DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

ソーシャルイノベーターに聞く
「ドラえもんを作って、一人ひとりを幸せにしたい」 大澤正彦さん(26)

Written by ジュレット・カミラン with 朝日新聞DIALOG編集部

「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGには、若きソーシャルイノベーターが多数かかわっています。研究者や学生らが参加する日本最大級の人工知能コミュニティー「全脳アーキテクチャ若手の会」の設立者で、目標は「ドラえもんを作ること」というAI研究者の大澤正彦さん(26)に話を聞きました。

Q: 「全脳アーキテクチャ若手の会」は、どのような活動をしているのですか?

A: この会は2014年に、人間の脳を参考にして人工知能を作ることを目指す「全脳アーキテクチャ勉強会」をコミュニティー化したくて立ち上げました。ちょうど時期的にはAIブームが起こりそうなころだったので、勉強会を開くだけではもったいないと思ったんです。今では関東・関西・東北・九州に支部があり、フェイスブックで2400人ぐらいとつながっています。そのうちの1800〜1900人が、イベントなどに参加しています。

最初はもちろん、「脳を参考にして人工知能を作りましょう」ということに賛同する人の集まりでした。しかし、今は「脳を学びましょう」「知能を学びましょう」というふうに変わってきています。結局、人工知能の研究は人の知能に迫ることにつながるので、関係のない人はいないよね、というところで、誰でも参加できるコミュニティーになり、高校生からシニアまで一緒に議論し、チームとして動いています。最近開いた会合で、「ウニみたいな団体になりたいよね」という話が出ました。みんなが別々の方向にとがっていて、無理に統制するようなことはしないけれど、ある軸の方向へ進みたいと思ったときに、みんなで押しあげるような関係が成り立てばいい。全員がリーダーで、全員がフォロワーという組織であればいいなと思っています。

Q: 大澤さんはドラえもんを作ることが目標と公言していますが、なぜ作ろうと思ったのですか?

A: 僕は記憶がおぼろな本当に幼いころから、ドラえもんを作りたかったので、その質問にだけは、いつも答えられないんですよ(笑い)。ただ、ドラえもんの一番魅力的なところは、のび太と、とことん向き合って、のび太という一人の人間を幸せにしたロボットだというところだと思います。人ととことん向き合うのは、相当難しいことです。それを人工物がやって、人がすごく幸せになり、世の中に貢献する。そんなドラえもんができたらいいなあと思っています。

誤解を恐れずにいえば、「世界を良くしたい」と思ったことがないのが、自分のコンプレックスでした。世の中のリーダーは「世界を変えたい」と言い、変えることによって世の中を平均的に幸せにします。しかし、その余波で不幸になる人が出ても、「それくらいしょうがないよね。世の中全体の幸福の量は増したんだから」ということになりがちです。僕は、世界を変えることよりも、目の前にいる大事な仲間たちを幸せにすることにコミットしたい。平均すると良くなったけれど、悪くなった部分もある、というのは、自分のスタイルとは違います。

とはいえ、僕がじかに向き合える人の数は限定的です。だとすると、唯一の道はドラえもんを作ることだと思いました。僕がドラえもんを作って、ドラえもんが僕の手の届かないところでいろんな人と向き合い、その人が前に進めるようになったら、すごく幸せなことだと思います。これまで人を幸せにする方法とされてきたものを、根底からひっくり返したい。本当の意味で一人ひとりと向き合い、一人ひとりの幸せの総和として、幸せな人たちが作る幸せな社会を生み出せるような、世の中を良くする方法ができたら、幸せだと思います。

「ドラえもんは役に立つ雑用係でしょ」って言う人がいても構いません。一人ひとりが抱くドラえもん像を裏切らない形で、「僕はこう思うけど、あなたのそういう要素も大事にできるドラえもんであってほしいよね」というのが大原則です。

Q: 大澤さんをドラえもん作りに駆り立てる原動力は何ですか?

A: 僕の場合は「ドラえもんを作りたい」と口に出せなかった時期が長くありました。口に出せるようになったのは、全脳アーキテクチャの会などで周りに認めてもらえるようになってからです。小さいときに「ドラえもんを作りたい」と言って、大人に鼻で笑われたのがトラウマになりました。人の感情にすごく敏感だったので、「ドラえもんを作りたい」という思いは変わらないのに、「ドラえもん」って口に出せなくなり、ドラえもんを見るのもつらかった時期がありました。大学生になってやっと言えるようになり、応援してもらえるようになったというのが自分の実体験としてあります。

先日、知能研究者11人が集まって、全然違う知能の話をお互いの立場から議論しました。心理学、言語学、画像認識、脳のモデルなどについてです。人工知能をきっかけにして、知能そのものについて考えることが増えました。僕はドラえもんを作りたいので、とことん人と向き合った集大成がドラえもんであってほしい。

多くの研究者が、知能というものにそれぞれの立場から光を当て、その影を見て、何かを進めようとしています。一つのところから光を当てても本質は見えません。いろんなところから光を当ててみて、突き詰めた結果、本質的なものが見えてくる。そういうことを自分はやりたい。人の知能と真摯に向き合いたいですね。

Q: ドラえもんはいつごろできそうですか?

A: 自分で勝手に実現できそうなドラえもんの定義をして、それを勝手に作るだけなら、そう長くはかからないと思います。しかし、それは自己満足だなとも思っています。「ドラえもんプロジェクトが始まりました。1年後にドラえもんが完成します」といきなり言われても、誰も納得しないでしょう。

僕は、みんなが大好きなドラえもんだからこそ、「みんながドラえもんと認めてくれること」を定義とし、開発するための理論や、ロードマップを多くの人と協力して作っています。ドラえもんっていうものについて、みんなで考え、ブラッシュアップしながらやっていきたい。本当の意味の「みんなで作るドラえもん」にするため、そうした方法を取っています。そのため、早く作り終えることは、今はそれほど重視していません。

期待を持ってくださる方には、とことん真摯に向き合いたい。僕に大きな夢を与えてくれたドラえもんは、多くの人に夢を与える存在であり続けてほしいのです。たとえ生きている間にドラえもんを見られなかった人がいても、せめてドラえもんを実現させる途中で生まれた技術や活動にワクワクしてほしい。9割の人がドラえもんと認めてくれるロボットができても、残る1割の人のドラえもんへの夢と最後まで向き合いたい。

Q: 2030年には、ドラえもんプロジェクトはどうなっていますか?

A: ドラえもんになっていく途中のロボットが、人と向き合い、一人ひとりを幸せにすることを通じて世の中を良くするっていう方法を、みんなに認めてもらえる段階にまでなっているといいなと思います。

大澤正彦(おおさわ・まさひこ)
1993年生まれ。慶応義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程在学中。東京工業大学附属科学技術高校情報システム分野、慶応義塾大学理工学部情報工学科を首席で卒業。2014年に「全脳アーキテクチャ若手の会」を設立。IEEE CIS Japan Chapter Young Researcher Award (最年少記録)をはじめ受賞歴多数。孫正義育英財団会員。「認知科学若手の会」を設立し、代表に就任。人工知能学会学生編集委員。日本学術振興会特別研究員。夢はドラえもんを作ること。

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