DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

「アライ」の表明が、身近な誰かの助けになる
ギャップジャパンが始めたLGBT支援者研修

Written by 佐藤里帆 with 朝日新聞DIALOG編集部

「LGBT ALLY」という言葉を聞いたことがありますか?
ALLY(アライ)は英語で「同盟」の意味。LGBTアライとは、LGBTなどのセクシュアルマイノリティーを支援する人のことを指します。支援者といっても、何か具体的な活動をする人だけでなく、セクシュアルマイノリティーのことを理解し、身の回りにいる当事者が自分らしくいられるように行動する意思を持つ人も含みます。

このようなLGBTアライになるための研修を、社員向けに初めて実施した企業があります。「Gap」や「Banana Republic」のブランドで知られる衣料品大手のギャップジャパンです。同社は、セクシュアルマイノリティーと支援者が集まるイベント「東京レインボープライド」に協賛するなど、LGBTフレンドリーな企業として知られています。なぜこのような取り組みに積極的なのでしょうか。トレーニングの様子とともに紹介します。

「目に見えにくいマイノリティー」と言われるLGBT

「LGBTの人って、日本にどのくらいいると思いますか? 電通の2015年の調査によると、人口の約7.6%。名字が『佐藤』『鈴木』『田中』『高橋』の人の合計が約5%なので、それよりも多いんです」

2018年12月初旬。講師の説明に、「LGBTアライトレーニング」に参加した約200人のギャップジャパン社員からは「えー!」という驚きの声がもれました。講師を務めた認定特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さんは、「LGBTは『目に見えにくいマイノリティー』と言われています。あなたの周りにも、カミングアウトしていないだけで、実は当事者がいるかもしれません」と続けました。

LGBTアライトレーニングで講師を務めた松中権さん

松中さんは、中学生のときに自身がゲイだと自覚したものの、ゲイであることを隠して学生生活を過ごしました。しかし、大学生のときに行ったオーストラリア・メルボルンへの留学が転機になったと言います。

「現地には多様性を重視する風土があり、初めてカミングアウトできた。そのときが、僕の本当の人生の始まりでした。聞かれたら自分がゲイだと言える、それだけでも見える世界が違った。自分らしく過ごせる、自分のことを語れる心地よさを初めて知りました」

ある男性の死で、会社を辞めようと決めた

その後、松中さんは大手広告会社に就職し、働きながら現在のNPO法人を立ち上げました。しばらく二足のわらじを履いて活動を続けていましたが、ある出来事を機に会社を辞め、NPO法人の仕事に専念する道を選びます。

一橋大学法科大学院生だった男性が、友人に、ゲイであることをLINEグループで同意なしに明かされて自殺していたことが、2016年に大きく報じられました。亡くなった男性は友人に明かされた直後、LINEグループに冗談めかしたメッセージを返していたそうです。松中さんは、「ほとんどの当事者は、こんなふうに、あなたの横で(本心を隠して)笑っているんです。でも、ちょっとしたボタンの掛け違いで、死んでしまう。本人の同意を得ずに、その人のセクシュアリティーを第三者に暴露するアウティングは、絶対にしてはいけない行為です」と話しました。

セクシュアリティーはグラデーション

では、LGBTアライになるために、私たちはどのようなことを理解すべきなのでしょうか。そもそもLGBTとは、レズビアン(女性同性愛者、Lesbian)、ゲイ(男性同性愛者、Gay)、バイセクシュアル(両性愛者、Bisexual)、トランスジェンダー(体と心の性が異なる人、Transgender)の頭文字ですが、セクシュアルマイノリティーにはこれらに含まれない人もいます。

研修にはギャップジャパンの社員約200人が参加した

性は、①体の性(Biological Sex)、②心の性(性自認、Gender Identity)、③好きになる性(性的指向、Sexual Orientation)の三つの掛け合わせで成り立ちます。「掛け合わせはさまざまで、一人ひとりが少しずつ違っているので、セクシュアリティーはグラデーションのように捉える必要がある」と松中さんは説明しました。

LGBTの子供の自殺率は、そうでない子に比べて高いと指摘されています。同性愛が犯罪になる国もまだあります。セクシュアルマイノリティーの人たちが自分らしく生きられる社会にするために、今日からできることとして、松中さんは「ウェルカミングアウト」を提唱しました。

