2018/12/21

連続セッション「平成世代が考える『平成30年』の先の未来」
第4回「働き方と家族のかたち」

Written by 関谷尚子(POTETO) with 朝日新聞DIALOG編集部
Slide by 河西遥菜(POTETO) Photo by 松本哉人(POTETO)

「平成」の時代は来年4月に幕を閉じます。朝日新聞DIALOGでは、平成を創った大人たちをゲストに迎え、新しい時代を担う若者たちがさまざまなテーマで平成を総括する連続セッション「平成世代が考える『平成30年』の先の未来」を開催しています。
その第4回が、「働き方と家族のかたち」をテーマに11月7日に都内で開かれ、約50人が参加して議論しました。その模様をお伝えします。

セッションは3部構成。ゲストに、人的資源管理論や女性労働論が専門の法政大学キャリアデザイン学部教授・武石恵美子さんと、サイボウズ株式会社事業支援本部人事部マネジャーとして採用や研修、制度策定を担当している松川隆さんを迎え、平成生まれのゆとり世代3人とパネルディスカッションを行いました。

働く女性と非正規雇用が増えた平成時代

第1部では、武石さんが平成時代の働き方を振り返り、働くことに関する意識や家族を取り巻く状況の変化について概説しました。

武石さんはまず、平成時代の働き方を考える前提として、三つの構造的な変化に言及しました。
「平成元(1989)年は出生率が1.57まで減少し、人口構造が転換点を迎えました。それと並行してグローバル化が進み、経済、おカネ、人、技術、マーケットに国境がなくなっていきました。さらに、最近はAI(人工知能)やiPS細胞といった新しい技術が次から次へと生まれています」

働くことの関連では、働く女性と非正規雇用の増加などが平成時代の特徴だと指摘しました。
「男性の労働力は高齢化で減少傾向にあります。他方、出産による女性の離職率は2010年くらいまでは高かったものの、10年ごろからは就業継続が増えています。また、平成は非正規雇用が増えたことも大きな特徴でした。山一証券が破綻した97年が象徴的な年で、大企業の破綻を機に就職氷河期が訪れました。若年層を中心としたフリーターの増加や派遣切りといった社会問題が起こり、非正規労働の女性も増えました。平成の終盤になって働き方改革が進みましたが、賃金上昇がなかなか期待できない中、金銭面以外の仕事の価値が重視されるようにもなっています」

武石さんは結婚行動の変化についても触れ、「日本では結婚したカップルから子どもが生まれるのが一般的なので、未婚化と晩婚化が進んだ結果、少子化が加速しました。また、共働きが増え、家事・育児は女性の仕事という意識は、今の若者たちの間では揺らいでいます」と話しました。

10年かかった「均等法」と1年でできた「育休法」

「女性の就労にかかわる制度には、二つの大きな流れがある」と武石さんは指摘します。
一つは86年に施行された男女雇用機会均等法で、16年には女性活躍推進法が施行され、男女の平等な活躍の基盤が整備されました。
もう一つはワーク・ライフ・バランスの流れです。女性が男性と同じように力を発揮するには、仕事と家庭を両立できる仕組みが必要という考えのもと、92年に育児休業法が施行されました。当時、労働省にいた武石さんは「均等法は通るのに10年かかりましたが、育休法は1年で通った。あっという間だったという印象が残っています」と振り返りました。
この育休法に続いて、03年に次世代育成支援対策推進法、07年にはワーク・ライフ・バランス憲章、今年は働き方改革関連法が成立しました。
「こうした制度の導入によって、0~3歳の子を持つ女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)は10年ごろから上がり、この10年ほどで3割から5割になりました」

非正規労働率の高まりは女性の間で顕著で、30代、40代を中心に増え、女性の半分以上が非正規となっています。また、賃金は、女性は上がっているものの、男性は横ばいになっています。労働時間が長いまま賃金が増えない状況です。

企業に依存せず、自分でキャリア設計することが重要

働くことへの意識についても、武石さんは次のように指摘しました。
「新入社員が望むライフスタイルに関する意識調査では、『仕事中心』と『生活中心』が長年拮抗していましたが、最近になって『生活中心』が『仕事中心』よりもぐんと増えました。会社を選ぶ際にも『会社の将来性』はあまり重視されなくなってきています」

武石さんはこれからの働き方についてこう予測しました。
「大前提として、人口構造の変化、グローバル化、技術革新はさらに進みます。労働力は男性中心から多様化し、働く意識も多様化していく。経済サイクルは短くなり、企業は10年後、20年後も存続しているかどうか分からないので、個人が企業に依存するのは難しくなります。そのような環境で求められるのは、自分でキャリアを設計し、学び、生活し、どのようにバランスをとっていくかを主体的に考えることです。変化に対してどれだけ対応できるかという『変身資産』の有無が鍵となり、そのためのマインドの持ち方、人とのネットワークのつくり方が重要になっていくでしょう」

