2019/06/06

児童館に求められる役割とは 墨田児童会館 八重田館長インタビュー

Written & pictures taken by 朝日新聞DIALOG編集部

虐待や子どもの貧困が社会課題となるなか、子どもを守るセーフティーネットの一翼である児童館の役割に、注目が集まっています。厚生労働省は昨秋、運営指針の児童館ガイドラインを改正。いじめや、保護者の不適切な養育が疑われる場合の対処法や、中高生と乳幼児のふれあい体験の実施、食物アレルギーへの対応などを明記し、マニュアル化しました。しかし、こうした多様な業務を実現していくための課題は山積しています。年間の利用者が9万人超と、多くの子どもや親子から支持されている東京都内の児童館の館長に、話を聞きました。

東京都墨田区。東武伊勢崎線の線路沿いに立つ3階建ての「フレンドリープラザ墨田児童会館」は、1971年の開館以来、地域の子どもたちの遊び場となってきました。2018年度ののべ利用者数は、0歳から18歳までの子どもとその親、計約9万3千人。これは同区の0歳から18歳までの人口の約2.6倍に相当します。

平日は朝9時から夜8時まで、子どもたちの声が響いています。午前中は乳幼児の親子連れ。午後からは学童クラブを利用する小学生や、自由来館の地域の子どもたち。夕方以降は中高生が中心です。中庭や体育室、卓球や一輪車ができるスペースなど、思いきり体を動かせるエリアのほか、乳児室に幼児室、図書室に音楽室、図工室、談話スペースがあり、幅広い年齢の様々な興味を持つ子どもが、好きなことをしながら過ごすことができます。

八重田館長

学童クラブは館内にある2カ所のほか、近隣の三つの小学校内やマンションの一室などに6カ所。全体で計8カ所、計350人の子どもたちと、自由来館の0~18歳の子どもたちを、常勤・非常勤合わせて70人の職員でみています。

館長の八重田裕一朗さん(42)は就任6年目。児童館の指定管理者である社会福祉法人「雲柱社」(東京都世田谷区)の職員で、都内各地の児童館で20年近く、子どもたちを見つめてきたベテランです。

――活気のある児童館ですね。

着任してからこれまでに、年間の利用者数が1万8千人増えました。自由来館も含めた利用者のニーズをくみ取り、タイムリーに対応してきたことが大きな要因だと思っています。学童クラブは年々、利用希望者が増えていて、低学年でも入れずに待機になる場合があります。そうなると、下校後にいったん、帰宅しないといけないわけですが、「低学年のうちは、鍵を持たせるのは心配」という保護者は少なくありません。そこで、学童クラブのように、職員がつきっきりで見るわけではないけれど、学校から児童館に直接来てもらい、保護者が迎えに来るまで館内で過ごしてもらう取り組みを「ランドセル預かり」と呼んで、2年ほど前から始めました。今年度は低学年を中心に、10人ほどが利用しています。

――その時々の課題に、スピード感を持って対応されているのですね。ほかにはどんな課題があり、どのように対応されているのですか。

「ランドセル預かり」の子どもたち専用のロッカー

墨田区は、ひとり親世帯や働くお母さんが多く、放課後や夜に子どもが安全に過ごせる場所へのニーズが高い地域です。また、2017年に区が発表した調査結果では、子どもの4人に1人が生活困難層に属すると指摘されていて、文化やスポーツ、野外体験も、家庭の状況によって差が大きい現状があります。また年々、外国籍の方も増え、日本の育児文化に戸惑う外国出身のお母さんや、日本語が分からず、授業についていくのが大変という子どもたちの声も聞かれるようになりました。近隣の児童館では、小型の音声翻訳機が日々の業務に欠かせなくなっているところもあります。こうした状況に加えて、発達に偏りがあり、周りの子との関わりに課題を抱えている子どもも増えているように思います。

児童館で最も大事にしているのは、職員が「この子、困っているのかも」と気づくコミュニケーションの時間の確保です。そのため、館長として心がけているのは、固定の業務量を一定レベルにとどめること。例えば、職員が主導する放課後遊びのプログラムを減らして、職員がもっとフリーハンドでいられるようにしたら、子どもたちと向き合う時間が増えました。

また、児童館がセーフティーネットとして機能するためには、子どもたちに「ここでは、自分の意見を聴いてもらえる」と思ってもらうことが必要です。当館の入り口付近にある中高生の談話スペースは、「大人の目を気にせず、こもって、くつろげる場所がほしい」という本人たちの声を職員が受け止めて、一緒に作りました。

意見箱も、子どもたちの声を運営にいかすという趣旨で設置しています。職員はすべての投書を読み、コメントを書いています。「こんな遊び道具を買って欲しい」という要望もあれば、「こんなことに悩んでいる」というSOSのメッセージもあります。学校とも家庭とも違う場所だからこそ、出てくる本音がある。そこをきちんとキャッチしていきたいと思っています。

毎日のスケジュールが記されているホワイトボード。
自由遊びの時間も多い

文化やスポーツ、野外体験についても、外部の講師に依頼して、将棋教室やダンス、自然散策のデイキャンプなどを実施しています。児童館が子どもの興味を引き出したり、苦手意識を払拭したり、何かを始めるきっかけづくりの場になれば、という思いからです。参加費がかからないものも多いため、人気が高く、抽選になることが多いですね。

――改正ガイドラインでは、児童館運営の具体的なポイントが明文化され、相当なボリュームになりました。児童館が担う業務の多様さや量について、どう受け止めていますか?