「当事者が目に見えないように、アライも目に見えない。だからステッカーを貼ったり、言葉にしたりして、LGBTアライであることを表明してほしい。日常生活の中でできることもあります。LGBTの人を傷つけるような言動に出くわしたら制止したり、社内の窓口に通報したり、さりげなく話題を変えて話を終わらせるだけでもいい。あなたがカミングアウトされたら、それは信頼の証しです」

トレーニングに参加した社員からは、店で接客するうえで意識すべき点について質問がありました。それに対して松中さんは、「『男性らしいですね』『女性らしいですね』と言われるよりも、『あなたらしいですね』『その服、似合っていますね』と、一人の人間として接してくれるとうれしい。目の前のお客さんは、目に見えているのとは違うアイデンティティーを持っているかもしれないので、決まった正解を求めるのではなく、想像力を働かせてほしい」と答えました。

「知識は相互理解の力になる」ギャップ社長が研修に込めた思い

この日、LGBTアライトレーニングを初めて行ったギャップジャパンは、今後、数カ月かけて約6400人の全社員に同様の研修を行う予定です。その狙いを、スティーブン・セア社長は「知識は力であり、相互理解のために最も有効に働きます。我々は創業以来、多様性を重視してきた。個性を尊重することでクリエイティビティーが生まれます」と話しました。

ギャップジャパンのスティーブン・セア社長は自身がゲイであることをオープンにしている

グローバルのGap Inc.は、「ゼロ・ミーンズ・ゼロ(Zero Means Zero)」をビジネスコードに掲げ、差別、ハラスメント、報復を一切容認しないことを規定しています。日本では、2014年から東京レインボーウィークや東京レインボープライドに毎年協賛しており、開催期間中は全国の店舗で店頭や紙袋をレインボーカラーにしてLGBTコミュニティーへの支持を表明しています。また、社内では2018年春から、社員の同性パートナーにも福利厚生を適用できるように制度を整えました。セア社長はトレーニングの冒頭で、「私たちは国内で約200店舗を運営している。その影響力を使って社会をインスパイアーし、変化を起こすことができる」と社員に呼びかけました。

たった1人でもアライがいれば支えになる

トレーニング後のメディアブリーフィングでは、Gapストア イオンモール旭川西店(北海道旭川市)のストアマネジャー、倉田靖子さんが職場でカミングアウトしたことについて話をしました。

自身の経験を語るGapストアの倉田靖子ストアマネジャー

体は女性で、性自認は男性でも女性でもないFtXというジェンダーアイデンティティーを持つ倉田さんは、入社後、悩んだ末に上司にカミングアウトしたときのことを振り返り、「とても勇気がいったけど、何かあったときにサポートしてくれる人が1人でもいることが、どれだけ自分の支えになったか。自分に自信が持てるようになったし、パフォーマンスも上がりました。その上司は今でも大切なアライです」と話しました。

倉田さんは最近、職場でも自身のジェンダーアイデンティティーをオープンにしました。「カミングアウトすることが必ずしも正解だとは思わないけれど、私がこうやって声をあげることで、社内で自分らしく働けないと感じている人が『相談したいな』と思ってくれたらいい。そういう人たちのサポートを少しでもできれば、私は当事者だけど、アライにもなれると思っています」と、生き生きとした表情で語りました。

筆者は大学4年生です。LGBT当事者ではありませんが、「カミングアウトして、自分らしく過ごせる心地よさに気づいた」という松中さんの言葉に共感しました。というのも、大学3、4年次に留学したブラジルでは、道を歩けばゲイカップルをあちこちで見かけ、道端で女の子同士がキスしていても誰一人振り返ったりしませんでした。むしろ、馬鹿にする人がいたら、教養がない人だなあと冷めた目で見られるような雰囲気がありました。そのような光景を見て、日本もブラジルのようにそれぞれの個性を認めて、どんな人でも自分らしく暮らせる社会になればいいなあと強く思ったのを覚えています。セクシュアルマイノリティーかどうかにかかわらず、相手に対して想像力を働かせ、心配りをしながら接すること。一人ひとりのほんの少しの思いやりが、誰かの心を救い、誰もが生きやすい世界につながるのではないでしょうか。

pagetop