社員が100人いれば、100通りの人事制度があっていい

第2部では松川さんが、現在の働き方改革の問題点を指摘しつつ、サイボウズが取り組んでいる働き方の多様化について語りました。

サイボウズが働き方の多様化に取り組んだ原点は、離職率の高さにありました。「かつては離職率が28%。事業が拡大しても会社の雰囲気はよくない。チームワークなんてあったもんじゃない。そういうなかで、長く働いてもらうためにはどうすればいいかを考えてやってきました」

会社で働き方改革を進める際には「制度」「ツール」「風土」を三位一体で改革することが重要だ、と松川さんは指摘します。
「例えば、在宅勤務などのリモートワークを導入するとなると、まずは就業規則を改定して制度をつくろうという話になります。しかし、制度を整えるだけでは利用は広がりません。在宅時のネット環境といったツールの導入が不可欠ですし、特に重要なのは企業風土の改革です。若手の男性社員が在宅勤務制度を利用しようとしたときに、上司が『残念だな。女性のための制度を君が使うとは思わなかったよ』と言ったら、恐怖の制度になってしまい、誰も使いません。世代による価値観の違いはすごく大きいので、融合していくことが重要です」

離職を考えている社員の動機は千差万別だったそうです。
「給料を上げるから辞めないでと頼むと、『別の部で働きたい。給料の問題ではない』と言い返されるなど、一人ひとりが違う要求をしてきた。それを聞いて、『そうか、価値観はみんな違うんだ』と気づきました。社員が100人いたら100通りの人事制度があっていい。公平性なんていらない。公平性は時に不幸を招きます。イチゴのショートケーキがあっても、イチゴだけ食べたい人もいれば、ダイエット中で食べたくない人もいるわけですから」

その結果、個々の社員が働き方を決める仕組みになりました。
「例えば、僕は、満員電車に乗りたくないし、子どもと朝ご飯を食べたいので10時出社にしています。別の会社で人事の副業もしていますから、木曜日はサイボウズに行きません」

「育自分休暇制度」も導入されました。これは社員がスキルアップするために利用できる制度で、期間は最長6年。その間に留学するもよし、他社で働くもよし。本人が復職を望めば認められます。

ウソをつかず、質問責任を果たすことが土台

こうした多様な仕組みを機能させるうえで重要な「風土」は二つある、と松川さんは言います。
一つ目は「公明正大」。
「ウソをつかれると面倒なので、ウソはだめ。社内では、プライバシー情報とインサイダー情報以外はすべてオープンです。部下からメールで『寝坊しました』って連絡が来たら、『いいね!』って返したり(笑)。寝坊したのがいいわけじゃなくて、ウソをついてないことに『いいね!』ですが」

二つ目は「自立と議論」。
「ポイントは質問責任と説明責任。新入社員でも気になることはきちんと質問し、それに対して上司がきちんと説明することで納得感が得られる。納得した後の行動は、腹落ちしているので全然違います。今の人事制度も、人事部や社長が考えたものではなく、誰かが質問したことがきっかけで生まれています」

最後に、松川さんはサイボウズが目指している「生産性」の形を紹介しました。
「好きなことはやってもいいけど生産性は落とさないでね、という人がよくいますが、私たちは、生産性よりも個人の幸福を追求するほうが先だと思っています。社員一人ひとりが自立した個人としてどうあることが幸福なのかを明確にし、その実現を追求できるなら、会社を辞める必要はなくなる。そのためにチームで情報共有し、誰でも仕事ができる状態をつくります。そうすると自然と生産性も上がるんです」

「家族留学」で知った平成のリアルな家族のかたち

第3部では、平成生まれの3人も加わって、パネルディスカッション形式で「これからの働き方と家族のかたち」について意見を交わしました。

大手人材会社で働きながら、学生時代からかかわってきたスタートアップ企業の仕事も続ける帆士大貴さんは、先日、子育て家庭に1日体験留学にいく「家族留学」に参加しました。留学先は、妻が医者で夫が専業主夫の家庭。帆士さんは「当たり前ってなんだろうと考えさせられました」と振り返ります。

就職活動中の大学生の後藤大海さんは、妻が報道記者、夫が報道カメラマンの家庭に留学しました。
「行く前はお父さんと子どもの距離が遠いのではないかと思っていましたが、子どもがしっかりなついていた。記者のような忙しい仕事でも、こういう幸せな家庭があるということを実感できる貴重な経験でした」

2人の話を聞いた武石さんは、「今の若者にとって小さい子と一緒に過ごす機会はあまりない。しかも帆士さんが訪ねたのは夫が主夫をしている珍しい家庭で、自分の常識とは違った生活を体験できたことは良い経験になったと思います。後藤さんは、マスコミはブラックというイメージを抱いていましたが、家族留学で思い込みを是正することができた。いろいろな人とつながることで新しい自分に変身できます」と話しました。

