのだと思います。私自身も渋谷区の交付第1号になって取材を受ける機会が急増し、「制度ができると、こんなにも世間の注目が集まるんだ」と驚きました。このタイミングで、思い切ってそれまで勤めていた会社を辞めて独立しました。

欧米では「ネガティブ」、日本では「インビジブル」だった当事者

Q.同性婚または同性パートナーシップが法的に認められていないのはG7(先進7カ国)で日本だけです。欧米諸国と日本の違いには、どのような背景があるのでしょうか?

A.欧米では、同性愛を宗教的に弾圧したり、犯罪として取り締まったりするなど、セクシュアルマイノリティーにネガティブな烙印を押してきた歴史があります。それに抵抗するために当事者は声を上げ、権利を主張する運動を積極的に行ってきました。こうした流れが、近年の同性婚の法制化にもつながっていると思います。

一方、日本ではセクシュアルマイノリティーは「インビジブル(見えない存在)」とされ、法的にその存在を無視されてきました。隅っこで静かにしていれば、変わり者として存在すること自体は露骨には排除されないものの、マジョリティーの人たちと同じ土俵に立とうとするとバッシングを受ける。そのため、黙っていることを強いられ、当事者が声を上げにくい社会環境がありました。欧米のように命の危険を感じる恐怖はなくても、じわじわと苦しめられ、結果、自殺に追い込まれている当事者も少なくない。文化や社会の違いによって、苦しみ方も違ったのです。

ただ、日本でも若い世代には高校や大学の授業でLGBTについて学ぶ人も多く、存在を語ることが徐々にタブーでなくなっていると感じます。その一方で、社会の変化のスピードについていけない人もいる。「(LGBTは)生産性がない」という自民党議員の発言は、近年のLGBTのムーブメントに対するバックラッシュとして大きな出来事でした。当事者が可視化され、無視できない存在になってきたことの表れとも言えますが、決して許されないことです。LGBTアクティビストとして、まだまだやるべきことがあると感じています。

【増原 裕子(ますはら・ひろこ)】
LGBTアクティビスト/コンサルタント。株式会社トロワ・クルール代表取締役。2011年からレズビアンであることをオープンにして、社会に対して積極的に発信している。2015年、東京都渋谷区のパートナーシップ証明書交付第1号(2017年末にパートナーシップ解消)。慶応義塾大学文学部卒業、慶応義塾大学大学院修士課程修了。ジュネーブ公館、会計事務所、IT会社勤務を経て起業。ダイバーシティー経営におけるLGBT施策の推進支援を手がける。経営層、管理職、人事担当者、営業職、労働組合員等を対象としたLGBT研修・講演の実績多数。著書に『ダイバーシティ経営とLGBT対応』、『同性婚のリアル』(共著)などがある。

「セクシュアリティーの軌跡」をテーマに議論します

朝日新聞DIALOG連続セッション 平成世代が考える「平成30年」の先の未来
第5弾 〜セクシュアリティーの軌跡〜
【日時】2018/12/21(金) 18:30 ~ 21:00
【場所】朝日新聞東京本社 本館2階 読者ホール (東京都中央区築地5-3-2)
【参加費】無料
【申し込みはこちら】https://eventregist.com/e/heisei5

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