
「明日へのLesson」では、次代を担う若者と第一線で活躍する大人が世代を超えて対話してきました。8回目となる今回は、初めて参加者全員が平成世代となりました。ゲストはクリエーターやモデル、歌手として国内外で活躍するkemioさん(24)。インタビューを担当したのは彩さん(22)と山内奏人さん(18)です。
kemioさんは、「あげみざわ」「人生はランウェイよ」「どこまでいっても渋谷は日本の東京」といった独特の言い回しを、軽やかな口調で話す動画が人気のクリエーターで、TwitterやYouTubeなどで計300万以上のフォロワーや登録者がいます。彩さんは昨春、単純性血管腫であざがある顔をSNSで公開して以降、様々なメディアで取り上げられてきました。山内さんは高校生の時に起業し、手持ちのレシートなどの画像をアプリで撮影して送信すれば、画像1点につき1円以上で買い取るアプリ「ONE」を運営するワンファイナンシャル株式会社の代表取締役を務めています。
kemioさんは、目線の近い同世代からのインタビューで何を語ったのでしょうか。
かっこいい人、かわいい人は別の人に任せて、ウチはもうバイバイ
彩: kemioさんの著書『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』を読みました。すごく気になったのが、小学生の頃から人をハッピーにしたいという気持ちが強かった、というところです。そう思うようになったきっかけは何ですか?

kemio: (2歳のときに、イラン人とイタリア人を父母にもつ父と日本人の母が交通事故で亡くなり)小学校に上がる前くらいまでは(親代わりの)祖父母が共働きをしていて、1人でいる時間がすごく多かったんです。その時にアメリカのアニメのチャンネルばかり見ていたんですね。色使いとか演出の仕方とかが過激だったりするので、そういうエンターテインメントを見ていて、そうなったのかなと思います。
彩: 幼い頃から悩みや、コンプレックスはありましたか?
kemio: 小中学生の頃は、見た目(のコンプレックス)が多かったですね。自分がハーフだっていうのは知らなかったんですけど、くせ毛だったりとか、色がちょっと黒かったりだとか、そういうのが嫌というか。周りの友達でそういう方がいなかったので、変なのって思ってました。

彩: コンプレックスだったところもいいんじゃないかって思えるようになったのは、いつからですか?
kemio: 僕って、めんどくさがり屋なんですね。だから(コンプレックスを直すのも)だるいってなっちゃって。例えば髪の毛で言うと、毎回、毎回、縮毛矯正かけるおカネとかないし。そういう感じになってきて、もうめんどくさいからいいや、かっこいい人、かわいい人、そういうのは別の人に任せて、ウチはもうバイバイ(笑)という感覚でした。
彩: 私には生まれた時から単純性血管腫という症状があり、顔が赤く、腫れたように見えます。もともと、Instagramに自分の撮った風景写真なんかを載せていたんですが、顔を公開したことで、新聞やネットニュース、テレビに出演するようになり、自分のことを表現してきました。同じ病気の人には、治療する人もいれば、隠す人もいます。私はどっちかというと、相手がそれを理解してくれればいいんじゃないかなと思う。そこがkemioさんとすごく似ている気がします。相手の考え方を変える、という手段を使っているところが。
kemio: おっしゃる通りです。なんか、似たような人が集まってくるって言うじゃないですか、ことわざとかで。「類は友を呼ぶ」じゃないですけど、僕は楽しい仲間が中学ぐらいでできたので、(コンプレックスをなくすには)そっちのほうが近道だったなと思いますね。
頭の中がファクトリー
山内: kemioさんって言葉がすごく特徴的ですが、kemioさんにとって、言葉とはどういうものなんですか?

kemio: とりあえずコミュニケーションの道具、くらいしかないですね。でも本当に僕って
彩: 昨年、私が病気のことを公表し、何回かメディアで取り上げられると、肯定してくれる人もいたけど、
kemio: 否定的な意見が飛んでくるのって、僕だけじゃない。皆さん世界中、家の外に一歩出たら、戦場じゃないですか? みんな会社でつらい思いしてるし、誰かしら攻撃してくる。だから、べつにいいかなっていう感じです。表に出るというのはあくまでもオプション、みたいな考えをしているのかなと思ってます。発信したいという気持ちのほうが上で、何か面白いことがあったらシェアしたい、みたいな。シェアするとなったら必然的に表に、見てくれる人が増えたら表に出ちゃうじゃないですか。そういう感覚です。僕なんて、プライベートの切り売りみたいな生活なので。山内さんも顔を出してSNSをされてるんですか?