配慮が必要な子どもや家庭への対応には、以前から取り組んできました。今回、改めて役割として明記されたことで、方向性は間違っていなかったのだと再確認できました。ただ、これを実行するには、学校や行政との連携を一層強める必要があると感じています。我々のマンパワーでできることは限られているので。

パーテーションで区切られた、中高生の「こもり場」

学校がある時期は、先生方も子どもの異変に気づきやすいんです。本人が急に休んだりするので。でも、夏休みなど、登校しない時期は気づきにくい。だからこそ、学校や児童館も含めた地域との日頃からの情報共有が大事なんです。今日も近隣の小学校のPTAの会合に、児童館代表として出席してきたところです。

――実際に、ここから他の支援機関につないだ事例はどのくらいあるんでしょうか。

具体的な件数は言えませんが、子育て支援総合センターや児童相談所とはよく連絡を取っています。子どもが着替えた際に、職員が体のあざに気づいて連絡したこともありました。

また、保護者が病気で入院治療が必要になり「入院中、子どもを預かってもらえる先がない」と駆け込んでこられたケースもあります。

最近は、外国出身の保護者に関するケースも増えています。育児観の違いと言ってしまえばそれまでなのですが、こちらから見ると「しつけ」の一線を越えているように見えるふるまいに対して、どう接するのがいいのか、本当に悩ましいです。

――子どもたちを見守りながら、シリアスなケースに気づくには、 多くの職員の目が必要ですね。

児童館の入り口に設けられている意見箱

そこは本当に課題です。かつては教員志望の学生が、学童クラブ の支援員としてアルバイトに来てくれることが多かったのですが、最近は学業が忙しいのか、募集してもなかなか集まりません。子育て経験のある方やリタイアされた方、地域内にある企業の方など様々な方に、できる範囲で関わっていただきたいと思っているのですが……。本当に困っているので、ここは太字で書いておいてくださいね。関わっていただく方を増やすためには、児童館が地域に対して自分たちの状況をオープンにしていくことが必要だと思っています。まずは存在や活動内容を知ってもらう。いろんな方に「やっぱり児童館って、なくてはならない場所だよね」と思ってもらえるように、情報発信していきたい。

――改正ガイドラインでは、中高生と乳幼児のふれあい体験やアレルギーへの取り組みなども細かく規定されています。こちらではどのように取り組んでいらっしゃいますか。

赤ちゃんとのふれあいは、近隣の三つの中学校と連携して、10年以上前から実施しています。児童館が主催する乳幼児と保護者の集まりに、中学生3~5人がスタッフとして入る形です。赤ちゃんと接したことがなく、苦手意識を持つ生徒もいますが、しばらく一緒に過ごしているうちに和んできます。しゃべれなくても、体全身で訴えかける赤ちゃんの力はすごいですね。乳幼児の保護者からも、「こんな体験を児童館でできるんですね」と好意的なコメントをいただいています。

アレルギー対応は子どもの命に直結する問題なので、一番気をつかうところです。特に毎日おやつを提供する学童クラブでは、区の衛生チェックリストや食品の提供マニュアルにそって、アレルゲンのダブルチェック、賞味期限のダブルチェックなどを徹底しています。
アレルギー対応の難しいところは、食べ物以外にも、ゴム(ラテックス)や動物、運動により誘発されるケースなど、多種多様な要因が引き金になることです。職員はチェックリストを常に携帯し、館内での緊急時に備えていますが、中には児童館に来る途中で野良猫に触ったとか、暑い日に歩いてきた、ということで発症してしまう子もいるんです。そうした時は保護者、学校の先生、保健室の先生、病院関係者などと連絡を取り合って迅速に対応しています。実際、今週もありました。

――長年、児童館で仕事をしてきた八重田さんから、子どもたちへのメッセージはありますか?

僕は子どもって、本質的には昔も今もそんなに変わってないと思うんです。求めているのは愛情。「構って欲しい」「話を聞いて欲しい」「ただ隣にいて欲しい」っていうことなんじゃないかなと。ただ、今はネット社会になって、その中での人間関係に苦しんでいる子も少なくない。そこに大人がどれだけ気づけるかが大事なんでしょうね。

僕自身も小学校、中学校時代は児童館でいろんな大人に育ててもらって、大変お世話になったんです。その大人たちの背中を追いかけて、この道に入った。だから今の子どもたちにも、「大丈夫、とにかく児童館に遊びにおいでよ」って言いたいですね。

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