DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2019/10/08

アーサー・ビナード×大友剛が語る「こどもの未来」紙芝居はとても強いメディア

Written by 乙部修平 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 石黒シエル(POTETO)

娯楽や情報があふれ、めまぐるしく変化していく現代社会で、子どもたちはどのように育っていくのでしょうか。詩人&絵本作家のアーサー・ビナードさんと、ミュージシャン&マジシャン&翻訳家の大友 ( たけし ) さんが「こどもの未来」について語るトークショーが6月14日、東京・神保町で開かれました。「二人のシェフの濃厚テリーヌ トーク仕立て 絵本をちりばめて」と題されたユーモアたっぷりのイベントの様子をお伝えします。

人間ジュークボックスで会場を魅了

今回で3回目となるビナードさんと大友さんのトークショー。約50人のお客さんが会場を埋めました。まずは大友さんがピアノの演奏を披露し、繊細で美しい旋律を響かせます。「人間ジュークボックス」のコーナーでは、会場のお客さんからリクエストされた曲を即興で弾くことも。マイケル・ジャクソンの 「ヒール・ザ・ワールド」、SMAPの「夜空ノムコウ」など約10曲を演奏し、会場を魅了しました。

会場からのリクエストに応える大友剛さん

7年の歳月を費やした自作紙芝居を上演

続いて、ビナードさんが自作の紙芝居を上演しました。タイトルは『ちっちゃい こえ』。第2次世界大戦中の広島を舞台に、ある家庭の飼い猫の視点から原爆の悲惨さを訴える物語です。絵は丸木俊・位里夫妻の『原爆の図』をもとにしています。ビナードさんはこの作品を作るために、7年もの歳月を費やして大量の紙芝居を読み込み、その歴史の研究を重ねたそうです。
「紙芝居は日本独自の素晴らしい文化ですが、日本人はそのことを自覚していません。オワコン(終わったコンテンツ)と思われがちだけど、この先も通用する、とても強いメディアだと思います」とビナードさんは語ります。
紙芝居が誕生したのは約100年前。意外にも、映画より新しいメディアで、1930年代にはトーキー映画の登場で失業した活弁士が紙芝居に転じました。昭和になると、紙芝居は子どもたちにとって一番影響力のあるメディアとなりました。そのため、戦時中のプロパガンダにも積極的に利用されました。
戦後、紙芝居の人気はテレビの普及によって衰えていったことを説明したところで、ビナードさんが問いかけます。「テレビは登場したころ何と呼ばれていたか知っていますか?」。首をひねる観客たちは「電気紙芝居」という答えを聞いて驚きの声を上げました。

自作の紙芝居を上演するアーサー・ビナードさん

アナログには元となる本物がある

では、なぜそれほど紙芝居に魅せられたのでしょうか。ビナードさんは「アナログ」と「デジタル」という言葉を挙げて説明しました。
「アナログは『比喩』を意味するアナロジー(analogy)が語源。対するデジタルは『指』を意味するディジット(digit)から派生してできた言葉で、『数』という意味も持っています。つまり、アナログは『たとえ』なので、元となる本物がある。一方、デジタルは巧妙にできたまったくの偽物です。アナログには現実との、ある種の連続性があるが、デジタルにはそれがない。人それぞれ、どちらが好きかは自由だと思うけど、僕は本物が好きなので、やはりアナログに惹かれますね」
そのうえでビナードさんは、紙芝居を「強いメディア」だと考える理由を説明しました。
「フロッピーディスクやDVDは、ハードが新しくなると使えなくなります。でも、アナログの紙芝居なら、過去に作られたものをいつでも楽しむことができる。そして、紙芝居には語り手と観客の生身の触れ合いがある。これに勝る楽しさはない。デジタルには本物とのつながりがないから、いつまでも満足感を得られません」

洞窟の外に出た人間は、みんなを諭す責任がある

トークショーの終盤には、ビナードさんと大友さんへの質問タイムもありました。
会場からは、時事問題から政治に関するものまで幅広い質問が出ました。例えばこんな質問です。「ビナードさんは日本語に魅了されて日本に来ただけで、日本という国が好きで日本にいるわけではないと聞きました。それでも現在の日本を見捨てないのはなぜですか?」
ビナードさんは、「たしかに、クールジャパンに惹かれて来たわけじゃない(笑)」とジョークを飛ばしてから答えます。「日本がどんな国かを知らないで日本に来たけど、日本語が自分の体内に入ったとき、次々に発見があった。ヒロシマ、ナガサキや東京大空襲を経験した人たちとつながると、僕の母国アメリカの政府が語っていた歴史がまやかしだとわかった」
そのうえで、プラトンの「洞窟の比喩」を引きました。
「多くの人間は、現実の中で生きていると思い込んでいる。本当は洞窟の中でつながれていて、外から漏れてくる光の影を見ているだけなのに。しかし、そのことに気がついて、洞窟の外に出る人間もいる。彼らには、そのままその場を去るのではなく、洞窟の中の人を諭し、外に出るように伝える責任があります」

フィナーレは大友さんとビナードさんのセッション。ビナードさんが原詩を読み込んで新たな訳詞をつけたボブ・ディランの『はじまりの日(原題:Forever Young)』とルイ・アームストロングの『すばらしい みんな(同:What a Wonderful World)』を、大友さんのピアノ伴奏で熱唱。2人のトークショーは拍手喝采のなか幕を閉じました。

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