山内: 小さい頃から、気づいたらメディアに出されていましたから(苦笑)。10歳から独学でプログラミングを始め、小学校の時からエンジニアで、コンテストで賞を取ったりしていたので。当時は、顔は出さないでくださいとお願いできるとか分からないので、そのまま放置していて……記事にも載せられちゃって。
kemio: すごーい!
山内: kemioさんは、そうやって表に出ていくなかで、周りが考えるkemio像と、本来の自分がちょっと違う、みたいなことってないですか?
kemio: そういうのはたまにあります。でも、それに対しては口で言うようにしています。Twitterでもそういうコメントっていただいたりするんですね。動画の配信の仕方に対して、「こういうこともしちゃうんだ」とか「こういうことする人だと思わなかった」とかって。そういうのが、相手をもし傷つけている場合だったら、きちんと謝罪はします。でも、皆さんが僕の全部を知っているわけではないし、僕も応援してくださる皆さんのことを知らないので。だからそういうギャップが生まれたら、動画かどうかは分からないですけど、発言はしようと思っています。
山内: 自分らしさを伝えていくうえでのルールは何でしょう?
kemio: 自分らしさというワードを脳から削除する。昔から「〇〇らしさ」という言葉が、いくらググりたおしても、辞書を引いても理解できなくて。このお仕事をしていても、「kemio君らしさを出してください」とか、撮影とかでよく言われたりするんですね。でもなんかkemio君らしさというか、自分らしさとかって考えたことあんまりないじゃないですか。たぶん相手の方に「ここよく笑うよね」とか、「ここでよくこういうことするよね」っていうように思われている。それが自分らしさなのかもしれないけど、本当にそうなのかなっていう感覚なので。自分らしくいこう、とかっていうワード一つに縛られるのって、よくないのかなって考えたりします。
ネットの数字がメンタルヘルスに影響するってムカつく
彩: Instagramで「いいね」数を非表示にする運用が、日本を含めた数カ国で試験的に行われています。どうお考えですか?
kemio: 「いいね」の数はあんまり気にしないようにはしてます。お仕事とかの話になってくると、ソーシャルインフルエンサーとかをやられてる人って、その数字で仕事ができているので、そういうナンバーが表示されないのは、クライアントの方とかとの信頼感とか、そこで問題になってくるのかなという気はしました。でもなんだか、インターネット上の数字一つが人間のメンタルヘルスに影響を与えているだなんて不思議な話ですよね。たまにムカつきますよ。ムカつきませんか? 数字で何か見られること。
彩: 私は、みんなが数字じゃなくて感性に委ねて写真を見てくれるようになるんじゃないかなと思っているんですけど、SNSはこの先どうなっていくと思いますか?

kemio: ただでさえ僕たちの世代って、SNSってすごく大きいこと、絶対ついてくるものじゃないですか。どんどん大きくなっていくと思うんですね。だからこそ、線引きをすることって超大事だなと思います。今って、友人とか、人の私生活が必要以上に簡単に見れてしまうわけじゃないですか。1人でいる時に友達のストーリーとか見たら、自分がいないところでみんなが遊んでたりとか、パーティーに出かけていたりとか、こんなもの買ってるとか、あんなおいしいところでご飯食べてるとかシェアしてるのを見て、僕もそうならなきゃ、こういうところでご飯食べなきゃ、シェアしなきゃという感覚になっていく気がしちゃうんですね、たまに。でも考えてみると、ぶっちゃけ SNSって、みんな自分のハッピーだった瞬間をシェアしてると考えて落ち着く時があるので、その線引きはいつもするべきなのかな。SNSだけがすべてとか、こうなるべきじゃない、こうならなきゃとか思うのは、あれなのかなと思います。
山内: 僕は定期的にInstagramのアカウントを消すんですよね。例えば小学校の時の友達と、中学校の時の友達と、今の友達って違うじゃないですか。僕はそれを1回ずつ変えていきたいんです。上書きして関係を清算しているって感じですね。
kemio: 大変そう……。でも、僕もLINEのアカウントは消しますよ。LINEの友達が増えてくると、なんだか不安になるんです。
彩: もともとkemioさんのスタートって、 Vine(2013年にサービスが開始された、6秒間の短い動画を共有するSNS)でした。でも、そのVineも媒体自体が17年1月になくなりました。Instagramの最近の動きを見ていると、視聴者側の見方も含め、いろんなものが変わっていくんじゃないかと思うんですけど?
