DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2019/09/17

万博をリードする現代版「適塾」を大阪から最先端技術・ビジネスを学ぶ若手限定サロンが始動

朝日新聞DIALOG編集部

大阪・関西万博が催される2025年に向けて、日本をリードする若者の集団を作ろう——。大阪で、世界的に活躍する研究者や起業家を招き、最先端の技術やビジネスについて学ぶ10代、20代限定のサロンが立ち上がりました。第1回のテーマは、2030年に人工知能(AI)はどんなビッグデータを生み、どう進化しているのか。若者たちが変革の第一歩として学んだのは、社会への「違和感」です。

未来を作る原動力は現状への違和感

佐久間洋司さん

「福沢諭吉も学んだ大阪の『適塾』の現代版を作りたい」。JR大阪駅近くにある「大阪イノベーションハブ」で7月1日、サロンを企画した佐久間洋司さんが呼びかけました。佐久間さんは、国内最大級のAIコミュニティー「人工知能研究会」代表で、アンドロイド開発で知られる石黒浩・大阪大学大学院教授から指導を受けた一人。AIに人間らしい動きを学習させ、人間が持つ共感力を促す研究を続けています。

サロンには今回の企画に協力する伊藤忠商事やパナソニックの若手社員、関西経済同友会の関係者ら16人が参加しました。サロンは来春までに10回程度開催予定で、最終的に大阪・関西万博への提言などを目指します。

本村陽一さん

今回の講師は、国立研究開発法人産業技術総合研究所の本村陽一・人工知能研究センター首席研究員。人間と相互理解できる次世代AIの研究開発などに携わっています。本村さんは冒頭、こう語りかけます。「未来を作る原動力は現状に対する『違和感』。違和感を持っている人は挑戦者でいられる。僕も常にそういう存在でありたい」

本村さんはAIとビジネスを取り巻く現状について話しました。「私たちが本当に知りたいのは、(AIで分析する対象が)良いお客さんかどうか。単に『30代女性』と言われるより、子どもはいるのか、仕事は何かのほうが、はるかに説明力が高い。なのに、多くのAIベンチャーが、年齢と性別の推定精度を競い合っている」と指摘します。「従来の研究に違和感を持たないといけないし、現場や社会に踏み込まなければビッグデータやシミュレーションは作れない。社会の現象をつかむ立場に立とう」と話しました。

違和感については、自動車産業を例に説明しました。「もの作り企業が、製品を作って終わり、というフレームにとらわれている。本来の目的が、馬力の高いエンジンを作ることではなく、簡単に移動できることなら、車を買って所有することには違和感があるはず」と言います。「『車を買うのが普通』『ローンを組んで家を買うのは当たり前』という昭和のフレームに違和感があるなら、ぜひ、それを払拭して、本来あるべきフレームを提案してほしい」

続いて、佐久間さんと本村さんが対談しました。佐久間さんは「AIで人間の仕事がなくなることはないと思うが、どういう社会変化が起きるのか」と問いかけました。本村さんは「10年スパンで考えればいい。インターネットの普及が第1段階、スマホが第2段階の変化なのに対して、(AIが活躍する)第3段階では既存産業が今のままでいることはあり得ない」と、近い将来、社会構造に大きな変化が訪れると予想しました。

長く続けて活動できるコミュニティーに

最後に2人の講演と対談を踏まえて、参加した若者たちが議論をしました。

「自動運転の車で事故にあったら、誰を恨めばいいのか」。ある企業の20代の男性社員は、そんな疑問を口にしました。「作る側は責任を取れるのか。保険会社を含めて社会構造全体が変わらないといけないのに、(社会が)それを想像できず、技術の話だけが進んでいる」と自動運転社会への違和感を語りました。

「『企業の責任だ』『乗った人のせいだ』と法律で決まった後に生まれた世代が大人になるころには、当たり前になるのでは」と佐久間さんが応じると、本村さんは「産業のあり方が変わると、法律もアップデートしないといけない」と述べました。

10年後、ビッグデータがどう進化するのかについても議論が交わされました。

本村さんは「ビッグデータが生まれる条件は、ニーズがあるか、社会が必要と認めたものであること。いま危ういと思うのは健康」と危機感を示します。「保険や病気を治す過程のデータはあるが、ヘルスケアはお金を払っていない人が多いからデータが少ない。予防医療などの健康系ビッグデータは、みんなが大事だと言っているわりには持続しないかもしれない」と言います。これに対し、別の企業の男性社員は「ある町で病気になった人となっていない人とか、ドラッグストアで何かを買った人、といったフレームでデータを取るのはどうか」と提案しました。本村さんは「賛成。ドラッグストアはチャンスがある。フレームを変える発想が大事だ」と応じました。

サロン終了後、参加した20代男性に聞くと、「どんなビッグデータを取るかという設定は、提案する人の個性が出る。人の感情は測れないので、『場の空気』をビッグデータ化できないかなと思った」と話しました。20代女性は「同世代のいろんな人と接して、人脈だけでなく視野も広がった」と手応えを感じていました。

佐久間さんは「適塾のように、長く続けて活動できるコミュニティーに育てていきたい」と話しました。

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