DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

ソーシャルイノベーターに聞く
「コオロギで世界の食糧危機を解決したい」葦苅晟矢さん(25)

Written by 乙部修平 with 朝日新聞DIALOG編集部

「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGは、若きソーシャルイノベーターの活動を継続的に紹介しています。今回インタビューしたのは 葦苅あしかり晟矢せいや さん(25)。世界的な課題となっている食糧危機の解決を目指して活動する葦苅さんが注目したのは、食用コオロギでした。

Q: 現在、取り組んでいることについて教えてください。

A: ひとことで言うと、カンボジアを拠点に食用コオロギの生産と販売を行っています。

Q: コオロギを食べるんですか?

A: はい、昆虫食の文化がある国は意外と多いんです。カンボジアにも昆虫食の習慣があり、コオロギの養殖によって生計を立てている人もいます。日本人があまり参入していない発展途上の国で挑戦してみたいという思いもあって、カンボジアに拠点を構えました。

Q: 子どものころから昆虫好きだったんですか?

A: 大分県の田舎町で生まれ、田んぼが広がる自然豊かな環境で育ちました。そのため虫に触れる機会は多かったのですが、昆虫少年というわけではありませんでしたね。(笑い)

Q: コオロギに注目したきっかけは?

A: 早稲田大学商学部に入学し、たまたま 「模擬国連」というサークルに所属したことから、貧困、食糧危機といった社会問題に関心を持つようになりました。そのころ、国連食糧農業機関(FAO)が食糧危機の解決策として昆虫食に注目する報告書を出し、 そこで食用コオロギの存在を知りました。大学院の先進理工学研究科に進んだころから、食用コオロギのビジネスに取りかかりました。もともと起業に興味があったので、コオロギはその手段としてもしっくりきた感じです。

コーンケーン(タイ)のコオロギ像と

Q: カンボジアの農村に1人で入っていったのですか?

A:拠点を探しているときに、デンマークに本部を置く国際NGOがカンボジアで食用コオロギのプロジェクトを始めるという情報を入手しました。その人脈とつてを頼って、農村部に入り込むことができました。NGO側も現地のパートナーと提携してプロジェクトを社会的に実装していこうとしていたので、相性がよかったんです。昨年12月に拠点をカンボジアに移しました。

Q: 現地では、事業をどのように進めているのですか?

A: 首都プノンペン近郊にある街のコオロギ養殖家と仕事をしています。養殖家は約50軒いて、そのうちの10軒ほどと密に連携しています。コオロギは1匹1gぐらいで、小規模な養殖家で月に60kg、大規模なところは1500kgも生産しています。カンボジアに拠点を置いて日が浅いので、まずはコオロギ生産業の土台を現地につくることが課題です。また、コオロギを養殖魚のエサにする研究や、ハリネズミや爬虫類などのペット用飼料として日本向けに販売する事業も行っています。

Q: 当面の目標は何ですか?

A: カンボジアで小規模なコオロギ養殖家を増やすことです。初めは農村を支援するつもりで取り組んだのですが、コオロギ養殖家は思いの外、裕福だったんです。一部のコオロギ農家は、カンボジアの大卒の新入社員より稼いでいます。これは逆に面白いと思いました。コオロギを通して所得を増やし、自己実現を果たすことができる。まだコオロギ生産が行われていない地域にノウハウを持って行き、その手助けをしたいです。 また、これまで食料は大量生産・大量消費のモデルが一般的でした。そこには無駄がたくさんあります。もっと分散的に、小規模で食料を生産するモデルは面白いんじゃないか。そして、そこにコオロギがマッチすると考えています。

カンボジアのコオロギ養殖ファームで

Q: コオロギが食料として優れている点を教えてください。

A: 栄養価が高く、成長サイクルが1カ月から1カ月半と早いことが挙げられます。カンボジアのような暖かいところでも、コメだと二毛作までしかできず、収入が安定しません。コオロギには天候リスクもないので“十毛作”が可能で、キャッシュフローが安定します。基本的に雑食で、飼育が簡単なことも重要なポイントです。これまでは鶏の餌でコオロギを育てていたのですが、鶏の餌は鶏の飼育に使えばいいので、コオロギの餌には農作物 残渣ざんさ を活用できないかと考えています。そうすれば、環境保護にも役立ちます。また、自然界にいるコオロギよりも栄養価が高くて、おいしくて、病気になりにくく、育てやすくなることを目指して品種改良も重ねています。

Q: 食用コオロギに今後、期待できることは何ですか?

A: コオロギは健康食としてのポテンシャルを秘めています。カンボジアでは、多くの人が糖尿病などの深刻な健康問題を抱えているのに、コオロギは油で揚げて食べるのが一般的です。日本人の感覚を生かしてヘルシーな食べ方を提案すれば、コオロギを健康食として認知させることができると思います。そうすれば、カンボジアの生産者だけでなく、消費者にも貢献できます。カンボジアで成功したら、そのモデルを世界に発信していくことができると考えています。

Q: 2030年の世界はどうなっていると思いますか?

A: 世界の人口は現在、約77億人と推計されていますが、今後ますます増加し、2030年ごろには食糧危機が差し迫った社会課題になっていると思います。それが引き金の争いも起きかねません。この問題を解決するには代替食が必要になるので、まずはその分野に率先して取り組みたいと考えています。

葦苅晟矢(あしかり・せいや)
株式会社ECOLOGGIE 創業者兼CEO。1993年、大分県生まれ。早稲田大学大学院先進理工学研究科で昆虫食の研究をしながら、2017年に起業。カンボジアを拠点に、食用コオロギを活用した食品やペット用飼料の開発・販売などを手がけている。

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