kemio: 確かにSNSって運営会社側がルールを握っているので、僕もこのゲームのワンプレーヤーとして、向こうにシャットダウンされたら、僕がやってることもなくなるかもしれない。だからこそ、向こうのことも利用するツールとして僕は考えてますね。利用できるものは利用してやろうっていう感覚ですね。
Instagramに関しては、他のソーシャルメディアの機能を全部持っていこうとするんじゃないですか。YouTube の部分も食べちゃうし、 Twitterの部分も食べちゃうし、みたいな。ストーリーとか、IGTV(Instagramが提供する動画アプリケーション)とか、動画の商品をタグ付けしたらそのまま買えるシステムとか、必死に頑張ってるイメージがあります。ただ、僕は映像が最終的には上に上がるんじゃないかなと思っています。SNS上の宣伝でも、やっぱり動画で言葉を付けて説明するのと、写真1枚とでは全然違うらしいですね。そう考えるとやっぱり、人がちゃんとしゃべっているのが大事なのかなって気はします。
彩: みんなSNSをやりすぎて、もしくは出すぎて、逆にやめる時代がいずれくるんじゃないかな、とも思ったりするんですが?
kemio: テレビ離れと最近言われるじゃないですか。僕はテレビの影響力のほうがまだSNSより上だと思ってるんですけど。実際、うちの祖父母はInstagramもやってないし(笑)。やっぱりライフスタイルによって、家にいる時間が多い方はテレビも見れるし、まだまだテレビのほうが強いのかなとシンプルに思います。それでもSNSの存在感が叫ばれるのは、家にいる時間より外にいる時間のほうが多いからだと思うんですよ。スマートフォンが常にあるじゃないですか。テレビは外に持っていけないから。これがある限りは、SNSのほうがどんどん大きく広がっていくんじゃないかなと思います。シャットダウンしない限り。
活字にタイマン張ろうと思って本を出しました
彩: そもそも、『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』はどんなきっかけで出版したんですか? SNSとは対極の紙メディアですけど。

kemio: きっかけとしては、2、3社くらいからオファーをいただいたことだったんですが、スタイルブックのようなものを出してください、というのが多かったんです。でも僕って、SNSで自分のファッションとかスキンケアとか無料で公開してるので、わざわざスタイルブックにしてお金を取るまでの情報量が自分の中にないなと思って。それで、せっかく本を出すんだったら書籍のほうがいいだろう、活字にタイマン張ろうと思って、こういう形にしました(笑)。僕自身、本は全然読まないんですけど、フィジカルなものがたまに恋しくなる瞬間ってあるんですね。例えば、アメリカの音楽業界はほとんど全部ストリーミングなんですけど、その中で最近、新曲をレコードとかカセットテープで出す人が多くて。僕も同じで、好きなものとかは残しておきたいっていう感じなので、だから本にはすごく興味がありましたね。本というものを買ってもらって、手にとって読むという作業って、意外と大事なのかなって思いました。
僕の中ではこの本で何かを変えたいとか、皆さんをこうしたいとかいうのってゼロで、どちらかというと、人生の中の「生き方プランB」こちらです、という感じですね。あ、こういう感じでも生きれるんだ、オッケー(笑)みたいな感じの価値観というか。それをシェアする感覚だと思います。
彩: 本を読んでいて印象に残ったのが、基本ポジティブだけど、ネガティブな時間もすごく大切にしているなと思って。そこは意識的に大切にしているんですか?
kemio: 感覚というか、病むタイミングがきたら病むという感じですね。でもそういう時って、自分がいちばん自分に向き合ってるというか、考えてるというか、レベルアップにつながるチャンスだと思っているので、ちゃんと考えるようにはしています。
彩: 自分に自信がない人やコンプレックスを持っている人から相談やDMがきたとき、いつも答えることや、絶対に言うことはありますか?