松川さんは自らの過去に触れながら、こう言いました。
「僕は銀行を辞めました。そのときに、戦前生まれの父から『銀行を辞めるなんてとんでもない。何を考えているんだ』と言われた。価値観って、世代によって違うんだなあと思い知らされました。今の若者は、学生時代から考えるきっかけがあり、それをちゃんと生かしているところが、僕とは違う世代だなあと思います」

次に話題になったのは評価制度です。松川さんは「評価は報酬に反映されますが、おカネは報酬の一部でしかありません。僕にとっては、朝10時に出社していいのも報酬だし、副業していいのも報酬。今日のようなイベントに出られるのも報酬です。サイボウズでは、社員の給料は本人と相談して決めます。金額はその人の市場価値で決まりますが、市場価値を精緻に求めるのは無理。だから、階層の定義などはやめました」と話しました。

これを聞いた武石さんは、「評価制度には、ほどほどの納得性が必要。働く人のニーズと、組織の要求をすり合わせて、互いが妥協して着地点を決めることが肝心です」と指摘しました。

変えていく、変わっていくことを恐れないことが大切

では、次の時代の働き方はどうなるのでしょうか。
報道職志望の後藤さんは、「仕事以外にも時間を割きたいと思ったときに、そうできる制度がある会社で働きたい。仕事も大事だけど、よき父であることも追求したい」と抱負を述べました。10月に就職したばかりの帆士さんは、「僕らの世代は、新しいこと、面白いこと探しに躍起になっていますが、何が正解かは分からない。失敗を学べる機会があればいいなと思います」と話しました。

それに対して松川さんは、「僕は最近になってようやく人と自分を比較しなくなりました。失敗というのは、他人と比較しているから感じることで、実際はなるようにしかならないし、自分らしく生きた先にしか何も起こらない。だから心配しなくても大丈夫ですよ(笑)」。武石さんは「キャリアは選択の結果。今日のお昼に何を食べるかといったことも含め、いろんなところに選択の分かれ道があります。選択するときに『失敗するかもしれないけれど、それでもやってみたい』と思えるモチベーションが大切。正解はないから、一つずつ自分で決断していってほしい」と話しました。

最後にファシリテーターの新居日南恵さんは、「今の若者世代は、ダブルワークや仕事へのやりがい、仕事と家庭の両立、働く目的などを重視しています。これからの時代は、おカネだけでなく、そうした多様な報酬を基準にして働き方を選んでいく時代になると思う。これだけ変化の大きい時代に、何十年も運用できるルールをつくるのは無理でしょう。変えていく、変わっていくことを恐れないことが大切だと思います」と締めくくりました。

来場した参加者にも、セッションの感想を聞きました。

都内の大学に通う女性(21)は、「女性の社会進出が当たり前になってきている状況を聞き、結構明るい未来があるのだなと感じました」と笑顔で答えました。会社員の男性(39)は、「報酬はおカネだけではないという指摘に納得しました」と話しました。

【登壇者プロフィル】
武石恵美子(たけいし・えみこ)
法政大学キャリアデザイン学部教授。旧労働省、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授等を経て、現職。専門は人的資源管理論、女性労働論。厚生労働省「労働政策審議会 障害者雇用分科会」「労働政策審議会 雇用環境・均等分科会」等の公職を務める。主著に『キャリア開発論』『国際比較の視点から 日本のワーク・ライフ・バランスを考える』(編著)、『雇用システムと女性のキャリア』など。

松川隆(まつかわ・たかし)
サイボウズ株式会社事業支援本部人事部マネジャー。慶應義塾大学法学部卒業後、1996年日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。為替ディーラー、金融法人営業を経験し、広告会社に勤務した後、テニススクール事業を立ち上げ独立したが思うようにいかずに断念。2012年サイボウズに入社し、パートナー営業部を経て、現在人事部で採用や研修、制度策定などに携わる。

後藤大海(ごとう・ひろみ)
1997年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科3年。株式会社POTETO Media所属。ニュースをわかりやすいイラストにまとめて配信するサービス「イチメンニュース」編集長。中学生のときに見たニュース解説番組がきっかけでニュースの面白さに目覚め、報道職を目指し勉強中。

帆士大貴(ほし・ひろたか)
1995年生まれ。東京大学経済学部卒。イギリス留学中に、個々人が輝ける社会の素晴らしさを感じ、今秋、株式会社リクルートホールディングスに入社。株式会社POTETO Media事業戦略室室長も兼務。一般社団法人パブリテックのアドバイザーも務める。

新居日南恵(におり・ひなえ)
1994年生まれ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士2年。学生が子育て家庭の日常生活に1日同行し、生き方のロールモデルに出会う体験プログラム「家族留学」を行う株式会社manma代表取締役社長。文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」構成員、日本国政府主催国際女性会議WAW!アドバイザーなどを務める。

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