藝大生と『ニャッキ!』スタジオが制作 クレイアニメで食品ロスを考える:朝日新聞DIALOG
2019/10/01

藝大生と『ニャッキ!』スタジオが制作
クレイアニメで食品ロスを考える

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年間600万トン以上の食品ロスが発生する日本。これは国民1人あたり、毎日、大きめのおにぎり1個(お茶わん1杯)分の食べ物を捨てている計算になります。「大量に捨てているのは、スーパーや飲食店では?」と思うかもしれませんが、実は、その約半分は家庭で廃棄されているのです。

この問題に国を挙げて取り組むため、5月には「食品ロス削減推進法」が制定されました。しかし、大量の食品がムダになっていると頭ではわかっていても、身近な問題として捉えることはなかなか難しいものです。そこで、九都県市首脳会議(*1)の廃棄物問題検討委員会は、食品ロスについて考えるきっかけを提供し、食品をムダにしないライフスタイルの実践を呼びかけるため、クレイアニメーションを制作しました。その制作風景をリポートします。

クレイアニメとは、粘土(クレイ)で被写体を造形し、1コマ撮影するごとに造形物に手を加えることで動きを表現するアニメの一種です。制作を担当したのは、アニメ『ニャッキ!』(NHKEテレ)の作者として知られるディレクターの伊藤有壱さん(57)と、伊藤さんが教壇に立つ東京藝術大学大学院の立体領域ゼミの大学院生と修了生です。

取材時は、食品ロスの削減を訴えるアニメのシンボルともいえる「おにぎり」を制作していました。スタッフの大学院生が、実物のおにぎりを見ながら、クレイでお米の1粒1粒を丁寧に造形していきます。

伊藤さんのアドバイスで、海苔のり にもヘラで凹凸をつけ、よりリアルな質感を出します。

できあがったおにぎりを撮影台に載せ、モニター越しに確認すると、肉眼で見るのとは違った印象を受けます。

「グロテスクな印象にならないよう、もっと米粒を全体になじませて。あと、角を削って、丸みを帯びた形にしましょう」

伊藤さんの指示に従っておにぎりの造形をさらに整え、レフ板の位置を微調整して光の反射の仕方を変えていきます。

全体が整ったら、いよいよ撮影に入ります。シーンによって異なりますが、1秒間のアニメを作るのに、平均6~10カットの静止画を撮影するそうです。また、ふわふわとしたものの気配を演出するため、1カットごとに指でクレイをならし、微妙な凹凸の変化をつけていきます。

大学院生5人と修了生、そして伊藤さんを合わせた7人態勢で、デザイン画作成から撮影まで4~5週間かけて制作が進められました。そして、できあがったアニメがこちらです。

この作品に込めた思いやこだわりを、伊藤さんに聞きました。

「クレイアニメには、ともすれば子どものものというイメージがついて回りますが、今回は食品ロスの削減がテーマなので、大人にも響くように、ユルさの中にリアルなポイントを作ることを意識しました。具体的には、いわゆる幼児色と呼ばれる色をほぼ使わず、オフトーンという少し抑えた色のクレイで造形しました」と伊藤さん。

また、クレイアニメの魅力について尋ねると、「見る人にフレンドリーに近づけるところです。食品ロスの深刻さを、一人ひとりに皮膚感覚で感じてもらうには、クレイアニメはいい手法だと思います」との答えが返ってきました。

制作に携わった大学院1年の池田夏乃さん(25)は、「いつもは、自分が何を伝えたいかを考えて作品を作っていますが、社会と直接かかわるプロジェクトに参加できて、自分のやっていることが社会に影響しているんだと感じることができました」と話していました。

九都県市首脳会議廃棄物問題検討委員会は、このアニメを様々な場所やタイミングで公開し、食品ロス削減の啓発キャンペーンを進めていく予定です。

食品ロスを減らすために、私たち一人ひとりに何ができるか、一緒に考えてみませんか?

(*1) 九都県市首脳会議: 埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県の知事、横浜市・川崎市・千葉市・さいたま市・相模原市の市長により構成され、広域的課題に共同で積極的に取り組むことを目的とした会議

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