kemio: 僕もぶっちゃけ超自信なかったんです、昔から。ずっと芸能界で働きたいとか思ってて、オーディションとか応募してたんですけど、人の顔色をうかがうタイプの子どもだったんですね。「あ、いま笑ってるから、こうしとけばみんな笑ってくれるな」とか、めっちゃ見ちゃうタイプだったんです。でも、自分で発信を始めてから、いろんな人が賛同してくれて、自信がつくようになったんですね。だから先ほどの話ともつながるんですけど、SNS がどんどんでかくなってきているぶん、誰もが発信できたり、電波塔になることができたりするので、そういうことは何かやってみればいいんじゃないかなと思います。好きなことがあるなら配信していくと、人にどんどんつなげていける。そういう作業はすてきだなと思います。
山内: そうした生活をしていくなかで、全部やめたいみたいな瞬間とかあると思うんですけど、それでも続けていく原動力って何ですか?
kemio: まずは寝ちゃいます(笑)。あとは祖父母ですかね。何かあった時は、祖父母のことを一番に考えるようになりました。日本に住んでた時は反抗期もあったんですけど、3年前くらいにアメリカに引っ越して1人の時間が増えて、そう思うことが多くなりました。血のつながりって最強って思います。
人生や家族のかたちは自分で描くべきもの
彩: 自分で自分を表現するのと比べて、自分のことを人に表現してもらう時って、やりづらいなと思うことはありませんか?

kemio: 僕は高校生の時にソーシャルメディアを始めたんです。ぶっちゃけ、全部自分で演出してできるじゃないですか。編集次第で、いくらでも自分のこと面白くできるんですよね。だから18歳で高校卒業して、テレビのお仕事をさせてもらう時に、泡吹くくらいパニクったんですね。それまでは1人で生放送とか、これしゃべりたい、このコメントを拾いたいとかやってたんですけど、楽屋があって、楽屋に台本が置かれていて、ここでこの言葉を言ってくださいってカンペが飛んできて、横見たら「大御所めっちゃいるやん」。「刃向かえないぞ」ってオーラも出てて……。結局、僕、何もしゃべれない子みたいになっちゃったんです。ネットで「テレビだと全然違うから、あのキャラは作ってる」とか言われて、ワーオって思った時期もあって。
人と一緒にお仕事することに対しては、今はすごく興味があります。1人で仕事をしていたら飽きそうっていうだけですけど。全部1人じゃないですか、YouTubeも。やっぱりみんなで一つのものを作り上げるって、すごくすてきなことだと思うんです。それこそ学生時代の文化祭とか超恋しくて。あの感情って、ずっとあるべきだなって思っていて。みんなで何かものを作ることとか、定期的にやっていくべきだなと思いました。
山内: 自分の会社は社員が増えて20人近くいますが、全員が僕よりも年上です。最近仕事をしていて、この人生じゃなかったらどんなことをしていたのかなって考えたりするんです。そういう時ってありますか?
kemio: 想像できないですね、ぶっちゃけ言うと。さっきのアメリカの話で、引っ越してなかったらどう思いますかとか、今変わっていたと思いますかとか聞かれるんですけど、ぶっちゃけ分からないですよね。1カ月先のことすら分からないから、違う人生とか分かんなくね、とか思っちゃいます。でも、(自分が)自分を好きでいてほしいなと思います、今みたいに。そこは同じでいてほしいなと。
彩: 今回の本で、恋愛対象は男性だとカミングアウトしたのはなぜですか?
kemio: 18、19歳の頃には、テレビの人から「うちの番組でカミングアウトするなら、出してあげるのに」みたいなニュアンスで言われたこともありました。ぶっちゃけ、そのときに「イエス」とも言えたんですけど、僕の中では「べつに、そういう形で仕事をもらわなくても自分でできる」というふうに線を引いてました。
今回、カミングアウトしたのは、やっぱりアメリカに行ったことが大きいのかなと思います。そういうのが普通だったので。だから本でも、そのことを大々的に帯にしたりとか、そのためにわざわざ動画を作るとかも嫌です、みたいな感じでした。
彩: 仕事以外にやってみたいことはありますか?
kemio: 城を買いたい。家を買いたいです、いつの日か。あと家を買う前に、子孫を残せる態勢をつくりたいなと思います。僕は恋愛とか全然あんまり興味がないタイプなんですけど、家族はつくりたい。子孫残したくないですか? 「つなげ~」って思います。
それこそアメリカだと、男性同士、女性同士で子どもがいたりとか、スーパーで買い物してたら、男の子2人でベビーカー押してたりとか、普通にあったりするので。そういうの見ると、どんどん変わってきてるんだな、いろんな形があっていいんだなと思うようになりました。男性同士のカップルとかで、「女性の友達が僕たちの子を産む」みたいなの、耳が飛び出るような話ですよね、日本で生活してる方からすると。でも人生の、家族のあり方って、他人と決めるものじゃない。自分のやりたいというか、描きたいようにやるべきなんだなと思います。いろんな形が認められるようになるといいですよね。
彩: ホントにそう思います。
kemio: 日本は少子化と言われてますが、それってルールが整ってないからじゃないかって、よく友達と会話します。結婚したい人も、子どもをつくりたい人もいるけど、保育園がなかったり、お仕事との両立が難しかったりするのかなって。今の若い子は昔と比べて全然物欲がないってTwitterで言われてますけど、それは違うと思います。ウチら物欲あるし、子どもも普通に産みたいし。幸せなファミリーで、野原でおにぎり食いたいです!
山内: バブルの時に大学生くらいだった人たちが、そういうことを言ってるんだろうと思います(笑)。
kemio: 今って、超不景気って言われてますよね。だから、カネくれって思います(笑)。最低賃金はあまり上がらないのに、物価や消費税率が上がる。買えるならフェラーリ乗りたいし、毎日シャネルのバッグで竹下通りとかを歩きたい。夢話なので言っちゃいます(笑)。車が売れないのも、免許を取るのにおカネがかかりすぎるから。30万円って高いじゃないですか。アメリカだったら、3千~4千円ですよ。

今が未来をリフレッシュする
山内: 朝日新聞DIALOGは、2030年の未来を考える若者の集まりです。2030年の日本や世界って、どうなっていると思いますか?
kemio: 不明(笑)。不明じゃないんですか? だってAmazon にもタイムマシンって売ってないんですよ。僕自身は、(2030年の自分に)体をいたわっててほしいなと思いますけど。そういう質問はすごい聞かれるんですけど、僕ってタイプ的に、計画して生きていきたくないんですよね。YouTubeでもそうですけど、いつも当日に撮って編集して上げます。だからもう間に合わないんです。撮りだめとかあんまりできないタイプ。だからなんだろうな……考えないようにして生きていきたいなと思って。シンプルに、いつ死ぬか分かんないなあと思ってます。あと、今が未来をエフェクトというか、リフレッシュしていくと思っていて。未来のことばっかり考えていたら、今のこと誰がやるのっていう感覚ですね。今やってることが未来につながる、自分につながると思っているので、今とちゃんと向き合うべきなのかな、そう思うようにはしています。逆にどう思うんですか、皆さん?
彩: 今っていろんな人が表現できるようになって、いろんなものがすごいスピードで変わっていくじゃないですか。逆にそれが疲れちゃうというか。ファッションでもアートでも単発的にパンと出したものが売れるというよりは、すごくじっくり時間をかけて作ってきたものが評価されるようになっていくんじゃないかなと思います。
山内: 単発でパンと上がってるように見えるものって、実は後ろでめっちゃ準備してたりするんですよ。
kemio: カルチャー的な話で言うと、確かに最近、消費されるスピードが非常に速いと思うんですね。おっしゃったみたいに、誰もが今、発信できるじゃないですか。それが増えすぎていて、一つひとつのものが、ありがたみとか、本当は評価されるべきものが簡単に終わっちゃうんじゃないかなというのは、すごく思いますね。
彩: 今やっていることをつなげて、これから先やってみたいことはありますか?
kemio: 質問コーナーとかで、「好きなこととか、将来やりたいこととかないんですけど……」って言われることがよくあるんですけど、やりたいことなくても、探すことはやめないほうがいいなと思ってるんです。自分の話だと、アメリカで演技の仕事というか、英語をもっと使ったエンターテインメントの仕事はしたいなと思っています。もともと自分がアメリカに行ったのが、エンターテインメントのお仕事をしたいっていうところからなので。高校卒業して芸能界でお仕事していくと、そういう現場って自分より年配、年上の先輩がいっぱいいて。会話していくなかで知らないことがメチャクチャあって、自分の頭の中、空っぽだと思ったんです。それって、世間の方からも「ただのポッと出が」とか思われてるんだろうなと。それがすごく僕の中ではコンプレックスで。人ができない、人がしたことがない経験をしたいと思って、アメリカに行きました。それが、いちばんでかかったですね。そこで経験したことを、自分なりに発信できるようになりたいなと思ったんです。
彩: 今後もこういう自分でありたいとか、こういう自分だったらいいなみたいな、理想の自分ってありますか?
kemio: どんな状況にいても、自分が自分の味方でいてほしいなって思います。なんでもかんでも他に求めるんじゃなくて、自分が自分に大丈夫って言ってあげられる存在でいてくれたらいいんじゃないかなと思います。

インタビューを終えて
DIALOGの学生記者、黒澤太朗です。インタビューが行われた約2時間、会場はkemioさんが作り出す独特の柔らかい雰囲気に包まれました。それはkemioさんが紡ぐ特徴的な言葉によるところが大きいのですが、しかしその端々から、kemioさんの持つ強い「芯」が伝わってきたように思います。カルチャーやダイバーシティー、そしてこれからの社会まで、様々な話題を真っすぐな目で見て、自分の意見をきっちりと述べる姿が非常に印象的でした。また、SNSという21世紀のコミュニケーションツールを武器にして自分を発信する立場だからこそ抱く思いをたくさん伺うことができ、とても貴重な機会だったと感じます。
では最後に、インタビューした2人の感想をご紹介します。
kemioさんの肩書は「kemio」(彩)
お話を聞いていて、kemioさんは「今」をとても大事にされていると感じました。「昔の自分の責任は今の自分に、未来のことは未来の自分に任せる」という思いが印象的でした。先のことはそこまで考えないけれど、今の積み重ねがkemioさんを作っていることがよく分かりました。また、日々、自分の気持ちと素直に向き合い、ポジティブ、ネガティブどちらの自分も素直に愛している印象を受けました。
インタビューを通して、いちばん強く感じたことは、kemioさんは肩書が「kemio」であり、何かに当てはめようとしても当てはめられない人だということです。それが、kemioさんの魅力であり個性だと感じました。私自身、いつかは「彩」という肩書で人生を歩んでいきたいので、kemioさんのように様々なことに挑戦して、人生を、今を大切に楽しんでいきたいと思います。
「個」の力が強くなっていることを実感した(山内奏人)
僕はインターネット業界で仕事をしています。今回、kemioさんに初めてお会いして、改めて感じたことがあります。それは「個」の力が強くなっているということです。 これまでメディアビジネスでは媒体や事務所の力が強かったのですが、個をエンパワーするテクノロジーが発達したことや、テクノロジーの発達によって媒体が飽和してきたことで、個の力が強くなりました。それは、個の力が媒体をしのいだというよりも、媒体が一般化したことによって透明になり、今まで以上に、個にフォーカスが集まるようになったからだと思います。 その結果、「いちばんパワーを持っているのが個」という勢力図ができあがってきています。 そうした勢力図になりつつある今、テレビや新聞、そして各ネットメディア、モバイルサービスらが、どういうスタンスや意図を持って個とやりとりし、どういう関係性を築いていくのか、とても楽しみです。

【プロフィル】
kemio(けみお)
1995年、東京都生まれ。高校生だった2013年から始めた動画共有アプリVineへの投稿で人気を集め、カリスマ動画クリエーターとしてYouTubeを中心に活動。「あげみざわ」などの独特な言葉は「kemio語」と呼ばれる。16年に生活の拠点を米ロサンゼルスに移した。モデルや歌手などとしても活躍中。著書に『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(KADOKAWA)。
彩(あや)
1997年、千葉県出身。女子栄養大学栄養学部卒。単純性血管腫であざがある自身の顔をInstagramで公開したことをきっかけに、新聞やネットニュース、テレビに出演。アートモデルなども務める。写真を撮ること、話すことが好き。
山内奏人(やまうち・そうと)
2001年、東京都生まれ。慶応義塾大学1年。6歳のときに父親からパソコンをもらい、10歳から独学でプログラミングを始める。12年に「中高生国際Rubyプログラミングコンテスト」の15歳以下の部で最優秀賞を受賞。16年にウォルト株式会社(現ワンファイナンシャル株式会社)を創業し、代表取締役に就任。最近、お茶の魅力にはまっている。